無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい

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第1章 イリス大陸編

第7話 登録試験

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 ギルマス代理からいくつかの質問を受けて面接は終了した。

「最後に登録試験だが、単独で達成難度F級の依頼を達成できれば合格だ」

 ギルマス代理はカウンターに一枚の依頼書を出す。依頼書には植物の絵が書かれていた。

「本当はF級の依頼なら何でもいいんだが、俺のおすすめはこれだ」
「えーっと、サイク草の採取?」
「ああ、薬草集めだ。一番安全で簡単な依頼だし、需要もそこそこある。ただ、冒険者人気は皆無だがな」
「誰もやりたがらないんですか?」

 不動颯太ふどうそうたは、薬草採取など簡単でつまらない依頼だから誰も受けたがらないのだと思った。だが、全く別の理由があることをこの後、知ることとなる。

「ちょっと待ってろ」

 ギルマスは奥の部屋で入り、またすぐに出てきた。大きな瓶を脇に抱えて。そしてそれをカウンターに置いたかと思えば、ギルマス代理はペストマスクのようなものを装着した。

「おいまさか……」
「やめろよ! こっちはメシ食ってんだぞ!」

 ギルマス代理がマスクを装着したのを見た他の冒険者たちが一斉に文句を言い、鼻を摘まみ始めた。

「うるせえな、ここは飯屋じゃなくてギルドだぞ! 文句があるならレストランへ行け!」

 ギルマスは文句を言う冒険者たちに反論しながら、固く閉じられた瓶の蓋をあける。その瞬間、異臭が解き放たれた。

「うわっ、臭っ」

 瓶の中から取り出したのは、さらに一回り小さな瓶。その中には依頼書の絵と同じ植物が入っていた。
 匂いはアンモニア臭に近い。だが瓶ごしの臭いなので鼻を摘まむほどではなかった。

「おい、ちょっと顔近づけてみろ」
「……はい」

 瓶に鼻を近づけるように言われたので、不動颯太は嫌がりつつも恐る恐る顔を近づける。すると、ギルマス代理が一気に瓶の蓋を開けた。

「かはッ!?」

 ツンとした強烈な刺激臭に襲われ、不動颯太は鼻を押さえながら悶絶しかけた。目に涙を浮かべ、せき込む。その様子をギルマス代理は面白おかしく笑った。

「あーくっせえ!」
「おいここまで臭いが来たぞ!」

 周囲の冒険者たちは迷惑そうにしながらも、不動颯太のことを気の毒そうに笑った。

「覚えたか? これがサイク草の臭いだ。独特な臭いだが、調合すると薬になるらしい。誰もやりたがらないのは説明するまでもないな。だが、これが生えてる場所は動物や魔獣が寄り付かない。だから安全なんだ」

 ギルマス代理はサイク草の瓶を片付ける。
 通常時なら納得の理由だが、鼻の痛みに苦しむ今の不動颯太にはそんなこともはやどうでもよかった。

「クソ、飯が台無しだ。リーブス、換気してくれ」
「はいよ。風に吹かれて、ブリーズ」

 リーブスというB級冒険者の男が聖法を発動させ、風を起こす。サイク草の臭いは風に吹かれてすぐに消えた。彼は風の聖法使いだ。
 聖法使いは精霊から加護を受けた百人に一人の人材であり、火や水や風などの自然現象のいずれか一属性を操ることができる。

「今はだいたい正午だから…… 結構近場に生えてるし夕方までに採って戻って来い」
「え、今からですか!?」

 不動颯太は鼻の調子が段々と良くなってきたが、まだ鼻声だった。

「ほら、俺のマスク貸してやるから」

 ギルマス代理は先ほど着けていたマスクを不動颯太に渡す。マスクの尖った先端の部分には様々な種類の薬草が詰められていた。
 マスクを受け取った不動颯太は露骨な嫌な顔をして受け取った。

「あ、そうそう。別に疑ってるわけじゃないが持ち逃げとかされても困るから、保険で銀貨一枚置いてってくれ。後で帰すから」
「はい」

 誰が中年男性着用済みのマスクを持ち逃げするのか、と思いつつも、不動颯太は銀貨一枚をギルマス代理に渡す。

「そんな嫌そうな顔すんなって。別にやばい魔獣なんで出やしねーよ。あ、でも動物とか魔獣が全く出ないわけじゃあないからな。まっ、言っても弱えのしかでないから安心しろ! がはは」
「頑張れよ新人!」
「まだ入れてないんだから新人じゃないだろ」
「死ぬんじゃねーぞ!」

 ギルマス代理と他のギルドメンバーたちにからかわれながら、不動颯太は初の薬草採取に不安そうに出掛ける。

* * *

 同時刻、勇者任命式が終了したメイム王国城にて。

「あの…… 騎士団長!」
「なんでしょう、クヌギ卿」

 功刀聖子くぬぎせいこは、自身の師であり城の人間で最も関わりのある騎士団長を呼び止めた。

「その…… 今朝、出て行った不動くんは、これからどうなるのでしょうか……」
「……彼のことが、心配なのですか?」
「はい……」

 騎士団長は少し驚いていた。功刀聖子の様子が普段とは違っていたからだ。いつもならば常に冷静沈着で、誰にも興味がないという立ち振る舞いであったが、今はなぜか酷く動揺していたからだ。

「そうですねえ。正直なところ、この国で生きていくのは厳しいでしょう。もし兵士や冒険者になったとしても彼では……」

 死んでしまうかもしれない、と騎士団長は言いかけたが、功刀聖子のとても不安そうな表情を見て言葉を詰まらせた。

「なんとか、なんとか出来ないのでしょうか?! 例えば、騎士団長の権力で騎士団に入団させるとか……」

 騎士団長は驚いた。功刀聖子の発言とは思えない、ありえない発言だったからだ。聡明で寡黙で謙虚な彼女がこんなことを発した異常事態に、騎士団長はひとつの可能性を思いついた。

「クヌギ卿……まさか、彼のことが……」
「…………」

 功刀聖子は意表を突かれたように黙り込んでしまった。そして、うつむいて赤面した。
 この時点で騎士団長は確信した。功刀聖子が不動颯太に好意を寄せているという事実を。

 功刀聖子はこれまで、人前で女性らしく振舞おうとしたことがなかった。特段、父親から男らしくあれなどと言われていたわけではない。剣道場の跡継ぎとして、父親の期待に応えようとあえて自分らしさを封じ込め、家でも学校でもクールに装っていたのだ。剣道に対する想いこそ真剣だが、本当は小さくて可愛いモノが好きで、とても少女らしい一面を持っていた。

 功刀聖子が不動颯太が好きになったきっかけは、高校に入学した日、教室で初めて彼の姿を見た時だった。

「(えっなにあの子、ちっちゃい、かわいい! え、小中学生の迷子とかじゃないよね? 嘘、あのかわいさで男子高校生!?)」

 クラスで最も背の低い不動颯太を見た瞬間、功刀聖子は琴線に触れた。一目惚れだった。
 それから功刀聖子は、不動颯太をよく観察し、その言動の子供らしさを見る度に胸を締め付けられる感覚に襲われていた。話しかけたい思いはずっとあった。だが、小中学生の頃からずっと寡黙な性格を装っていたため、恥ずかしさが勝ってしまい、事務的な会話をする機会があっても素っ気ない態度を取ってしまっていた。
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