無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい

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第1章 イリス大陸編

第3話 スキルの特訓 前編

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 スキル鑑定が終了すると生徒たちは別棟の居住区画に案内され、生徒全員に一人一部屋ずつ与えられた。軍隊の寮舎だが将校や幹部用の施設であり、生活に必要な設備が揃っている上に各フロアに使用人がついている。この世界の基準で言えば最高級ホテルに宿泊することと相違ない好待遇である。

「なんか俺だけパッとしないスキルだったなぁ…」

 不動颯太ふどうそうたは部屋に備え付けられていたソファに深く腰掛けそう呟く。
 彼以外の生徒は皆、名前を聞いただけでその凄さが分かるほど強力なスキルであった。それゆえ自分のスキルがあまり強力とは思えないものであったことに対し、疑問と不満を抱いていた。

「暇だし、スキルの練習でもしてみるか。晩成型のスキルかもしれないし」

 手に入れたスキルが如何に強力であろうと、即戦力になるとは限らない。功刀聖子くぬぎせいこの「剣帝」がまさにそうだ。彼女のスキルの真価は剣の成長能力にある。そのため、生徒たちは勇者の正式な任命の前に一か月の訓練期間を設けられた。

「最大一立法メートルとは言っても、最初はまず小さい物からだよな」

 不動颯太は部屋に置いてあった手のひら大の兵士の置物を床に置き、その前に胡坐をかいた。そして心の中で「アスポート」と念じた。

「……だめか」

 置物は微動だにしない。

「アスポート!」

 今度は置物に両手をかざし、声に出してスキル名を唱えた。念じてだめなら発声してみてはどうかという考えだが、それでも置物は動かない。

「うーん…… どうやったらスキル使えるんだ?」

 不動颯太はスキルを発動させるために色々な方法を試した。
 置物が移動する様を映像として明確にイメージしてみたり。目を瞑ってみたり。スキル名だけでなく具体的な文章で念じてみたり発声してみたり。様々な態勢で構えてみたり。気合いを入れてみたり。

「あー全然だめだ、発動すらできない」

 あまりにスキル発動が上手くいかないので、不動颯太は段々と不安になってきた。本当に自分はスキルを獲得しているのだろうかと。本当にスキルなどこの世に存在するのだろうかと。

「まあいいや。今日はゆっくり休むもう、色々あって疲れたし」

 あまり深く考えないようにしようと決めた不動颯太は、再びソファに腰掛ける。

「スマホが無いと暇だな……」

 ソファにひじ掛け頬杖をつき、窓からの景色を眺めながら地球文明の利器に思いを馳せる。
 今日は初日ということもあり、寮舎の中でなから一日自由に過ごしてよいと指示を受けているので、不動颯太はこのまま部屋で休むことにした。


 翌朝、生徒たちは講堂に集められた。

「いいですか。勇者というのは本来、超強力なスキルを持ち、大きな功績を残してなお戦い続ける英雄に与えられる称号なのです。国民から慕われる存在であり、王族のように優遇されます。だからこそ、貴方達は勇者たる力強さ、勤勉さ、人格、正義感、道徳観を身につけなければなりません」

 卓についた学者が勇者とは何たるかを熱弁している。その様子をある生徒は真剣に、ある生徒はつまらなそうに、ある者は興味津々に聞いている。
 これは勇者学の授業だ。生徒たちは召喚されたばかりであり、この世界に対して無知である。そのため、この一か月の訓練期間で身体的な訓練に加えて、座学を受けるスケジュールが組まれた。
 今日は午前中に勇者学と歴史を学ぶことになっているが、明日以降も世界観学、常識、法律、語学、道徳、兵法などを学ぶ予定である。
 これでは地球の学校とやっていることが変わらないではないか、と幻滅する生徒もいたが、勇者としての将来ビジョンを思い描き満更でもない様子であった。

 午後はスキルの訓練の時間が割り当てられているため、生徒たちは昼食後、屋外の訓練場に移された。
 生徒たちは芝の生えた訓練場で三つのグループに別けられ、指南役の騎士がつけられた。

「任意発動型のスキルは、他のスキルと違って自覚が大切なのです。スキルが自分の力であり、自分の一部であり、自分がスキルを使っているという自覚が。そのため、自身のスキルをよく知り、よく使いましょう。最初は発動すらも難しいですが、訓練によって必ず使いこなせるようになります」

 不動颯太が属しているこのグループは、任意発動型と呼ばれるスキルを持った者たちだ。
 スキルは晩成型と発動型に分類できる。さらに発動型は任意発動型、自動発動型、常時発動型に分類できる。
 不動颯太の【アスポート】や、間英時はざまえいじの【時間停止】は、自身の意思で発動させるタイプのスキルなので、任意発動型に分類される。

「訓練つってもなぁ、俺らどうすりゃいいんだよ……」
おさむのスキルって【超再生】だっけ? どんな怪我でも一瞬で治るんだろ? だったら怪我してみたらいいじゃん」
「いや、痛いのは嫌だよ」

 二人の生徒―― 生谷治いくたにおさむ狩野春斗かりのはるとが城壁に持たれかけ、他のグループの訓練の様子を眺めながら会話をしている。
 彼らが属するグループは、自動発動型と常時発動型のスキルを持つ者たちのグループ。自身の意思ではスキルのオンオフが利かないタイプのスキルだ。
 例えば、生谷治のスキルは【超再生】であり、これはどのような怪我や疾患も生きてさえいれば瞬く間に完治するというスキルだ。怪我を負った時点で自動的に発動するスキルである。
 狩野春斗のスキルは【スキルハンター】。これは殺害した相手のスキルを奪うというスキルだ。神法スキル使いを殺した瞬間に自動的に発動する。スキルが発動するごとに戦闘力が成長していくので、ある意味では晩成型との複合型とも言える。

「あっ、見て見て! なんか金色のお金拾った! これ金貨!? 金貨かな?」

 女子生徒―― 天野幸あまのゆきが芝生の中から金貨を発見し、一人で騒いでいる。
 彼女のスキルは【豪運】。単純に運が物凄く良くなるというスキルであり、その効果が常に効いているので常時発動型のスキルである。

「うわ、あいつヤバ」
「【豪運】だっけ? 早速スキル使いこなしてるね」

 スキルの効果を遠目で目撃した生谷治はその威力に困惑し、狩野春斗はスキルが本当に存在することを実感した。
 彼らの様子の通り、自動・常時発動型のグループは自由に行動しているが、それは指南役がついていないからである。スキルの制御が利かず、効果も威力も固定なのでスキル特訓ではやることがないのだ。
 初日である今日は、まずはスキルの発動体験ということで自由時間となっているが、明日以降のスキル特訓の時間は体力作りの訓練となる。
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