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本編
2 美味しいは正義なんです
しおりを挟む――ある日突然 人類を怪獣が襲った。
出現当初、怪獣は大地を荒らした人類への地球からの排除行動と考えられ、終末思想が世界を席巻したのであった。
しかし人類の中にも必殺技を使って怪獣を倒す人々が現れた。
それがヒーロー。
格好付けてみましたが、ぶっちゃけ真実は不明です。
しかも倒した怪獣のお肉はとっても美味でした。私は哺乳類系と鳥類系怪獣のお肉が好みですけど、魚類系や爬虫類系、スライム系を好む方も世の中にはいらっしゃいます。
第三のビールならぬ、第三のお肉の登場ですよ。怪獣のお肉はきちんと下処理を施せば食べやすく栄養満点。その上量も獲れるため今では当たり前に浸透しています。
需要と供給がぴったりマッチして、怪獣とヒーローは世間に受け入れられたのです。何だかもう、当時の終末思想とかどっかに行っちゃいました。
美味しいは正義なんです。
そしてここにも美味しい正義がお一人。
我が愛しの家庭菜園の君!
「お帰り円ちゃん。今日もこれからバイトだろ?」
ここは私の通学路、学校から自宅へと向かう帰り道です。今の家へと引っ越してから早一ヶ月が経つ。高校までは徒歩二十分だけれど、その道中に住宅街と耕作地の間のような場所を通る。
その脇の畑で家庭菜園を営むお兄さん。推定二十代。名称不明。
実は最初の頃。お兄さんから貰える野菜に夢中過ぎて、あまり話を聞いていなかったから、名前を聞き逃した可能性が大なのです。今更名前を聞けません。未だに『お兄さん』呼びで誤魔化してます。心の中では勝手に『家庭菜園の君』と呼んでおりますし。
学校のある日は放課後にほぼ毎日会うのがひと月程続いているというのに。
「はい! こんにちはお兄さん。今日も畑仕事お疲れさまです」
今日も『家庭菜園の君』は、麦わら帽子にタオルと長靴そして真っ白な歯が輝いている。
その肌は小麦色によく焼けてるけど、瞳は緑がかったこげ茶に見える。通った鼻筋といい、程よく筋肉の付いた体躯といい、外国の血でも入っているのでしょうか? 欧米系の方は日本人より皮膚がん発症率高いんですよね。UV対策をしっかりされることをお勧めしますよ!
「今日はきゅうりとプチトマトが採れたてだ。ほら持って行って」
その手には採れたての美味しそうなきゅうりにプチトマトにキャベツまでっ。
「ありがとうございます! 助かります~。でも、貰うばっかりでいつもお礼が出来なくって……」
言いながらも私はしっかりマイバッグを取出し野菜を仕舞う。
本音と建前って大事ですよねっ!
お兄さんの野菜はどれも新鮮つやつやで、とってもとっても美味しいのです。食費が浮いて貯金が出来るのも嬉しい限りです。スーパーでも見切り品のお野菜を頂いたりするけど、日持ちが全く違うからね。
「いいんだ、俺だって沢山あっても食べきれない。円ちゃんみたいに気持ちよく挨拶してくれる子に食べてもらった方が野菜だって喜ぶ」
なんて優しいお言葉っ。
お兄さんはスーパーにも買い物に来てくれる。ご近所ですからね! スーパーのパートさん達はみんな私を『円ちゃん』って呼ぶから、お兄さんにもそう呼ばれている。
思わず照れくさくなって、両頬を押さえる。
「お兄さんってば、褒めても何も出ませんよ。そうだ! 私も家庭菜園のお手伝いします。今日はバイトなのでダメですが、今度バイトのない日にでも伺います」
「いや。手伝って貰うほどのものじゃないさ」
私がデレデレと締まりのない顔を披露したからでしょうか。
それともあわよくばもっと野菜をせしめようとした、強欲さが滲み出ていたのでしょうか。お兄さんに断られてしまった。
……根こそぎ野菜を奪って行きそうに見えたのでしょうか。
「残念です、すっごく残念です……」
しゅんと落ち込んでしまう。そりゃ野菜も欲しいけど、お役にも立ちたかったのに。
「うーん。それじゃあ新じゃがの収穫の時にでも手伝ってもらおうかな」
やったね! お兄さんが折れましたっ。
「!! ありがとうございます! 大好きですっ」
あ、ジャガイモがって付け忘れ。
「――俺も好きだ」
うん、後ろにジャガイモを略してあるんですよね。
流石お兄さん、よくわかっていらっしゃる。
美味しい野菜をくれる、家庭菜園の君。
今日も貴方が大好きです。
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