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アリア
抱きしめて、離さないでくださいね 3
しおりを挟む「だめっ……です、そんなところ汚いから! ああっ」
アリアは蜜口をルーグレイの指で攻め立てられ、そのうえ花芽をぱくりと唇で挟むように咥えられて、腰をびくんと跳ねさせた。狭い隘路を広げるように動かされる二本の長い指を、膣内が勝手にきゅうきゅうと締め付ける。引き込もうとするようなアリアの肉体の淫らな動きに、ルーグレイは器用に指を抜き差しし、応えた。
声を出してはいけないのに。
静止をしようと口元の手を外すと、そのタイミングを見計らって激しく出し入れされて、乱れた声をあげてしまう。完全に狙ってやっているとしか思えない。
最初は素肌に優しく手で触れられ、たくさんのキスでくすぐられ。乳房を揉みこまれながら胸の先端を散々舌でなぶられ食まれた。時間をかけて全身に施され徐々に下がっていくルーグレイの愛撫は、ようやくアリアの秘められた場所に辿り着いたところだ。
この時点ですでに白旗状態だったのに、力の入らない両膝を開いて立てられ、下肢の間に陣取られてからは、未知の快楽はどんどん深くなる一方である。
「ふふっ、姉様ってば声全然我慢出来てないね。――全部聞かれてしまうよ?」
ルーグレイはおっとりと咎めつつ、花芽にわざと息を吹きかけるように、アリアの秘所に顔を埋めたまま話しかけた。
「ひっ、聞かれちゃいやぁ」
そんな場所で声を出さないでほしい。
服を身に着けていれば正座で説教をしたい所だけれど、今のアリアは年上としての威厳も、培ったマナーも霧散している。二十八年間知らず、この先も経験することはないと思っていた筈の感覚にぐずぐずにされて、何もまともに考えられない。
零れる声は甘ったるく掠れ、口元を押さえていた両手はルーグレイの頭を引き剝がそうとしているのに全く力が入らなくて、黒髪を力なく引っ張るだけ。これでは抵抗しているのか、頭を撫でているのか分からない。
「じゃあもう少しだから、初夜完遂まで頑張ろうね」
上機嫌のルーグレイが一旦指を抜き、三本に増やして押し込んできた。先程までよりも強い圧迫感に蜜唇が裂けてしまうのではと、不安になる。それでもアリアは必死に首を振るくらいしか出来ない。口を開けばまた、甘えたような声が漏れてしまうから。
(こんなの、聞いてたのと絶対違うと思う! 初夜は見せるための儀式だから、ほんの少し我慢すればすぐ終わりますって、司祭様はおっしゃってたのにー!)
アリアは心の中だけで涙目になりながら叫んだ。
リースデンとディアドーレでは、婚姻成立の証の立て方が違った。
ディアドーレの風習については十分に学んできたつもりだったけれど。未婚のアリアに、周りの者も皆、重要な部分を濁して伝えなかったのだ。
王族の婚姻の際には、初夜の完遂に司祭が立ち会って破瓜と吐精を見届けるなんて。
ディアドーレ王家は側妃や愛妾が認められず、厳格な一夫一妻制を貫いている。
国教の影響なのだろう。ディアドーレの人々は貴族も平民も、表向きは皆この一夫一婦制を守っているらしかった。そうして王族ともなれば、初夜に立会人が要るのだという。
アリアはこの因習を、礼拝堂での挙式が終わった後に司祭からさらっと伝えられて、倒れそうになった。
青天の霹靂とはこのことだろう。ひと月前から霹靂が多すぎる。
混乱のまま、職務に燃えるメイド達に全身磨き上げられ寝室に放り込まれたあと。初夜の決まり事を伝えに訪れた、義理の姉妹となった王太子妃に手を取りながら励まされた。
『わたくしも他国から嫁いだ身。貴女の戸惑いは理解しているつもりです。せめて司祭はとびきり口の堅い方を選んでくださるよう、殿下にお願い致しました。……明日には喉と身体に良い薬湯を届けさせます。どうか頑張って』と。
何故、王太子妃はあんなに励ましていったのか。頑張れとは、何に対してなのか。
事ここに至って、アリアにも漸く理解できた。
「もういいかな。そろそろ僕も限界だ」
ルーグレイの声と蜜口に押し付けられる熱く芯を持った粘膜の感触に、何度も指だけで絶頂させられ惚けていたアリアの意識が引き戻される。
「ま、まってください。本当に、私が妻でよいのでしょうか。こんな、身分も十分とは言えず、歳だって――んうぅっ!」
若干手遅れ感は否めないがまだ引き返せる……かもしれない。
そんな淡い期待を抱いて顔を上げると、突然嚙みつくような口づけをされた。挙式のときの優しく触れるだけのものとも、愛撫を受けているときの、じらされ身の内の欲に火を点けられるようなものとも違う。もっと原始的で本能的な、食いつくされてしまいそうな口づけ。上あごの裏を舌でくすぐり、逃げる舌を追いかけて強く絡められ、くぐもった悲鳴を上げても許されず、ルーグレイの唾液を嚥下させられる。散々蹂躙され酸欠でぼんやりしてきた頃、ようやくアリアの唇は解放された。
魂を半分食いつくされるような口づけだった。
「いい加減、その言い訳にはうんざりだ。僕を守っていたつもりだろうけれど、違う。それはアリア自身を守る薄っぺらい殻だ。そんなもの要らない」
アリアの開かれた下肢の間に陣取り、片手でしっかりと狙いを定め剛直を固定したルーグレイと目が合う。
彼は怖いくらいの無表情になったあと、とびきりの笑顔を浮かべた。
「僕は一度だって、姉様に花嫁の身代わりを務めて欲しいなんて言ってないよ。リースデンの国王の前できちんと膝を折って許しを得たし、礼拝堂でも愛を誓ったでしょう?」
アリアはこくこくと急いで頷いた。笑みを浮かべながら、ルーグレイのサファイアの瞳の奥が全く笑っていなかったから。先ほどまでの快感とは違う理由で、背筋がぞくぞくする。
「シャーロットが上手く逃げおおせたのは、僕の助力があったから。シャーロットも僕も、互いが生涯の伴侶なんてあり得ないって、幼い時から気付いていたからね」
「それならば、教えてくれても良かったじゃありませんか」
シャーロットの駆け落ちがルーグレイも公認だと知って、驚くほどアリアの気持ちは軽くなった。年齢や出自を口にしながら、きっと一番煮え切らなかったはそこだったのだ。
彼に不本意な結婚を強いているのではと、怖かった。
ディアドーレは、多くの側妃や愛妾を是とするリースデンとは違うのだ。国教は一夫一妻を掲げ、国の法律にも定められている。ディアドーレの王族は愛妻家で有名で、現国王もルーグレイの母を弔ったあと、後添えさえ迎えようとはしない。
そんな国の慈しんで見守ってきた青年の、生涯の枷になんてなりたくなかった。
「ダメだよー。そんな事したら、姉様絶対逃げちゃうから。逃がすつもりはないんだ。……うちの家族の影響というか、これは僕の性質だと思うけど。こうと決めたら絶対に譲りたくはないし、成し遂げるためなら長期戦でも苦にならない。逆に楽しい。それが愛する人の為ならば、尚更ね」
「……愛する人」
「初恋だったんだ。シャーロットが羨ましくて仕方なかった。アリアに無条件で抱きつき放題で」
「はい?」
それは、つまり。母親を思い出して抱きしめて欲しいと瞳を潤ませていたあの薄幸の美少年は。
「さあて司祭が待ちくたびれてるし、一回目に取り掛かろうか。大丈夫、何年もおあずけ食らって、そんなに長くは持たないから!」
一回目とは? それに忘れていた司祭の存在を思い出させなくても良いのでは!
そんなアリアのツッコミは、ルーグレイが笑みを浮かべたまま容赦なく腰を進め、蜜口に肉茎を押し込んできたため言葉にはならなかった。
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