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 二つに両断された身体が地面に倒れ伏す。その様を目にして、俺が一番初めに覚えた感情は安堵だった。

 ゾイトの魔法を吸収、それを糧として再生するような化け物だ。俺が魔法を当てていたならどうなっただろうか。そう考えると、恐ろしい怪物だったんだ。

 それ故に両断されてからは、あっさりとしすぎているという不気味さもある。だが、今のところは全くと言って動きは見られないのだから、死んだのだと思うよ。……多分。

「……随分、あっさり死んでくれるんだな」

 二つになった死骸を睨みながら、ゾイトは言う。

「お前もやっぱり気になるか?」

「まぁな。ボクの魔法を喰らって再生した割には呆気なさすぎる……」

「物理攻撃には弱いとか、そういう情報はないのか?」

「伝承にはそんな情報はなかったはずだ。ただ、人間を一際多く殺し、彼らに絶望を与えた化け物としか書いてはいなかった」

 とあると、あの再生能力を持ち合わせたオークの王への情報は皆無。
 なおのこと放置できそうにないな。

 そう判断した俺は、死骸の前に立って俺たちの様子を見ているフィーリネを呼んで注視してもらうと

「フィーリネちゃん。そのまま放置は危険そうだから、粉みじんにまで切り刻んでほしいんだけどできるかな?」

「……!」

 俺の問いに彼女は親指を立てた上に、何度も頷いて肯定の意を示した。
 そして、すぐさま振り返ると、手にした大剣を天へとかざし、死骸に向けて叩きつける。

 そうして鳴り響く轟音と巻き立つ砂埃。剣をただ振り下ろしたとは思えない爆発音にも似たそれは、フィーリネの一撃の強さを門が立っている。

 しかし、そんな衝撃を受けたのに、死骸は消え去っていなかった。――いや、違う。

「……ッ!?」

「……なっ!?」

「……おいおい、マジかよ!?」

 砂埃が晴れると同時に俺たちの視界に入って来たのは、フィーリネの大剣を紙一重の位置で掴み止めているオークの王の姿だった。

 未だに身体は真っ二つだが、何事もなかったかのように両腕で止めている様は不気味以上の何ものでもない。

「あれは、生きてるのか!? 死んでるのか!?」

「ボ、ボクに聞くな!?」

「――と、とにかく、フィーリネちゃん! そこから離れろッ!」

 俺の声を耳にしたらしいフィーリネは、自らの大剣を掴んでいる腕を蹴り飛ばす。そうしてできた一瞬の隙をついて脱出すると、俺たちの元までバックステップで帰ってきた。

「大丈夫だったか、フィーリネちゃん」

「……!」

 フィーリネは問いに頷いて返すと、同時に肩を落とす。
 多分、あの一撃で決められなかったことを気に病んでいるんじゃないだろうか。そう勝手に解釈して俺は苦笑。優しく彼女の頭に手を添えると

「元々アイツの再生能力が物理攻撃にまで効果が及ぶなんて想定外だ。フィーリネちゃんが気に病むことはないさ」

「……」

 『でも……』とでも言いたげな自信なさげな雰囲気を漂わせる彼女。

 別にアイツを倒せなかったからと言って俺がフィーリネを責めたりするわけも、ましてや怒ることだって無いんだけどな。

 そう考えながら、俺は彼女の頭の上で軽く手を弾ませると

「今回簡単に倒せなかったとしてもまだ次があるって。そんなに気にするな――それに、今はアイツをどうにかする方が先決だろうしな」

 視線をオークの王へと向ければ、奴は身体の断面からおびただしい血管のようなものを伸ばして両断された身体同士に伸ばしているところだった。

 そうして、血管でつながった身体は、まるで糸でに縫い合わせるかのようにゆっくりと元の一つへと戻っていくっている。

 二つに分かれた人形が、一人でに動いて自分を縫い合わせているような光景だ。

「魔法も物理も効果なしか……。随分面倒な身体をしているもんだな」

「貴様が言うか?」

「そりゃそうだ。――とはいえ、アイツの再生能力は厄介だぞ? どうするよ?」

 ゾイトへ問いかけてみれば、彼女は顎に手を添えて思考を巡らせる。

 数舜考えに浸っていたようだが、彼女は肩をすくめて見せると

「残念だが、分からない。元々オークは伝承にしか登場しないような化け物だ。それに加えて『王』なんて言葉は初めて耳にする。どうしたって情報が足りなさすぎる」

「そうか……」

 うちの知将でも分からないとなると、本当に厄介極まりない相手だな。
 再生能力。俺とは違う意味で無敵なその力。敵に回すとたまんねーよ。

 心の中で嘆息していると、ゾイトが俺の肩を叩く。

「とにかく、情報がないなら集めればいい。春崎暁人。今度は貴様がアイツの相手をしろ」

「了解だ!」

 ゾイトの指示に強く返事。

 ニカリと微笑んで首を鳴らしながら一歩前に出る。

「――やけに素直に指示に従うんだな?」

「俺は変に頭を回していくのは苦手だからな。――適材適所ってあるだろ。それが、俺の場合は前に出て戦うことで、お前の場合は後ろで補助兼頭を回すって事だっただけだ」

「……!」

「ははっ、もちろんフィーリネちゃんも忘れてないさ」

 自分を指さして主張するフィーリネに微笑を浮かべて返すと、

「だけど、今回は俺が一人で戦うよ。今は少しでも奴の情報が欲しいからな。戦いを客観的に見れる目は多い方が良いだろう」

 そう告げてみれば、彼女の身体が発光。光が収まり、鎧を脱いだフィーリネは小さく頷くと

「分かりました……。けれど、無茶はしないでください」

「大丈夫だって。知ってるだろ? 俺は強いから!」

 親指を立てて彼女に言うと、俺は再生を終えて仁王立ちするオークの王の元へと歩を進めていく。

 距離が狭まるにつれて増していく威圧感と言うか、不気味さというか変な気分。

 なんとも言えない感情が胸の内を染め上げていく中、俺はちょっとした疑問をつぶやく。

「俺と若干違うが無敵の化け物、か……。もしかして、本気でやらないと勝てないのかな」

 この世界にきて一度も使ってない。もしかしたらと、そう考えると俺の口元は自然と弧を描いていた。
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