上 下
54 / 196
第3章

羨望

しおりを挟む
《近くに危険な魔物や魔獣はいないよ》
「トーレさん、休憩地に魔物など危険な生物はいないそうです」
「そんなことが分かるのか?」
「今、クレドこの子に偵察に行ってもらったんですよ。
私は幻獣使いで、仮契約もしているので、だいたいの感情や言葉を交わすことが出来ます。
変異種なら、従魔術などのスキルがなくても、人間こちらの言うことは結構分かるので、魔馬より出来ることが増えると思いますよ」
「ということは従魔術を取得すれば、変異種とある程度の意思疎通が出来るのか?」
「出来ると思います。
漠然とした気持ちとか、片言の短文ならですが」
「魔馬だと漠然とした気持ちしか伝わらないと聞いたことがある。
片言でも分かれば不調も早く気付けるだろうし、無事成体になった時に意思疎通が出来るなら、新しい飼育方法だけでなく、従魔術も覚えたいな」
既に活用する未来を思い描いているのか、遠くを見るような目つきで、休憩地へと馬を進めた。
休憩地には先客がいるようでテントが張ってあったが、見張り役さえ姿が見えない。
とりあえず邪魔にならないように馬車を停める。
馬を車から外し、少量の飼葉と水をトーレが与えていた。
レナードは水だけをクレドとアルバに用意する。
火蜥蜴は寝ていて、精霊は基本的には何も要らないため、見つからずにちょうど良いと黙って馬車の中に置いたままにした。
夕食と言っても時間停止機能のあるマジックバックを持っているトーレが、しまってあった厚切りベーコンと野菜を挟んだ黒パンのサンドと、スープだけの簡素な物だ。
「時間停止機能は小さくても、こんな風に移動しながら商売する行商人には不可欠なアイテムですね」
「そうだな、あるとないとでは、行動範囲や商品の種類に影響するな。
またこれがあるから、魔馬や魔物や魔獣の血の入った役畜じゃないと、盗賊や野党などに襲われる。
その上、変異種で意思疎通が可能になれば、鬼に金棒なんだがな」
「うちは馬から産まれた変異種ですから強さはないですが、旅はたまになので支障はないですが、トーレさんは旅が日常ですから、
魔馬の強さに賢さを兼ね備える可能性があるのは魅力的ですね」
「俺は素材専門の小さな商いだから、どんな場所でも行ける魔馬か、魔物の血が入った驢馬とかだが、扱う商品によちゃあ馬力も速さも断トツの竜車が使えるとありがたいが、あれは大陸規模の大商隊や軍か大貴族じゃなきゃ飼えねぇ」
走竜と人間が呼ぶ竜種は、性格が比較的穏やかで走ることが好きな地竜の一種で、竜尾が短いため竜車としても活躍するが、大食漢であることも有名で、大砲など重い物や沢山の人間を運べる上に馬よりも速いため、軍や大商隊しかほぼ採用しない。
大商隊の半数は大貴族が運営している。
竜馬もいるが数が少ないため、軍でも王族出身者や高位貴族の将軍クラスしか持てない。
「この仔は魔馬の変異種なんだ。
育てば大いに助けになるが、自宅で世話をしてくれてた子供達が全員寮に入っちまって、妻だけでは不調の時に世話がおぼつかないから、断腸の思いで売りに出そうとした。
あれほど弱いと近場すら商売で離れられなくなっちまうからな。
だからこの話しにかけたんだ」
「お子さんの成長は嬉しいでしょうが、愛馬達の仔のことを考えると複雑ですね。
でも希望はありますよ」
話しのキリがついたところで立ち上がり、出立の準備をする。
結局休憩が終わるまで冒険者は誰も帰って来なかった。
レナードとしてはアルバの姿が見られずに済んで良かったと思っていた。
他の子がいればそこまで目立たないが、単独だと目立ち過ぎるから。
町を拠点にしている冒険者は悪い奴は少ないが、拠点がない冒険者の中には犯罪者紛いのことをやる奴も多い。
しかも珍しい種族のアルバは人に恐怖心があるから目撃されない方が良い。
もうすぐ我が家だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

俺がマヨネーズ男爵だとぅ!?~異世界でおっさん領主は奴隷ちゃんと結婚したい

武蔵野純平
ファンタジー
美少女性奴隷と幸せに暮らすため、おっさんは異世界で成り上がる! 平凡なおっさんサラリーマンの峰山真夜は、ある日、自室のドアが異世界につながっている事を知る。 異世界と日本を行き来し、異世界では商売を、日本ではサラリーマンの二重生活を送る。 日本で買ったアイテムを異世界で高額転売し金持ちになり、奴隷商人のススメに従って美少女性奴隷サラを購入する。 愛する奴隷サラと幸せに暮らすため、おっさんサラリーマン・ミネヤマは異世界で貴族を目指す。 日本ではかなえられなかった立身出世――成り上がりに邁進する!

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。 有するスキルは、『暴食の魔王』。 その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。 強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。 「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」 そう。 このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること! 毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる! さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて―― 「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」 コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく! ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕! ※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。 ※45話からもふもふ登場!!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

処理中です...