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第1章

出会い

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 青年というにはいささか幼い外見のその男は、久しぶりに朝露と共に収穫する貴重な薬草を採取するため、朝日が登り切る前に森の奥に来ていた。無事採取が出来たので上機嫌で更に奥に向かって別の素材を目指し歩いていた。
 森と言ってもここは凶悪な魔獣が棲んでいたり、迷ってなかなか出られない迷いの森ではない。普段使いの薬草や木の実が豊富なため、小動物や草食動物やそれを餌にする獣や魔獣しか滅多にいない比較的穏やかな森だった。それでも魔獣がいるため、その男のように撃退出来るだけの腕があり、森を1人でも自由に行き来が出来るくらいの能力がある者でなければ入れない。
更に男は空腹でない状態で獣や弱い魔獣とある程度は意思疎通が出来る幻獣使いであるため問題ない。そうでない者は護衛なしでは通れない程度には危険な森ではある。
 カリュプス鋼の森のコンティノアール国側に近いが、隣接していない比較的近い場所にある小さな森。そして若い雄から幼獣を預かった雄が隠し、傷付いた体に鞭を打って冒険者の横を駆け抜けて目を逸らさせた森だった。
 いつものように依頼された薬草やポーションなどの材料を採取しながら慣れた獣道を歩いていた。
 ふといつもと違う何かが聞こえた気がして立ち止まって耳を澄ませる。
しばらく意識を周辺に向けてみるも、普段からする風の音や動物達が動く度に聞こえるカサカサという音だけ。

「気のせいか」

気を取り直して目的の場所へと歩き出すがしばらくして再び先程の何かが聞こえる。

《ーーーーーッテ》

 耳ではなく頭に直接響いたように感じた。
 これは!と声が強く感じる方向に向きを変えて走った。
 感じるままに進むと、木陰で疼くまり動けなくなっていた生き物を発見した。ぐったりとして怪我をしているが、小さく上下に動く身体が、弱くとも呼吸をしていることを示している。血塗れの身体は毛の色が分からないくらいに染まってしまっていた。
 荷物を下ろし上着を1枚脱いで横に広げる。手拭いを生き物の体に巻き、木陰から慎重に引っ張り出す。手拭いごと先程の上着の上に乗せた。直ぐ腰にぶら下げた鞄から獣にも効く傷薬を取り出して傷口に塗り込む。先程の手拭いで傷口を覆うように包み、上着で更に包む。荷物を背負い抱き上げると、予定を変更して急いで家へと帰った。

 男はその森の入り口近くで少し離れたところにある村の外れに1人で暮らしている薬師で、幻獣使いでもあったため自宅に幻獣用の小屋や設備もあった。
 まずは母屋の中に連れて行き、清潔な布と毛布で寝床を作り、暖炉の側に置いて種火を起こして部屋を暖めた。
 魔石を使い軽い水の回復魔法をかける。道具なしでは男は魔力が多くはないため回復系の魔法はかけられないから、ここまで急いで連れて来たのだ。
幸い致命傷になるほどの大きなものはなかったが、すり傷以外は血の流出の勢いが止まったくらいだった。
 大きなタライを用意して水を入れ、火魔法でぬるま湯にして汚れや血を慎重に洗い流す。傷口を気をつけて全身を拭き取り、もう一度さっきと同じ傷薬を塗っておく。ひどい場所にはガーゼを当てて包帯で強く圧迫する。
 自ら飲む力はないと判断し、痛みが少なくなるように注意深く腕の中に抱き上げ、人間用ではあるがポーションを薄めてスポイドで口の中に様子を見ながら少しずつ流し込む。喉が動いて飲み込む動作を確認してスポイドを外し、ゆっくり寝床へと戻す。
 傍らに横になって傷のなかった頭頂部を撫でてやる。気持ちが良いのか幼獣の顔が穏やかになってしばらくして寝息が聞こえ動かなくなる。寝顔を見て安心したら、いつの間にか男も一緒に床に敷いたラグの上で傍らで眠っていた。

 幼獣を種族が発見出来なかったのは、結界が消えた後に先に人族の男が保護してしまったから。森の中にいると思ったせいで周囲の人間がいる場所まで捜索していなかったからだった。男は幻獣使いだったため、頭に響く声で幻獣だとは分かっていたが、まさか幻獣の中でも上位に立つ種族の麒麟だとは思わなかった。まだ幼いためユニコーンか何かだと思っていた。
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