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瓶底眼鏡にギチギチ三編みのあの子は第三王子の婚約者

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 レオンツィオ・アルバーニは公爵家の次男である。
 美しい金色の髪、ライムグリーンの瞳は少し垂れ気味で、女性が放っておかないような外見をしている。貴族は早いうちから婚約者を作るのがほとんどであったが、彼にはまだ婚約者がいなかった。
 理由は、ひとつ。
「アタシはもっと美しいものと可愛いものをたっくさん見たいのよ!」
 彼、の、この性格のためであった。
 レオンツィオは幼い頃から美しいもの可愛いものをこよなく愛し、その対象は花や風景はもちろん、美術品や動物、人に至るまで、とにかく幅広い。口調が特徴的なのは嗜好的に年令問わず女性と接する機会が多く、また貴族よりは街にいる平民たちと交流することが多かったゆえに。そして優秀だがとことんマイペースな両親が「まぁレオンツィオの人生なんだし」と、彼を割と好き勝手させていたためでもあった。
 裾や袖にレースをあしらったパンツスタイルが彼の普段着で、アクセサリーも気に入ったものを好きにつけている。が、男らしさがないわけではなく、剣の腕はそこそこで、背も高い。女性的な振る舞いをすることもあるが、恋愛対象は女性だ。
 もちろん、彼の振る舞いや仕草、口調を咎める声も多い。陰口を叩かれることは数知れず、時にはわかりやすく嫌がらせされるようなこともあったが。
 レオンツィオは、まっっったくもって気にしなかった。素晴らしく、ポジティブだった。
「だってアタシを悪し様に言ってくるようなやつに気を取られているより、世の中の素晴らしいものに目を向けていた方が得でしょう? アタシはね、今のアタシを気に入ってるの。だから他の誰に何を言われようと、痛くも痒くもないわ」
 自由な彼を煙たがるものは多かったが、それ以上に彼を慕うものも多く。
 それこそ老若男女問わず、彼という人柄を好ましく思って交流している。彼の通う学校にも友人と呼べる存在は多く、公爵令息でありながら誰とでも気兼ねなく言葉を交わしていた。
「そういえばレオンツィオ、隣のクラスのレアンドロ殿下をご存知?」
 リオネッラ・コルテーゼ伯爵令嬢は、レオンツィオの友人の一人である。彼らは学校が終わったあと、街のカフェでお茶をするのが日課だった。
「レアンドロ、レアンドロ……あぁ、確かあの顔は良い馬鹿王子ね!」
 ブッ、と隣でお茶を吹き出したのは、もうひとりの友人ローザ・ファネッリ侯爵令嬢だ。慌てて口元をナプキンで拭い、ふぅ、と息を吐き出す。
「あなた、相変わらずの物言いね。まぁ、否定は出来ないけど」
 話題に上がっているのはレアンドロ・バルトリッチ王子殿下。第三王子で、とっくに学園を卒業している兄が二人いる。どちらも優秀で、よほどのことがなければレアンドロに王位継承権は回ってこないだろう。
 何せ、彼女たちが言うように彼は、見た目さえ良いが頭も要領も悪かった。そしてプライドが高く、学園内の生徒はみんな自分より格下であると思っている。
「アタシ、美しいものは好きだけど、それが人間の場合中身が伴ってなきゃ惹かれないの。入学した当初はときめきもしたけど、あの言動で興ざめしちゃったわ」
「あの学園、良くも悪くも自由ですものね。先生方も、王位継承権はなくとも王族だからって理由で放っておいてますもの」
「レアンドロ殿下の話って言うと、もしかしてアレのこと?」
 ローザが尋ねると、リオネッラは頷いて声を潜めて言った。
「あの御方、婚約者がいますでしょう? ニナ・ミネルヴィーノ公爵令嬢。それなのに最近、カルデラーラ家の令嬢と……どうやら浮気、のようなことをしているのだとか」
「まぁ! どこまでもろくでもない男ねっ。カルデラーラ家のご令嬢と言えば、あのお化粧の濃いデーリア嬢だったかしら」
「さすが、そういうところは良く覚えているのね。あの子もあの子で、良い噂は聞かないのだけど。自分より格上の男性にこれみよがしに擦り寄っているって。婚約者がいても関係なく。ある意味、お似合いの二人なんじゃないかしら」
「気の毒なのはミネルヴィーノ嬢ですわ。引っ込み思案な方ですから、殿下とデーリア嬢がそれこそ寄り添って親しくしていても、見ないふりをしてらっしゃるのよ」
 レオンツィオは頬杖を付き、ニナ、と小さく呟いた。
 ニナ……ニナ・ミネルヴィーノ。その公爵令嬢の姿が、思い浮かばないのである。
「レディ・ミネルヴィーノ……、どんな方だったかしら。おかしいわね、アタシの記憶にないわ。同じ学年だとしたら大体はわかるものなんだけど」
「ニナ嬢って本当に目立たないのよ。公爵令嬢ならもっと華やかでもいいと思うのだけど、なんていうか……すごく地味。厚い眼鏡に今どき流行らない太い三編みで、いつも教室の隅か、誰も居ない校舎の裏で本を読んでるの」
 なんとなくそんな令嬢がいたような気がする。が、やはりレオンツィオの記憶にその姿は浮かばなかった。
 ローザは気の毒そうに表情を曇らせ、言葉を続ける。
「いつも一人でいるから、以前声をかけたことがあるのだけど。一緒にお茶でもいかが、って。でも彼女、『殿下が、誰かと親しくするなと仰るので』って寂しそうに笑って言うのよ。それ以来なんとなく、声をかけるのも躊躇しちゃって」
「……はあぁ?」
 思い切り低い声を漏らしたレオンツィオに、リオネッラとローザは顔を見合わせる。レオンツィオは眉を吊り上げた凶悪な顔で、指で摘んでいたビスコッティはばきりと割れた。
「自分は浮気しているくせに、婚約者には友人を作ることすら許してないわけ? 馬鹿とは言え王子ともあろう男が? そんなのただのクソ野郎じゃない!」
「れ、レオンツィオ、声が大きいわ!」
「あら失礼。アタシったらつい。……ねぇローザ、明日レディ・ミネルヴィーノがどの子か教えてくれる?」
「構わないけど……あまり余計なことはしないほうがいいわよ。一応、王子の婚約者なわけだし」
「やぁね、どんな子が見るだけよ。今のところはね」
 場合によっては余計なことをする気であるとも取れる言葉に、ローザはまたため息をつく。リオネッラはくすりと笑って、紅茶の入ったティーカップを手にとった。
「ローザ、レオンツィオには何を言っても無駄ですわ。今までだって、わたくしたちの言うことなんて聞いたことありませんもの」
「そんなことないわよ、二人の助言にはとても救われているわ。いい友達を持ててアタシ、幸せよ」
 にこにこと笑いながら、レオンツィオもティーカップを手にする。割れたビスコッティはしっかり口の中へ放り込まれた。
 仲の良い友人たちの、カフェでのお喋りはしばらく続いて。
 その後彼らはいくつかの寄り道を繰り返し、帰路についたのだった。


*****


「あそこ。一番後ろの端っこの席に座ってるのがそうよ。見える?」
「えぇ。……あらぁ……確かにすっ……ごく、地味ねぇ……」
 ローザのクラスの教室の入り口から、ニナの姿を確認する。飾りのない三つ編みに分厚い眼鏡、化粧っ気も全く無く、地味、以外の言葉が見つからない。休み時間であるために、他の生徒たちは何人かのグループに別れて楽しげに言葉を交わしているが、ニナはぽつん、と一人ぼっちで本を読んでいた。
 周囲の人間を意識してみれば、彼らはまるでニナがそこにいないかのように振る舞っているように見える。話しかけることはもちろん、視線を向けることすらない。
「なんて言うか、ちょっと異常よねぇ」
「昨日言いそびれてたんだけど、バ……んんっ。殿下がね、ことあるごとに言うのよ。ニナは俺の婚約者なんだから、気安く話しかけることは許さん! みたいなことをね」
「でもだからと言って、あの馬鹿王子が彼女を構っているふうでもないじゃない。これみよがしにデーリア嬢といちゃついてるんだけど」
 婚約者のニナがいる教室で、こともあろうにレアンドロはデーリアとべったり寄り添って楽しげに言葉を交わしている。周りの取り巻きたちもそれを咎めることはなく、囃し立てているようだった。
「っていうか何なの本当に。どういう状況なのコレ」
 レオンツィオは眉を寄せて、不快だとばかりに顔を顰める。レアンドロの行動は余りに理解し難いものであるが、それを容認しているニナもニナだ。婚約者であるというのなら、浮気に対して抗議の声を上げてもいいだろうに。そうできない理由があるのか、あるいはもうすでに「諦めて」いるのか。
 じっとニナを見やるレオンツィオに、ローザは静かに口を開いた。
「……ねぇ、レオンツィオ。昨日は余計な真似はしないほうがいいって言ったけど、なんとか出来ないかしら、彼女。なんていうかね、殿下に従ってはいるけどそれは決して彼女の望みじゃないように思えて……彼女が本当に現状を全く気にしなくて、どんな馬鹿王子だろうと王子という立場の人と結婚できるならそれでいいって考えているなら話は別だけど。そうじゃないのだとしたら、あまりに気の毒よ」
 神妙な面持ちのローザに、レオンツィオは口角を上げてにんまりと笑う。ニナへ視線を向けて、ローザの方をぽんっ、と強めに叩いた。
「おせっかいはアタシの十八番よ。気になったものには首を突っ込まずにいられないの。それにね、ローザ。あの子、化けるわよ

「え? 化ける、って」
「んふふ。まぁとにかく、アタシに任せなさい!」
 レオンツィオの瞳はきらりと輝いて、その表情に浮かぶのは好奇心だ。分厚い眼鏡の向こうにある素顔。レオンツィオの「レーダー」が激しく反応を示している。
 ローザは少しばかり訝しげな様子でレオンツィオを見ていたものの、とりあえずは彼に託すことにした。
 同じ貴族令嬢として、ニナの状況は決して放っておけるものではなかった。


*****


 ニナの昼休みは決まって、誰も居ない校舎の裏だ。東屋でもない、椅子もテーブルもないような場所で彼女は一人、食後の僅かな時間を本を読んで過ごしていた。
 なるべく人目につかないようにしろ。
 それは婚約者であるレアンドロの命令だった。彼女は拒むこともせずにただ頷いて、彼の言う通りにしていた。
 静かな場所で、時間が過ぎるのを待つ。誰も居ない場所で、ただじっと、……ずっと。
 今日もいつものように、図書室で借りた本に目を通そうとしていた、そのとき。
「ごきげんよう、レディ・ミネルヴィーノ。少しお時間よろしいかしら?」
 普段なら誰も通らないその場所で声をかけられたニナは、びくりと身体を跳ねさせた。きょろきょろと辺りを見渡すと、不意に木の葉がひらりと落ち、ニナは顔を上げる。瓶底眼鏡の奥の瞳が、僅かに見開いた。
「ハァイ。上から失礼するわ。よいしょ、っと」
 何故か木の上にいたレオンツィオは笑顔で手を振ると、そのまま躊躇なく飛び降り地面に着地する。ぱんぱんと埃を払い、改めてニナに向き直りさらに笑顔を深めて言った。
「初めまして、レディ・ミネルヴィーノ。レオンツィオ・アルバーニよ、よろしくね」
「え、……あ、あの……わ、わたし……」
「あら、ご存じないかしら? アルバーニ公爵家って結構有名だと思ってたんだけど、我が家もまだまだね~」
「い、いえ、あのっ」
 瓶底眼鏡の奥の瞳は、うろうろと彷徨っている。こんなふうに声をかけられたのは恐らく、随分と久しぶりなのだろう。
「……お、王子殿下に……他人と親しくしないようにと言われておりますので……その……」
 小さく紡がれた声。その声はとても可愛らしく、よく通る音だった。だけれど言っている内容が気に食わない。レオンツィオはわざとらしいほどに深い溜め息をついて、首を振った。
「ねぇあなた。それがあの馬鹿王子のためだと思ってやっているのだとしたら大間違いよ。王位継承権はまかり間違ってもあの男に渡ることはないでしょうけど、それでも王子と結婚したらあなたは彼と共に社交の場に出なければならない。それなのに王子に言われたからって、他の令嬢や夫人と一切交流を持たないつもり?」
 ぎくりと、ニナの身体が先程よりも大きく震える。本を持っている手に力が籠もり、冷や汗が滲んだ。
「――とは言え、王子の願いを叶えてあげたいっていうあなたの健気な気持ちもわからなくもないわ。だからアタシたちのこの会話は、二人だけの秘密にしましょ」
 人差し指を立てて唇に当て、ウィンクする。ニナはきょとりとして、その表情から僅かに強張りが消えた。レオンツィオは腕を組み、さらに言葉を続ける。
「大体、こんなところに誰も来ないでしょう? だからあなたもここにいるのよね」
「それは、……はい」
「だったら大丈夫、ちょっとだけアタシのお喋りに付き合ってちょうだい」
 ニナはもう一度きょろきょろと辺りを見渡して、改めてレオンツィオに顔を向けた。深呼吸をして、ぺこりと頭を下げるとスカートの裾を摘んで挨拶をする。
「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。改めまして、ニナ・ミネルヴィーノと申します」
 あら、と、レオンツィオは少しばかり驚いた表情を浮かべた。
 所作が完璧なのだ。先程までのおどおどしていたニナと同じ人物かと疑ってしまうほどに、彼女の仕草は丁寧で美しかった。
「アルバーニ卿、存じております。とても有名な方ですので……それに」
「それに?」
「いつもきらきらしていらっしゃるので、知らないはずがありません」
 レオンツィオが大きく瞬きをして、頬に手を当てる。思いがけない言葉に、珍しく心が揺れ動いた。
「アルバーニ卿?」
「……あ、あらやーねぇ! レオンツィオでいいわよ、アタシもニナって呼ぶから! それにしてもきらきらしているだなんて、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「アルバーニ卿は」
「レオンツィオ」
「れ、レオンツィオ……様は、いつも笑顔で楽しそうです。コルテーゼ伯爵令嬢、ファネッリ侯爵令嬢とよく一緒にいらっしゃるのを見て、それで」
「もう、呼び捨てでいいのよ! それで? お近づきになりたいとか、思ったりした?」
 にんまり笑って尋ねるレオンツィオに、ニナは少しだけ表情に動揺を見せる。唇を何度か動かして、ぽつりと言葉を漏らした。
「それは、」
「んふふ、冗談よ。というかあなた、やっぱり思った通り、しっかり『公爵令嬢』じゃない。なんであんな馬鹿王子の言いなりになってるの?」
「ふ、不敬ですよ」
「みんな言ってるわよ、知らないことないでしょう? それだけしっかり周りを見る癖がついてるんだから」
 関わるなと言われて、クラスメイトとは極力言葉を交わさないようにはしているのだろう。それでも名前はしっかり覚えており、そして交友関係も把握している。レオンツィオはそんなに頻繁にローザたちを尋ねることはなく、昼食時、あるいは下校時に共に過ごす程度で、それも毎日というわけではない。それでもニナがしっかり覚えているのは、それだけ彼女が周りに意識を向けている証拠だ。
「プライドばかりが高くて、自分以外は全員下僕か何かだと思ってる。婚約者がいるにも関わらず別の女生徒とべたべた接触して、当の婚約者はほったらかしの上他人との交流を禁止して……これが馬鹿じゃないなら何? そしてあなたはどうしてそれを受け入れているの?」
 貴族同士の政略結婚は珍しいことではない。むしろそこから恋愛に発展する方が珍しいかもしれない。それでも夫婦となるからには互いを尊重するべきであって、それは王族であったとしても例外ではない。王族だから、身分が高いから――そんな理由で婚約者を蔑むことは、誰であっても許されることではないのだ。
 王族だからこそ、婚約者を大切に扱っているのだというアピールは大事だ。夫婦の仲の良さは力であり、貴族はもちろん平民の支持も得やすい。
 ゆえにレアンドロの行動は、愚かとしか言いようがない。
 生徒の何割かは媚を売っているが、それも学園生活の間だけだろう。卒業したら最後、レアンドロを支援する貴族がどれほど残るのか。恐らくレアンドロのことなど忘れ、第一、第二王子へと媚びる矛先を変えるだろう。
 ニナは俯き、微かに唇を噛んだ。瞳に浮かぶ感情は、その眼鏡のせいでわからない。
「……こんなこと、話していいのかわからないのですが……」
「嫌じゃなければ、聞きたいわ。話すことが苦痛なら言わなくて結構よ、無理強いはしたくないもの」
 ニナはゆっくりと顔を上げて、静かに左右に首を振った。
「……私と殿下の結婚は、王家からの申し入れでした。父は大層喜んで、殿下に尽くせと……父は入婿で、元の爵位は男爵です。だから私が幼い頃からずっと、王族との繋がりを求めていました」
 よくいるタイプだわ、と、レオンツィオは思った。
 爵位の低いものはより高い爵位を求め、あわよくば王族と同等の力を欲しがる。実力のないものほど、より強力な権力を得ようとするのだ。
「殿下の言葉は絶対だから、逆らうなと言われました。そうすれば幸せになれると……貴族令嬢にとって王族との結婚こそ最高の幸せであると……」
「ふぅん? それで? あなたは今、幸せ?」
 ニナの表情が曇る。聞くまでもない質問だった。周りとの交流を禁止され、かと言って王子からの愛が注がれているわけでもなく。ただレアンドロの自己顕示欲のために、いいように利用されているだけ。
「――ねぇ、ニナ。あなたがこのまま、あの馬鹿王子との結婚を受け入れるというのならそれでもいいわ。アタシに口出しする権利はないのだし。話を聞いたのはあくまでアタシの疑問と、お節介ね。でももし、このままじゃ駄目だと僅かでも思っているのだとしたら、変わってみない?」
「変わる?」
「えぇ、そうよ。その分厚い瓶底眼鏡ともギッチギチの三編みとも、あの馬鹿王子ともオサラバするの。あなたの人生を謳歌するのよ!」
 王族との婚約を破棄、または白紙に戻すことはそう容易いことではない。何より彼女の父親がそう簡単に許さないだろう。ニナが婚約者であることは広く知られており、万が一婚約解消となったとして、王族との婚約がなくなった彼女ないし彼女の家が、どんな噂を立てられてしまうのか。
 ニナの人生を変える選択肢――すぐに答えが出るとも思っていない。
 当然のことながら、ニナからの返事はなかった。レオンツィオはふふ、と笑って、一枚のカードを差し出す。
「はい、これ」
「え? あの、これは」
「変わりたいと思ったらこの住所の場所に来てちょうだい。それまでは今まで通り、アタシはあなたに声をかけないし興味のないふりをする。あなたがこの場所に来なければ、その先もずっとね。いくらでも悩んで構わないわ」
 レアンドロの呪縛から開放されたいと願うのなら、喜んで手を貸す。望まないのもまた、彼女の人生だ。
 レオンツィオにとって自分自身の選択こそ最良。他人が介入出来るのは、ここまでだ。
「それじゃ、失礼するわね。レディ・ミネルヴィーノ。出来たらあなたとはまたぜひ、お話したいわ」
 胸元に片手を当てて、礼をする。ニナも慌てて背筋を伸ばし、礼を返した。
 レオンツィオは満足げに笑い、スキップでニナから離れて行く。ニナは楽しげなその背中をじっと見つめて、それから手渡されたカードに視線を落とした。
「ファータ・フィオーレ……お花屋さんかしら」
 疑問符を浮かべて、首をかしげる。ニナはしばらくそのカードから目を離すことが出来なかった。
 自分の運命を変えるかもしれないその一枚。ニナの鼓動は、ずっと強く鳴っていた。
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