角の生えたサルたち

西洋司

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こんな眼差し_02

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 手下の女子が、道すがら自販機から缶コーヒーを仕入れて来て、ゴリオに手渡している。
 ゴリオは無言でそれらを受け取ると、マホと学友の少女にスッと手渡した。

「オマエさんは真善美高の生徒会長様だろ。だからVIP待遇だな!」

「あらそう。厚いおもてなし、感謝しますわ」

 そう言ってコーヒーを受け取ると、ニッコリと微笑んだ。

 それからのマホは、女の子の飲み歩きは無作法で格好が悪いと言って、郵便局の隣の空き地で休憩しましょうと話を持ち掛けた。

 ゴリオは、マホはともあれ、一緒に連れて来た少女が酷く青ざめているのを見て、これはマズいと思っていた。
 だから、危害を加えるつもりがないことの意思表示として、マホの提案を全面的に受け容れる。

 休憩中、郵便局の利用客達が、ゴリオ達を咎める目でジロジロと見つめている。マホがニコリと手を振ると、会釈して去って行く人々。

 すると、ゴリオの学校のOBと称する半グレの若者が、2名近づいて来た。

 彼らは、後輩達が真善美高の生徒を拉致って来たと思い、いつものように脅かしてやろうと目論んでいる様子だったが。

「最近の若者は元気があってよろしいって、えっ!? あれぇーっっ!?」

 見ると、この街一番の資本家、五台場家のご令嬢がそこにいて、屈託ない笑顔で缶コーヒーを飲んでいるではないか!

「「ヤベっっ! ヤッベェ~じゃんっっ!!」」

 OB達は、一目散にトンズラしてしまった。

「日が暮れてしまいますから、そろそろ行きましょうか? それで、どこに行くのかしら?」

 マホの余裕の微笑みに、ゴリオは内心汗だくだくなのだが。

「ウチの体育館で、集会に参加して貰う。直ぐに終わらせる」

 でも、改進高のハイカーストである彼が、不安な気持ちを滲ませることは、決してあり得ない。

「あらそう。ワカりました」

 ニッコリと、そんなゴリオの心を見透かしたかのように微笑むマホ。

 実を言うと、ゴリオはマホのことが子供の頃から大の苦手だ。
 天真爛漫、この街のプリンセスとして育った彼女。当時、まだ貧弱で痩せぎすだったゴリオを揶揄ったことがあった。

 身分違いの少女の嘲笑など、その頃のゴリオの心には、さ程の痛痒も感じなかったのだけれど。
 でも、次の瞬間、ヨウ姉さんによってマホに加えられた熾烈な制裁を見て、ゴリオは心底震え上がってしまった。

 その後、マホが泣きながら自分に何度も何度も詫びて来るのだけれど。
 それが、どこまで彼女の本音なのか演技なのか、……まるでワカらない。

 とはいえ、自分が彼女の謝罪を受け容れねば、一体どうなってしまうのか?
 おそらく、……彼女に、その姉からの容赦のない制裁が、次々と加えられることになる。

 早くっ、謝罪を受け容れてよっ! 
 マホはそう言わんばかりに両肩を震わせて、迫力のこもった眼差しでゴリオを見つめて来た。

 オレが少しも悪いワケではないのに、……何でこんな眼差しで見られなきゃいかんのだろう?
 それも、……この街一番の美少女であるマホの、泣きじゃらした悲哀のこもった眼差しで。

 その時の光景が、今でもたまに夢に出て来て、……ゴリオは、ホンとひでぇ話だと思う。

「子供の頃は、ホンとごめんなさいね。私は考えなしでした」

 彼を見上げて謝罪するマホに、図らずも肩の荷が下りたような心持ちになる。
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