角の生えたサルたち

西洋司

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スパイの親玉_02

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「ホノオは、シノのことそんなに心配しなくていいよ。その辺は、こちらで上手くやるから大丈夫かな。それよりも、……もっと気になることがあってね」

 上手くやるって!? 昨日シノはボロボロ泣いてたんだぞ!

 もちろんショウタには言わないけどさぁ。何だか釈然としないんだけど、……でも、コイツは策も手もちゃんと講じているのだろう。

 それに、まだ猶予は2カ月ある。
 普通に生きていたって、交通事故で突然死、ビルの建築現場から道端に資材が落ちて来て突然死、そんなベタなアクシデントの可能性は、現実に無数にある。

 とりあえず、ショウタの言うことを信じることにしよう。

「で、何だよ、……気になることって?」

 まぁたぶん、オレの予想の斜め上を行くんだろうなぁ。聞きたくないなぁ。

「改進高校のヤツら、……今、兵隊集めているよ」

 あぁ、ソッチかクソッ! ホンと次から次へと全く、……まぁ、ゴリオをぶん投げたのがマズかったか。

 オレ達の真善美高校とゴリオ達の改進高校は、現在一触即発の状態にある。
 以前から、両校の学生はことあるごとにいがみ合い、反目し合って来たんだよね。

 学業に強い真善美高とスポーツに強い改進高は、表立っては言いにくい話なんだけど、……資本家階層と労働者階層とに分かれ、大きな断絶があったんだ。

 地理的に両校のちょうど真ん中位に、一級河川の荒瀬川が流れていてさ。
 川の西側の高台に真善美高、東側の窪地に改進高。
 両校を一直線に結ぶ県道は、荒瀬橋を越えると人も風景も一変するんだ。

 ガキの頃、オレもマホも親達から川向うには行かないよう、厳しく言われて育って来た。
 でも、九条リンゴだけは特別で、川向うからおめかしして、毎週金曜日の午後、姉の画塾に通って来た。
 姉はリンゴとオレ達に分け隔てなく接し、オレもその辺のことをあまり考えずにいた。

 リンゴは当時のオレから見てもかなりの美少女でさ。親戚のマホがいつでもくっついて来るのを鬱陶しく思っていたオレだけど、リンゴには好意的に接していたと思う。

 ある時、たった一度だけリンゴが三留ゴリオを連れて来たことがあった。おそらく山の手に背伸びして通い続けているリンゴのことが心配で、わざわざ様子を見に来たんだと思う。

 その時の彼女は都心のデパートでしか取り扱いのないお洒落な子供服を身に着けていたんだけど、ゴリオは見るからに粗末な格好をしていた。

 おそらく、ろくすっぽ洗濯もしていないようで。汗染みや食べ染みの入った皺だらけの子供アニメポロシャツに半ズボン、素足で安物のビニルの靴を履いていた。

 そんな彼を一目見たマホは、その身なりがキチャナイと言って、鼻を摘まみながら揶揄い、なじったのだ。

 次の瞬間、ヨウ姉さんはマホの頬をフルスイングで平手打ちにした。
 びっくりしたマホは、呆けてぺたんと尻もちをつくと、そのまま泣き出してしまった。

 揶揄われたリンゴ達だったが、ゴリオと一緒に曖昧に笑顔を浮かべるんだよね。

「リンゴのこと、……これからもよろしくお願いします」

 ゴリオはそう言ってヨウ姉さんに深々と頭を下げ、それから二度とウチに来ることはなかった。

 それでもヨウ姉さんの画塾が閉会するまで、毎週金曜日、リンゴは重い画材を抱えながら、川を越えて必ずウチにやって来た。
 数年続けたことでデッサン力も表現力も上達し、訊くと、将来イラストレーターになりたいとのこと。
 
 中学2年生の時、オレとヨウ姉さんの問題が発覚した。
 その際、オレとヨウ姉さんを罵倒するマホを諫めたのが、リンゴだった。

 自分は裏切られた、もう何も信じられないと喚くマホを、正気に戻してくれたのだ。
 だからオレは、リンゴには今でも頭が上がらない。
 
 とにかく、一度連絡を入れてみよう。向こうさんが本気なら、川を越えてウチの学生の拉致位やりかねないだろうし。

 できれば今回も話が大きくならないウチに、手打ちの段取りを付けておきたいところなんだけどさ。
 今回の落としどころは、どこら辺だろうね?

「で。オマエさぁ、……一体どうやってそんな情報仕入れたワケ?」

 ショウタに率直に訊ねてみると、いくつかのツテからのタレコミだそうで。
 コイツは目端の利く主だった人間に、この前発売されたばかりのポケベルを配っていて、何かあったら直ぐに連絡を入れるよう指示しているのだとか。

「何それっ!? この街に情報網を作って、……まるでスパイの親玉だな!!」
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