46 / 46
おまけコンテンツ
おまけSS 大胆不敵な恋人宣言
しおりを挟む
それは、夏樹が隆之と街中を歩いていたときのことだった。
「あれっ、及川?」
ふと聞こえてきた声に、隆之の足が止まる。
ともに声がした方を見やれば、そこには隆之と同い年くらいの男が立っていた。
「ああ、川島。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「つーかさ、仕事以外で会うの何気に初めてじゃね?」
どうやら隆之の同僚らしい。川島と呼ばれた男は、人懐っこい笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。
が、彼の視線がある一点に注がれて、夏樹はギクリとする。
(あ、やば……)
――指を絡めるようにして繋がれた手と手。
同性カップルがどのような目で見られるかは理解しているし、人によっては偏見だってあるだろう。他人であればまだいいけれど、知り合いとなると話がまた変わってくる。
夏樹は慌てて体を離したけれど、もう遅かった。
「もしかして、前に言ってた風俗の……って男?」
川島は夏樹の顔を覗き込むようにして言う。
想定していたのと別方向に話がいってしまったが、隆之のためにも同性愛者だと思われたくない。せめてもの気持ちでなんとか誤魔化そうと試みる。
「アハッ、そうなんですよ。僕、ウリ専のボーイやってて――お、及川さんみたいにノンケのお客さんも多いんですよお?」
「ま、マジか! ……でも確かにこんな綺麗な子だったら、その気がなくてもイケるかも」
下手な言い訳にも、川島はさして気にした様子もなく返してくる。それどころか、さらに距離を詰めてきた。
「ねえ、名刺とかある? 実は前立腺マッサージとか気になっててさ。オネエチャンにやってもらうのもいいんだけど、男の方が――」
と、そのとき隆之が動いた。夏樹の肩を力強く抱き寄せると、川島に向かってこう言ったのである。
「悪いが、彼は俺の恋人なんだ。風俗で働いていたのも以前の話だし、手を出さないでもらえるか」
あまりにも大胆な告白に、夏樹は「ええーっ!?」と川島と一緒に声を上げた。しかし隆之は怯むことなく、堂々とした態度を崩さない。
(た、隆之さんってばウソでしょ!? うわっ……俺、絶対顔赤くなってる)
川島に向けられた鋭い視線。それはまさに嫉妬に駆られた男の顔で、夏樹の胸が高鳴ってしまう。が、嬉しくて堪らない反面、どう説明すればいいものかと困惑していた。
そんな心配をよそに川島はというと、
「うらやまけしからんッ!」大げさな仕草で嘆いてみせる。「どうやったら風俗で働いてた子と付き合えんだよ! しかもすげーガチっぽいし、なにこの甘ったるい雰囲気!?」
「いやまあ、それはいろいろとあってだな……」
ますます話が思わぬ方向に向かっていく。
その後もあれやこれやと言葉が交わされ、川島は「このことは他の連中には黙っておくよ、男の約束は絶対だ!」と言い残して立ち去っていったのだった。
「……もーどういうつもり? フツーに考えて、会社の人にカミングアウトすんのはマズいっしょ?」
川島の姿が見えなくなったところで、夏樹は問いかける。
「そういうものなのか?」
「そういうものなんですっ、ヘンな噂とか立ったら困るのは隆之さんなんだよ?」
「だとしても、夏樹がああいった目で見られるのは嫌だったんだ。それに気をつかって言い訳までさせて――恋人として黙っていられるわけないだろ」
隆之は至って真面目な顔で言う。そのストレートな物言いに、夏樹の顔がいっそう赤く染まった。
「……隆之さん、直球すぎてマジやばい」
トクントクン、という胸の鼓動を感じながら身を寄せる。それから、耳元でおねだりでもするかのように囁いた。
「ねえ、ホテル行こ?」
「なっ」
「今すごくエッチしたい。お家までもたないよ、これ」
「……我慢できないのか?」
「ん、だって『隆之さんに愛されてるなあ』『大切にされてるなあ』って感じるたび、胸がいっぱいになってムラムラしちゃうんだもん」
隆之は面食らった様子だったが、やがて照れくさそうに頭を掻いた。どうやら満更でもないらしい。
(隆之さんのこういったとこも好きなんだよなあ)
隆之の腕に自分の腕を絡めると、ラブホテル街へと足を向ける。直球勝負ならば、夏樹だって負けていない。
「あれっ、及川?」
ふと聞こえてきた声に、隆之の足が止まる。
ともに声がした方を見やれば、そこには隆之と同い年くらいの男が立っていた。
「ああ、川島。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「つーかさ、仕事以外で会うの何気に初めてじゃね?」
どうやら隆之の同僚らしい。川島と呼ばれた男は、人懐っこい笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。
が、彼の視線がある一点に注がれて、夏樹はギクリとする。
(あ、やば……)
――指を絡めるようにして繋がれた手と手。
同性カップルがどのような目で見られるかは理解しているし、人によっては偏見だってあるだろう。他人であればまだいいけれど、知り合いとなると話がまた変わってくる。
夏樹は慌てて体を離したけれど、もう遅かった。
「もしかして、前に言ってた風俗の……って男?」
川島は夏樹の顔を覗き込むようにして言う。
想定していたのと別方向に話がいってしまったが、隆之のためにも同性愛者だと思われたくない。せめてもの気持ちでなんとか誤魔化そうと試みる。
「アハッ、そうなんですよ。僕、ウリ専のボーイやってて――お、及川さんみたいにノンケのお客さんも多いんですよお?」
「ま、マジか! ……でも確かにこんな綺麗な子だったら、その気がなくてもイケるかも」
下手な言い訳にも、川島はさして気にした様子もなく返してくる。それどころか、さらに距離を詰めてきた。
「ねえ、名刺とかある? 実は前立腺マッサージとか気になっててさ。オネエチャンにやってもらうのもいいんだけど、男の方が――」
と、そのとき隆之が動いた。夏樹の肩を力強く抱き寄せると、川島に向かってこう言ったのである。
「悪いが、彼は俺の恋人なんだ。風俗で働いていたのも以前の話だし、手を出さないでもらえるか」
あまりにも大胆な告白に、夏樹は「ええーっ!?」と川島と一緒に声を上げた。しかし隆之は怯むことなく、堂々とした態度を崩さない。
(た、隆之さんってばウソでしょ!? うわっ……俺、絶対顔赤くなってる)
川島に向けられた鋭い視線。それはまさに嫉妬に駆られた男の顔で、夏樹の胸が高鳴ってしまう。が、嬉しくて堪らない反面、どう説明すればいいものかと困惑していた。
そんな心配をよそに川島はというと、
「うらやまけしからんッ!」大げさな仕草で嘆いてみせる。「どうやったら風俗で働いてた子と付き合えんだよ! しかもすげーガチっぽいし、なにこの甘ったるい雰囲気!?」
「いやまあ、それはいろいろとあってだな……」
ますます話が思わぬ方向に向かっていく。
その後もあれやこれやと言葉が交わされ、川島は「このことは他の連中には黙っておくよ、男の約束は絶対だ!」と言い残して立ち去っていったのだった。
「……もーどういうつもり? フツーに考えて、会社の人にカミングアウトすんのはマズいっしょ?」
川島の姿が見えなくなったところで、夏樹は問いかける。
「そういうものなのか?」
「そういうものなんですっ、ヘンな噂とか立ったら困るのは隆之さんなんだよ?」
「だとしても、夏樹がああいった目で見られるのは嫌だったんだ。それに気をつかって言い訳までさせて――恋人として黙っていられるわけないだろ」
隆之は至って真面目な顔で言う。そのストレートな物言いに、夏樹の顔がいっそう赤く染まった。
「……隆之さん、直球すぎてマジやばい」
トクントクン、という胸の鼓動を感じながら身を寄せる。それから、耳元でおねだりでもするかのように囁いた。
「ねえ、ホテル行こ?」
「なっ」
「今すごくエッチしたい。お家までもたないよ、これ」
「……我慢できないのか?」
「ん、だって『隆之さんに愛されてるなあ』『大切にされてるなあ』って感じるたび、胸がいっぱいになってムラムラしちゃうんだもん」
隆之は面食らった様子だったが、やがて照れくさそうに頭を掻いた。どうやら満更でもないらしい。
(隆之さんのこういったとこも好きなんだよなあ)
隆之の腕に自分の腕を絡めると、ラブホテル街へと足を向ける。直球勝負ならば、夏樹だって負けていない。
30
お気に入りに追加
74
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
お試し交際終了
いちみやりょう
BL
「俺、神宮寺さんが好きです。神宮寺さんが白木のことを好きだったことは知ってます。だから今俺のこと好きじゃなくても構わないんです。お試しでもいいから、付き合ってみませんか」
「お前、ゲイだったのか?」
「はい」
「分かった。だが、俺は中野のこと、好きにならないかもしんねぇぞ?」
「それでもいいです! 好きになってもらえるように頑張ります」
「そうか」
そうして俺は、神宮寺さんに付き合ってもらえることになった。
桜吹雪と泡沫の君
叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。
慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。
だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。
運命のアルファ
猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。
亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。
だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。
まさか自分もアルファだとは……。
二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。
オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。
オメガバース/アルファ同士の恋愛。
CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ
※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。
※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。
※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ボクのことが嫌いな彼らは、10年後の僕を溺愛する
面
BL
母親の再婚により、幼いアンリの生活は一変した。
十年間、最悪を受け入れ、諦め、死んだように生きていたアンリの周りは最近なんだかおかしい。
!! 暴力表現は*
R18表現は**
という感じで作者判断で一応印をつけようと思いますが、印がなくても色々あると理解した上でご覧ください。
※すべては見切り発車です。
※R18は保険です。サラッと描写するかもしれないし、がっつりにするかもしれないし。いずれにしてもある程度話が進まないとそういうシーンは出てこないと思います。がっつりになったら印つけます。
※女性との絡み、暴力、犯罪描写あります。
※主人公重度のマザコン
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
有森千代さん、今晩わ❗️
楽しく読ませて頂きました。当分の間
投稿が無いとの事、寂し〜いです。
力作待ってます。本当に、帰って来て下さい年齢。待ってるよ❣️❣️❣️
takaさん、ここまで読んでいただきありがとうございました!
しばらくはちょっとした番外編を不定期に投稿できればと思ってます(*´-`)
あたたかいお言葉いただけて嬉しいです、そう言っていただけるとモチベが上がります💕
新作もいつか執筆できたらなあと思います!