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おまけSS ニューヨークからの使者(2)

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「っ!」

 ウィリアムがなにやら英語で続けているのだが、咄嗟のことで聞き取れなかった。
 そんな侑人に代わって、高山が助け船でも出すかのように英語で返す。が、二人して会話のスピードが速く、やはりついていけそうにない。

「……だいたいウィリアムからしたら、日本人なんてみんなゲイに見えるだろ」

 そのうち高山がこちらを一瞥して、日本語で呟く。ウィリアムはクスクスと笑った。

「日本の男は細いし、それだけでゲイっぽく見えるよ! みーんなオシャレだしさ!」
「失礼なヤツだな。だいぶ偏見入ってるぞ、それ」

 話はまた別方向へと向かいだしたものの、侑人の心は沈んだままだった。

 その後も酒の席は盛り上がりをみせたが、明日に差支えがないようにと、余裕をもってお開きすることにした。
 ウィリアムは上機嫌で帰っていき、二人はそれを玄関先で見送る。鍵を閉めたところで、侑人は静かに切り出した。

「……ごめん、高山さん。結婚してること言えなくて」

 ぽつりと謝罪すると、高山は小さく息をつく。それから、背後からそっと腕を回してくるのだった。

「そうやってすぐ悪い方に考えちまうの、ちょっと侑人の悪い癖だな」

 やんわりとたしなめるように言って、うなじに口付ける。侑人はどう返したらいいかわからずに身をよじったが、高山は構わず続けた。

「カミングアウトするしないは、個人の自由だろ? なにも良し悪しなんてないんだから、言いたくなけりゃ言わなくていい――それだけの話だ」
「でも……」
「大丈夫だよ。ちゃんとわかってる」

 高山が抱きしめる腕の力を強めてくる。
 侑人はその温もりに安堵するようだったが、どこか複雑な思いで瞳を揺らすのだった。


    ◇


 翌日は就業時間まであっという間だった。仕事を終えた侑人は、帰宅ラッシュの電車に揺られながらぼんやりとする。

(高山さんはああ言ってくれたけど……あまりに過敏なのも、よくないとは思ってるんだよな)

 自分がゲイセクシャルだと自覚したときから、ずっと思い悩んできた。
 引け目を感じてならないし、世間の目にしたってまだまだ冷たいもの。性的マイノリティである以上、生きづらい世の中であることは否定できない。

(こんなので俺、高山さんの気持ちにちゃんと応えられてるのかな)

 高山はいつだって寄り添ってくれるけれど、気がつけば、事あるごとに不安を感じてしまう自分がいて――の繰り返しだ。確かな感情はあるというのに、人の心は一筋縄ではいかないものなのだと、何度だって思い知らされる。

(あーやめやめっ、高山さんからも悪い癖だって言われただろ? ……せっかくだから高い肉買って帰ろ。昨日は変な感じになっちゃったし、ちょっと豪勢にしてやる!)

 頭を左右に振って、ネガティブな考えを振り払おうとする。と、そのときだった。

 車内は人で溢れかえり、侑人はつり革に掴まって立っていたのだが――下半身に違和感を覚える。尻のあたりを何かが撫でまわしているような感覚があるのだ。
 侑人は思わず身を強張らせた。最初は手が当たっているだけだと思ったけれど、明らかに意志をもって動いている。

(っ、最悪! こっちはしがないサラリーマンだってのに、本気かよ……っ)

 こんなのいつぶりだろう。少なくとも、社会人になってからはほとんどなかったのに。
 侑人は内心うんざりしつつも、どうにか平静を保とうとする。ここで騒ぎ立てても仕方がないし、次の駅まで辛抱するしかあるまい。

 しかし、痴漢の手は徐々に大胆になっていく。ついに尻たぶを鷲掴みされ、思わず声が出そうになってしまった。

(うっ……この、変態野郎。人が抵抗しないとみたら、いい気になりやがって)

 怒りと嫌悪感でどうにかなりそうだ。それでもなんとか堪えて、侑人は唇を噛む。

 一方、痴漢の行為はとどまることを知らない。スラックス越しに割れ目を撫でられ、背筋がぞくりと震えるのがわかった。
 男ながらに怖くなってきて、冷や汗が滲む。が、突如として聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
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