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おまけSS 新生活のお買い物(第8.5話)
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同性入居可の住まいを探すのに苦労はしたが、それはさておき――二人の新居が決まってしばらく。新しく家具や生活用品を揃えようと、高山は侑人ともに家具量販店へ訪れていた。
「ソファー、これとかどうだ? 収納付きで機能性もあるし」
「うーん……確かにいいけど、もう少し金額抑えたいな。部屋も広いことだし、この値段のぶん、収納ラックとか買ってもいいんじゃない?」
「あー確かにそれもありだな。じゃあ、クッションのカバーは?」
「そのあたりは高山さんに任せるよ。俺、インテリアとかよくわからないし、合いそうなの選んでもらえたら嬉しい」
「了解。任せとけよ」
新生活は何かと物入りだ。その後もあれやこれやと意見を交わしながら、一緒に家具を選んでいく。
(しかし、いい感じにサクサクと決まっていくなあ……)
フロアを回りながら、ついそのように関心してしまう。
侑人は効率重視であまり遊びがなく、こういったところが高山と正反対だ。
相補性があるというべきか――互いがアクセルとブレーキのような関係で――バランスがとれているのは、共同生活をするうえでありがたいかもしれない。
ところがそんな侑人も、思わぬところで心惹かれるものがあったらしい。
「………………」
視線の先にあったのは、大きなサメのぬいぐるみだった。
全長一メートルほどだろうか、愛嬌のある顔をしているそれらが乱雑に積まれていて――なかなかにシュールな光景だ。
「このサメ、ちょっと前にSNSでよく見かけたよな」
そう声をかけるも、侑人の反応はどこか鈍い。視線もよこさず小さく相槌を返すだけで、すっかりぬいぐるみに心を奪われてしまったかのようだった。
「……買うか」
「はあ!?」
その言葉にようやく視線を上げたかと思えば、侑人は信じられないとばかりに目を丸くする。
高山は構わず、ぬいぐるみを一体持ち上げてから続けた。
「だって、値段も手頃だし」
「こ、こんなでっかいぬいぐるみ、どうすんだよっ。普通に考えて邪魔だろ!?」
「でもこれ、抱き心地いいぜ?」
ほら、と押し付けてやると、一瞬戸惑った様子を見せたものの、侑人はおずおずとそれを受け取った。
「っ……!」
触り心地が気に入ったのか、途端に侑人の表情が明るくなる。そのままぎゅうっと抱きしめて、愛らしくも頬を擦り寄せる始末だった。
高山はそんな光景を微笑ましく見守っていたのだが、侑人はこちらの視線に気づくなり、あっけなくそっぽを向いてしまう。
「いや、男二人の部屋にぬいぐるみとかちょっと」
取り繕うように咳払いしてから口を開く。しかし、今さら何を言っても無駄だ。
「俺が欲しいんだよ」
高山がそう言うと、侑人は上目遣いに様子をうかがってきた。
「た、高山さんがどうしてもって言うなら……いーけど」
「ああ。どうしても欲しい」
思わず口元が緩むのを感じながら、きっぱりと言葉を返す。すると、侑人は「じゃあ……」と呟いて、ぬいぐるみをショッピングカートに入れたのだった。
「はは、親におねだりする子供みたいだな?」
「ったく、高山さんってば……こんな子供がいてたまるかよ」
唇を尖らせるも、満更でもないのは一目瞭然だ。隠しきれぬ喜びがひしひしと伝わってきて、くすぐったい気持ちになってしまう。
(ほんっと可愛くて、面白いヤツ)
そうして店をあとにするのだが、高山は後日たびたび目撃することになる――隠れてぬいぐるみを抱きしめる侑人の姿を。なお、当然見て見ぬふりはしてみせた。
「ソファー、これとかどうだ? 収納付きで機能性もあるし」
「うーん……確かにいいけど、もう少し金額抑えたいな。部屋も広いことだし、この値段のぶん、収納ラックとか買ってもいいんじゃない?」
「あー確かにそれもありだな。じゃあ、クッションのカバーは?」
「そのあたりは高山さんに任せるよ。俺、インテリアとかよくわからないし、合いそうなの選んでもらえたら嬉しい」
「了解。任せとけよ」
新生活は何かと物入りだ。その後もあれやこれやと意見を交わしながら、一緒に家具を選んでいく。
(しかし、いい感じにサクサクと決まっていくなあ……)
フロアを回りながら、ついそのように関心してしまう。
侑人は効率重視であまり遊びがなく、こういったところが高山と正反対だ。
相補性があるというべきか――互いがアクセルとブレーキのような関係で――バランスがとれているのは、共同生活をするうえでありがたいかもしれない。
ところがそんな侑人も、思わぬところで心惹かれるものがあったらしい。
「………………」
視線の先にあったのは、大きなサメのぬいぐるみだった。
全長一メートルほどだろうか、愛嬌のある顔をしているそれらが乱雑に積まれていて――なかなかにシュールな光景だ。
「このサメ、ちょっと前にSNSでよく見かけたよな」
そう声をかけるも、侑人の反応はどこか鈍い。視線もよこさず小さく相槌を返すだけで、すっかりぬいぐるみに心を奪われてしまったかのようだった。
「……買うか」
「はあ!?」
その言葉にようやく視線を上げたかと思えば、侑人は信じられないとばかりに目を丸くする。
高山は構わず、ぬいぐるみを一体持ち上げてから続けた。
「だって、値段も手頃だし」
「こ、こんなでっかいぬいぐるみ、どうすんだよっ。普通に考えて邪魔だろ!?」
「でもこれ、抱き心地いいぜ?」
ほら、と押し付けてやると、一瞬戸惑った様子を見せたものの、侑人はおずおずとそれを受け取った。
「っ……!」
触り心地が気に入ったのか、途端に侑人の表情が明るくなる。そのままぎゅうっと抱きしめて、愛らしくも頬を擦り寄せる始末だった。
高山はそんな光景を微笑ましく見守っていたのだが、侑人はこちらの視線に気づくなり、あっけなくそっぽを向いてしまう。
「いや、男二人の部屋にぬいぐるみとかちょっと」
取り繕うように咳払いしてから口を開く。しかし、今さら何を言っても無駄だ。
「俺が欲しいんだよ」
高山がそう言うと、侑人は上目遣いに様子をうかがってきた。
「た、高山さんがどうしてもって言うなら……いーけど」
「ああ。どうしても欲しい」
思わず口元が緩むのを感じながら、きっぱりと言葉を返す。すると、侑人は「じゃあ……」と呟いて、ぬいぐるみをショッピングカートに入れたのだった。
「はは、親におねだりする子供みたいだな?」
「ったく、高山さんってば……こんな子供がいてたまるかよ」
唇を尖らせるも、満更でもないのは一目瞭然だ。隠しきれぬ喜びがひしひしと伝わってきて、くすぐったい気持ちになってしまう。
(ほんっと可愛くて、面白いヤツ)
そうして店をあとにするのだが、高山は後日たびたび目撃することになる――隠れてぬいぐるみを抱きしめる侑人の姿を。なお、当然見て見ぬふりはしてみせた。
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