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番外編2 一生の思い出をともに
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ある休日の昼下がり。ハワイで挙式した際のフォトアルバムが届き、侑人も高山も「おおーっ」と声を上げた。
「あらためて見るとすごいな」
「うん、でもちょっと恥ずかしいかも……」
高山の言葉に相槌をうちつつ、侑人は顔をほんのりと赤らめる。
アルバムはオーダーメイドで依頼した。表紙には、ビーチを背景にタキシード姿の二人が写っており、まるで写真集のような仕上がりだ。
撮影データは前もって受け取っていたものの、こうして手元に形として残ると、やはり感慨深いものがある。
「うっ、高山さんの写真写りがいい。なんかずるいんだけど」
「なんだそりゃ。お前と変わんないだろ」
二人はソファーに座ってアルバムを捲りだす。
ホテルで身支度をするシーンから始まり、チャペルでの挙式風景やレセプションの様子、ゲストとの集合写真といった具合でページが続いていく。
そしてアルバムの後半は、プランナーの案内で撮影したウェディングフォトだ。青い海が眩しい砂浜に、芝生の生い茂る公園。フォトジェニックな小物を使用したり、サンセットの逆光撮影をしたりと、さまざまなシチュエーションの写真が収められていた。
(ちょっと前のことなのに、なんだか懐かしいな)
どの写真にも幸せそうな二人の姿が写っており、思わず笑みがこぼれる。挙式当日の緊張や感動が蘇ってきて、見ているだけで心が温かくなるようだった。
また、高山にしても同じ感想を抱いていたのだろう。
「――俺さ、侑人と一緒になれてよかった」
そう切り出されて顔を上げれば、穏やかな眼差しが向けられていた。
「結婚して何かが変わったわけでもないけど。お前といると、楽しくて幸せだと思う」
こちらの頬に触れながら、高山が続ける。
突然の言葉に侑人は動揺した。触れられた箇所から熱が広がっていく感覚を覚え、じわじわと顔が赤らんでいく。
「な、なんだよ。突然、恥ずかしいこと言いだして」
「ふと思っただけだよ。『あー幸せだなあ』って」
言って、腕を回して抱き寄せてくる。侑人はますます赤面しながらも、大人しくその腕の中に収まった。
「……まあ確かに。結婚したからって変わらないよな、俺ら」
「おい、そこだけ変に拾うなよ」
高山が苦笑を浮かべる。が、気にせず続けてやった。
「思えば、甘い新婚生活なんてのもなかったしさ。金銭のこと、家事のこと……あれこれ言い合いだってしたし」
「あったあった。けど、人と深く関わるってそんなもんだろ」
「だよな」侑人は素直に頷く。「それにさ、俺はなんだかんだ嬉しかったよ」
すると、きょとんとした表情が返ってきた。
そんな高山の肩にそっと頭を預ける。そして、心からの言葉を静かに紡いだ。
「そういったたび、健二さんと一歩ずつ――ちゃんとした〝家族〟になる気がしてさ」
もとはと言えば他人なのだから、ときには衝突することだって当然ある。けれど、こうして二人でいるということは、そういうことなのだと思う。
互いを理解し合い、尊重し、支え合う。そうやって少しずつ〝家族〟になっていく。誰かを愛すること、ともに生きることの意味を――ほかでもない高山が教えてくれた。
「だから、これからもよろしく」
そのような言葉とともに笑顔を向ければ、高山は面食らったように瞬きを数度繰り返した。ややあって、同じように穏やかな笑みを返してくる。
「ああ。これからも一緒に……こうして歳重ねていこうな」
額に口づけを落とされ、侑人はくすぐったさに肩をすぼめた。
「ん、約束」
そう返しながらも、本当は今にも泣きそうになっていた。
この一瞬一瞬を愛おしまずにはいられない。大切に積み重ねて、全部思い出にしていきたい――。
胸に込み上げてくる感情を噛みしめつつ、自然と重なり合った左手と左手。薬指にはめられた結婚指輪は、二人の永遠を象徴するかのように強くきらめいていた。
fin.
「あらためて見るとすごいな」
「うん、でもちょっと恥ずかしいかも……」
高山の言葉に相槌をうちつつ、侑人は顔をほんのりと赤らめる。
アルバムはオーダーメイドで依頼した。表紙には、ビーチを背景にタキシード姿の二人が写っており、まるで写真集のような仕上がりだ。
撮影データは前もって受け取っていたものの、こうして手元に形として残ると、やはり感慨深いものがある。
「うっ、高山さんの写真写りがいい。なんかずるいんだけど」
「なんだそりゃ。お前と変わんないだろ」
二人はソファーに座ってアルバムを捲りだす。
ホテルで身支度をするシーンから始まり、チャペルでの挙式風景やレセプションの様子、ゲストとの集合写真といった具合でページが続いていく。
そしてアルバムの後半は、プランナーの案内で撮影したウェディングフォトだ。青い海が眩しい砂浜に、芝生の生い茂る公園。フォトジェニックな小物を使用したり、サンセットの逆光撮影をしたりと、さまざまなシチュエーションの写真が収められていた。
(ちょっと前のことなのに、なんだか懐かしいな)
どの写真にも幸せそうな二人の姿が写っており、思わず笑みがこぼれる。挙式当日の緊張や感動が蘇ってきて、見ているだけで心が温かくなるようだった。
また、高山にしても同じ感想を抱いていたのだろう。
「――俺さ、侑人と一緒になれてよかった」
そう切り出されて顔を上げれば、穏やかな眼差しが向けられていた。
「結婚して何かが変わったわけでもないけど。お前といると、楽しくて幸せだと思う」
こちらの頬に触れながら、高山が続ける。
突然の言葉に侑人は動揺した。触れられた箇所から熱が広がっていく感覚を覚え、じわじわと顔が赤らんでいく。
「な、なんだよ。突然、恥ずかしいこと言いだして」
「ふと思っただけだよ。『あー幸せだなあ』って」
言って、腕を回して抱き寄せてくる。侑人はますます赤面しながらも、大人しくその腕の中に収まった。
「……まあ確かに。結婚したからって変わらないよな、俺ら」
「おい、そこだけ変に拾うなよ」
高山が苦笑を浮かべる。が、気にせず続けてやった。
「思えば、甘い新婚生活なんてのもなかったしさ。金銭のこと、家事のこと……あれこれ言い合いだってしたし」
「あったあった。けど、人と深く関わるってそんなもんだろ」
「だよな」侑人は素直に頷く。「それにさ、俺はなんだかんだ嬉しかったよ」
すると、きょとんとした表情が返ってきた。
そんな高山の肩にそっと頭を預ける。そして、心からの言葉を静かに紡いだ。
「そういったたび、健二さんと一歩ずつ――ちゃんとした〝家族〟になる気がしてさ」
もとはと言えば他人なのだから、ときには衝突することだって当然ある。けれど、こうして二人でいるということは、そういうことなのだと思う。
互いを理解し合い、尊重し、支え合う。そうやって少しずつ〝家族〟になっていく。誰かを愛すること、ともに生きることの意味を――ほかでもない高山が教えてくれた。
「だから、これからもよろしく」
そのような言葉とともに笑顔を向ければ、高山は面食らったように瞬きを数度繰り返した。ややあって、同じように穏やかな笑みを返してくる。
「ああ。これからも一緒に……こうして歳重ねていこうな」
額に口づけを落とされ、侑人はくすぐったさに肩をすぼめた。
「ん、約束」
そう返しながらも、本当は今にも泣きそうになっていた。
この一瞬一瞬を愛おしまずにはいられない。大切に積み重ねて、全部思い出にしていきたい――。
胸に込み上げてくる感情を噛みしめつつ、自然と重なり合った左手と左手。薬指にはめられた結婚指輪は、二人の永遠を象徴するかのように強くきらめいていた。
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