65 / 113
番外編 寂しがり屋のひとりえっち♡(1)
しおりを挟む
二人での共同生活にも慣れてきた頃。
高山が夕食の席で切り出したのは、海外出張の話だった。
「ふうん、このご時世に海外出張なんて大変だな。気を付けていってらっしゃい」
「おいおい、ちょっと冷たくねえか? 最近は角が取れて、すっかり丸くなったと思ってたのによ」
「いや、仕事なのにこれ以上なんと言えと……。ああ、お土産はいらないから。無事に帰ってくれば十分」
同情こそすれど、出張なんてサラリーマンならよくあることだ。これ以上かける言葉がないのだが、高山はなぜか不服そうにしていた。
「ったく、二週間も離れ離れなんだぞ? 寂しくないのかよ?」
「ええっ? たかが二週間程度、子供じゃないんだし」
「俺は寂しいけどなあ」
高山がわざとらしくため息をつき、箸を置いた。テーブルに頬杖をつきつつ、こちらをじっと見つめてくる。
「まだ食ってんだけど」
「今のうちに補充しとかないと、だろ?」
「いい歳して大袈裟な……」
正直、なにを言っているのかと呆れてしまう。
いちいち寂しがるほど子供でもないし、海外とはいえ二週間程度ならあっという間だろう。
そう軽く捉えていたのだが――のちに侑人は身をもって、その言葉の意味を知ることとなるのだった。
◇
数週間後、高山は出張先であるロサンゼルスへと旅立った。
最初のうちは、侑人も平然としていたものだったが、
「……二週間ってこんなに長かったっけ」
シャワーを終えて、濡れた髪をタオルで拭きながら呟く。
一人きりの部屋はやけに広く感じられたし、話し相手もいないため静かだ。食事もどこか味気なければ、テレビをつけても興味を惹く番組もなく、BGM代わりに流しておくだけになってしまった。
もちろんのこと、高山は頻繁に連絡してくれていたものの、なんせ十七時間の時差がある。あちらが夜なら、こちらは昼間だったりとなかなかタイミングが合わない。
そんなこんなで次第に寂しさを覚えるようになって、今ではこのありさまだ。
たかが二週間、されど二週間。二人でいる日常に慣れてしまったぶん、会えないものはやはり寂しい。
(でも……やっと、今日帰ってくる)
そう、今日は待ちに待った日だった。二週間もの海外出張を終えて、高山がこの家に帰ってくるのだ。
侑人はソファーに腰掛け、そわそわと落ち着かない心地で時計を見たり、意味もなくスマートフォンを確認したりした。
時刻は夜の十時を回ったところ。すでに飛行機は発着しているはずだが、まだ連絡はない。こちらからメッセージの一つでも入れようかとも思ったけれど、なんだか催促しているようで気が引けてしまう。
と、思い悩んでいたそのときだった。高山から通話がかかってきたのは。
「も、もしもしっ――高山さん、こっち戻ってきたの?」
食い気味に出れば、通話越しに苦笑する気配がした。
『出るの早いな。待ちきれなかったのか?』
「なっ!」
図星を突かれて言葉に詰まる。かたや、高山は疲れを感じさせるような声色で続けた。
『けど悪い。しばらく前に帰国したんだが、ちょっと仕事が立て込んでてな……今日は帰れそうにない』
「え?」
申し訳なさそうに告げられた言葉に、舞い上がっていた気持ちが一瞬にしてしぼむ。
本当は今すぐにでも会いたかった。出張から帰ってきた高山を、誰よりも労ってあげたかった。けれど、ここで駄々をこねても迷惑になるだけだと思い直し、なんとか平静を装って相槌を打つ。
「そう、なんだ」
『待ってなくていいから、今日のところは寝ててくれ。そっちは明日も仕事だろ?』
「……うん。高山さんこそ、無理して体壊さないよう気をつけて」
納得はしているつもりだが落胆を隠しきれない。通話を終えると、侑人は深く息をついてベッドへと寝転がった。
高山が夕食の席で切り出したのは、海外出張の話だった。
「ふうん、このご時世に海外出張なんて大変だな。気を付けていってらっしゃい」
「おいおい、ちょっと冷たくねえか? 最近は角が取れて、すっかり丸くなったと思ってたのによ」
「いや、仕事なのにこれ以上なんと言えと……。ああ、お土産はいらないから。無事に帰ってくれば十分」
同情こそすれど、出張なんてサラリーマンならよくあることだ。これ以上かける言葉がないのだが、高山はなぜか不服そうにしていた。
「ったく、二週間も離れ離れなんだぞ? 寂しくないのかよ?」
「ええっ? たかが二週間程度、子供じゃないんだし」
「俺は寂しいけどなあ」
高山がわざとらしくため息をつき、箸を置いた。テーブルに頬杖をつきつつ、こちらをじっと見つめてくる。
「まだ食ってんだけど」
「今のうちに補充しとかないと、だろ?」
「いい歳して大袈裟な……」
正直、なにを言っているのかと呆れてしまう。
いちいち寂しがるほど子供でもないし、海外とはいえ二週間程度ならあっという間だろう。
そう軽く捉えていたのだが――のちに侑人は身をもって、その言葉の意味を知ることとなるのだった。
◇
数週間後、高山は出張先であるロサンゼルスへと旅立った。
最初のうちは、侑人も平然としていたものだったが、
「……二週間ってこんなに長かったっけ」
シャワーを終えて、濡れた髪をタオルで拭きながら呟く。
一人きりの部屋はやけに広く感じられたし、話し相手もいないため静かだ。食事もどこか味気なければ、テレビをつけても興味を惹く番組もなく、BGM代わりに流しておくだけになってしまった。
もちろんのこと、高山は頻繁に連絡してくれていたものの、なんせ十七時間の時差がある。あちらが夜なら、こちらは昼間だったりとなかなかタイミングが合わない。
そんなこんなで次第に寂しさを覚えるようになって、今ではこのありさまだ。
たかが二週間、されど二週間。二人でいる日常に慣れてしまったぶん、会えないものはやはり寂しい。
(でも……やっと、今日帰ってくる)
そう、今日は待ちに待った日だった。二週間もの海外出張を終えて、高山がこの家に帰ってくるのだ。
侑人はソファーに腰掛け、そわそわと落ち着かない心地で時計を見たり、意味もなくスマートフォンを確認したりした。
時刻は夜の十時を回ったところ。すでに飛行機は発着しているはずだが、まだ連絡はない。こちらからメッセージの一つでも入れようかとも思ったけれど、なんだか催促しているようで気が引けてしまう。
と、思い悩んでいたそのときだった。高山から通話がかかってきたのは。
「も、もしもしっ――高山さん、こっち戻ってきたの?」
食い気味に出れば、通話越しに苦笑する気配がした。
『出るの早いな。待ちきれなかったのか?』
「なっ!」
図星を突かれて言葉に詰まる。かたや、高山は疲れを感じさせるような声色で続けた。
『けど悪い。しばらく前に帰国したんだが、ちょっと仕事が立て込んでてな……今日は帰れそうにない』
「え?」
申し訳なさそうに告げられた言葉に、舞い上がっていた気持ちが一瞬にしてしぼむ。
本当は今すぐにでも会いたかった。出張から帰ってきた高山を、誰よりも労ってあげたかった。けれど、ここで駄々をこねても迷惑になるだけだと思い直し、なんとか平静を装って相槌を打つ。
「そう、なんだ」
『待ってなくていいから、今日のところは寝ててくれ。そっちは明日も仕事だろ?』
「……うん。高山さんこそ、無理して体壊さないよう気をつけて」
納得はしているつもりだが落胆を隠しきれない。通話を終えると、侑人は深く息をついてベッドへと寝転がった。
48
お気に入りに追加
646
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる