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第9話 結婚式と、それから…(1)
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月日は瞬く間に過ぎていき、およそ一年後。
「本気で、こんな日が来るなんて……っ」
侑人は信じられない思いで頭を抱えた。姿見を見れば純白のタキシードに身を包み、緊張した面持ちの自分がいる。
――今日は結婚式当日。宿泊先のホテル内でメイクアップしてもらい、ちょうど着替えを済ませたところだった。
「おいおい、今さら何言ってるんだ。今日までさんざん準備してきただろ?」
背後から声をかけられてハッとする。
振り返れば、同じくタキシード姿の高山が苦笑を浮かべて立っていた。髪も綺麗にセットされており、普段よりも男前に数段磨きがかかっている。
その姿を見た途端、侑人は心臓が大きく跳ねるのを感じたが、誤魔化すように言葉を返した。
「だ……だって、今になってやっと実感が湧いてきたっていうか。……なあ、高山さん。俺ら本当に結婚するんだな?」
「そんなこと言ったら、昨日も保健局で手続きしてきただろうが。あとは式さえ挙げれば、もうこっちじゃ婚姻してるって認められるんだぞ?」
「!」
そう、現在二人がいるのは米国・ハワイ州。日本の同性婚制度を待たずとも、配偶者として生きていきたい――と、二人は海外でのリーガルウェディングを選択したのだった。
日本での法的効力はないものの、現地では正式に婚姻していることが認められるし、戸籍にもその記載が加えられる。また、高山が務めている外資系企業の本社はニューヨークにあるため、もし転勤になった場合、婚姻関係にある相手のビザも会社側がスポンサーとなって申請できるとのことだ。
まさかそこまで考えてくれているのかと恐れ入るものがあったが、今後を思えばなんとも嬉しい限りである。こちらだってそれなりの覚悟はしているし、何があっても高山についていくつもりなのだから。
(とはいえ、結婚式って……なあ)
侑人はごくりと唾を飲み込む。緊張で顔を強張らせていたら、高山が軽い調子で肩を揉んできた。
「そう身構えんなよ。せっかくの結婚式なんだ、目一杯楽しんで最高の日にしようぜ」
「高山さん……」
「タキシードだって似合ってる。感動のあまり泣きそうなくらいに、な」
姿見を覗き込んでそう続ける高山に、侑人もいくらか緊張がほぐれた心地がした。高山はこんなときだって相変わらずだ。
「そ、それはさすがに言いすぎだろ。高山さんの方が何倍も似合ってるってのに」
言いつつ、あらためて自分たちの格好を見直した。クラシカルなタキシードに、ベストとボウタイを合わせたスタイルは、いかにも新郎といった美しい装いである。
ただやはりと言うべきか、顔立ちといいスタイルといい、高山には到底及ばない。高山のタキシード姿はあまりにも様になっていて、ついドキリとしてしまうものがあった。
「そうか? まあ、確かになかなか男前かもな」
「自分で言うなって……でも、本当に格好いいよ」
「はは、ありがとな。――っと、そろそろ時間だ。行こうぜ」
そうこうやり取りをしているうちにも、挙式の時間が迫ってきていた。促されて歩き出せば、高山は侑人の腰に手を回してくる。
エスコートしてくれるのは嬉しいのだが、妙に気恥ずかしくて落ち着かない。もちろん風土の違いとして偏見の目は一切なく、現地の人々は「おめでとう!」と祝福してくれたものの、それとこれとは別問題である。
「ほら、足元気をつけろよ」
「う、うん」
どぎまぎしながらも、リムジンに乗り込んで移動する。
やがて到着したのは、海に面した美しいチャペルだった。木造の三角屋根が印象的な佇まいに、解放感溢れる自然豊かな庭園。思わず目を奪われて、侑人も高山も小さく感嘆の声を上げた。
これからこのチャペルで誓いを立て、生涯の伴侶として生きていくのだと思うと感慨深いものがある。
スタッフに案内されて歩みを進めれば、参列者である互いの親族もすでに揃っている様子だった。リゾートウェディングらしいアロハシャツやムームーに身を包んだ面々が、皆一様に笑顔で迎えてくれた――かのように思われたのだが、
「本気で、こんな日が来るなんて……っ」
侑人は信じられない思いで頭を抱えた。姿見を見れば純白のタキシードに身を包み、緊張した面持ちの自分がいる。
――今日は結婚式当日。宿泊先のホテル内でメイクアップしてもらい、ちょうど着替えを済ませたところだった。
「おいおい、今さら何言ってるんだ。今日までさんざん準備してきただろ?」
背後から声をかけられてハッとする。
振り返れば、同じくタキシード姿の高山が苦笑を浮かべて立っていた。髪も綺麗にセットされており、普段よりも男前に数段磨きがかかっている。
その姿を見た途端、侑人は心臓が大きく跳ねるのを感じたが、誤魔化すように言葉を返した。
「だ……だって、今になってやっと実感が湧いてきたっていうか。……なあ、高山さん。俺ら本当に結婚するんだな?」
「そんなこと言ったら、昨日も保健局で手続きしてきただろうが。あとは式さえ挙げれば、もうこっちじゃ婚姻してるって認められるんだぞ?」
「!」
そう、現在二人がいるのは米国・ハワイ州。日本の同性婚制度を待たずとも、配偶者として生きていきたい――と、二人は海外でのリーガルウェディングを選択したのだった。
日本での法的効力はないものの、現地では正式に婚姻していることが認められるし、戸籍にもその記載が加えられる。また、高山が務めている外資系企業の本社はニューヨークにあるため、もし転勤になった場合、婚姻関係にある相手のビザも会社側がスポンサーとなって申請できるとのことだ。
まさかそこまで考えてくれているのかと恐れ入るものがあったが、今後を思えばなんとも嬉しい限りである。こちらだってそれなりの覚悟はしているし、何があっても高山についていくつもりなのだから。
(とはいえ、結婚式って……なあ)
侑人はごくりと唾を飲み込む。緊張で顔を強張らせていたら、高山が軽い調子で肩を揉んできた。
「そう身構えんなよ。せっかくの結婚式なんだ、目一杯楽しんで最高の日にしようぜ」
「高山さん……」
「タキシードだって似合ってる。感動のあまり泣きそうなくらいに、な」
姿見を覗き込んでそう続ける高山に、侑人もいくらか緊張がほぐれた心地がした。高山はこんなときだって相変わらずだ。
「そ、それはさすがに言いすぎだろ。高山さんの方が何倍も似合ってるってのに」
言いつつ、あらためて自分たちの格好を見直した。クラシカルなタキシードに、ベストとボウタイを合わせたスタイルは、いかにも新郎といった美しい装いである。
ただやはりと言うべきか、顔立ちといいスタイルといい、高山には到底及ばない。高山のタキシード姿はあまりにも様になっていて、ついドキリとしてしまうものがあった。
「そうか? まあ、確かになかなか男前かもな」
「自分で言うなって……でも、本当に格好いいよ」
「はは、ありがとな。――っと、そろそろ時間だ。行こうぜ」
そうこうやり取りをしているうちにも、挙式の時間が迫ってきていた。促されて歩き出せば、高山は侑人の腰に手を回してくる。
エスコートしてくれるのは嬉しいのだが、妙に気恥ずかしくて落ち着かない。もちろん風土の違いとして偏見の目は一切なく、現地の人々は「おめでとう!」と祝福してくれたものの、それとこれとは別問題である。
「ほら、足元気をつけろよ」
「う、うん」
どぎまぎしながらも、リムジンに乗り込んで移動する。
やがて到着したのは、海に面した美しいチャペルだった。木造の三角屋根が印象的な佇まいに、解放感溢れる自然豊かな庭園。思わず目を奪われて、侑人も高山も小さく感嘆の声を上げた。
これからこのチャペルで誓いを立て、生涯の伴侶として生きていくのだと思うと感慨深いものがある。
スタッフに案内されて歩みを進めれば、参列者である互いの親族もすでに揃っている様子だった。リゾートウェディングらしいアロハシャツやムームーに身を包んだ面々が、皆一様に笑顔で迎えてくれた――かのように思われたのだが、
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