上 下
11 / 107

第2話 十年越しの初デート(4)

しおりを挟む




「って、いきなりお家デートかよっ!」

 高山の住むマンションの一室に招かれ、開口一番に突っ込む。てっきり外出するものだと思っていただけに拍子抜けだ。

「だってお前、ゲイっぽい雰囲気見せたくないんだろ? 男二人でデートスポット歩いたり、外食したりとかさ」
「あ……」

 言われて気がつく。確かにそういった行為はハードルが高く思えるし、どうにも人目を気にしてしまうものがあった。
 本人も言ったかどうか定かでないようなことを、高山は覚えていたというのか。侑人は思わぬところで嬉しさを感じてしまった。

(いやいやっ、なに甘ったるいこと考えてんだよ。高山さんはいつもどおりだってのに、俺ばっか意識してバカみたいじゃん)

 そう思うと腹が立ってくる。

 高山はさっさと靴を脱いで部屋に上がり込んでいた。侑人が複雑な心境で後を追えば、綺麗に片づけられたリビングダイニングに通される。
 広々とした空間は、いかにもお洒落なデザイナーズマンションといった雰囲気だ。家具や家電も品が良いものを取り揃えてあり、モデルハウスのような印象さえ受ける。

「なんだか懐かしいな。こうしてうち来んの、学生のとき以来だよな」
「あの頃は安アパートのワンルームだっただろ。……自慢か、この高給取りめ」

 普段はあまり意識しないのだが、やはり住む世界が違うのだと突きつけられた気分だ。
 こちらは日用品メーカー営業職。対して高山は外資系製薬会社MR――エリートサラリーマンもいいところである。

(くそっ、やっぱ遊ばれてたりとか……。今までだって、全然そういった素振り見せてこなかったし)

 一人で百面相する侑人をよそに、高山はやはりいつもどおりで。

「どうした、さっきから顔が面白いぞ」

 平然とそんなことを言ってくるものだから、ついカチンときてしまう。侑人は苛立ちを露わにするかのように、どっかりとソファーへ腰を下ろした。

「べつにっ。ただ、この部屋にどんだけの人数連れ込んだのかなあって思っただけ」

 嫌味ったらしく言ってのければ、苦笑が返ってくる。

「おいおい心外だな。確かに昔はそれなりに遊んでいたが、今はそんな気もしねえし、もうお前だけだっての」
「え、冗談だろ」
「なに、まだ信じられないって言うのかよ?」

 高山は呆れたようにため息をつくと、侑人の隣に腰を下ろした。

「高山さ……っ」
「侑人」

 高山の手がこちらへ伸びてきて、やんわりと肩を抱かれる。
 ふわりと香った香水の匂いが鼻腔を刺激し、侑人はドキリとした。いきなりのことで動揺するも、高山は構わずに耳元へと顔を寄せてくる。

「好きだ」

 低く甘い囁きが鼓膜を揺さぶった。たった一言だというのに、全身が火照ったように熱くなっていく。

「だからっ……んなこと突然言われても。つか、名前で呼ぶなって」

 居たたまれなさに侑人は身を引こうとするも、高山がそれを許さない。肩に回された手に力が込められて、ますます距離が縮まった。

「――……」

 顔が近い。吐息を感じるほどの距離に鼓動が激しくなる。

(キスされる……っ)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

悲劇の公爵令嬢に転生したはずなのですが…なぜかヒーローでもある王太子殿下に溺愛されています

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のリリアナは、ある日前世の記憶を取り戻すとともに、死ぬ寸前まで読んでいた漫画の世界に転生している事に気が付いた。 自分が転生したリリアナは、ヒロインでもある悪女に陥れられ、絶望の中死んでいく悲劇の公爵令嬢だった。 本来なら生きるために、漫画の世界の人間と関りを絶つ方向で動くべきなのだが、彼女は違った。絶望の中死んでいったリリアナの無念を晴らすため、リリアナに濡れ衣を着せた悪女、イザベルとその協力者たちを断罪し、今度こそヒーローでもある王太子殿下、クリスとの幸せを目指すことにしたのだ。 一方クリスは、ある事情から今度こそ元婚約者だったリリアナを幸せにするため、動き出していた。 そして運命のお茶会で、2人は再開するはずだったのだが… 悲劇の公爵令嬢に転生したリリアナと、2度目の生を生きるクリスの恋のお話しです。 カクヨム、小説家になろうでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いします。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む

小平ニコ
恋愛
「いくら高貴な大公っていっても、あんな変態ジジイの相手をするなんて、私、嫌だからね。だからシンシア、あんたが私の"身代わり"になるのよ」 主人公シンシアは、義妹ブレアナの身代わりとなり、好色と噂の年老いた大公に買われることになった。優しかった本当の母親はすでに亡くなっており、父はシンシアに対する関心と愛情を失っていて、助けてはくれない。そして継母グロリアは実の娘であるブレアナのみを溺愛し、シンシアを『卑しい血』『汚いもの』と蔑んでいた。 「シンシア。あなたは生まれつきの穢れた娘であり、汚いものよ。汚らしい好色の年寄りにはお似合いだわ。汚いものは汚いもの同士でくっついていなさい」 すべてを捨てて逃げ出そうかとも思ったシンシアだが、この世でたった二人、自分を愛してくれている祖父母の生活を守るため、シンシアは怒りと悔しさを飲み込んでブレアナの身代わりになることを受け入れた。 大公家でどんな苦難に遭遇してもくじけずに働き、着実に認められていくシンシア。そしてとうとう、卑劣な者たちが報いを受ける日がやって来たのだった……

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

王妃ですけど、側妃しか愛せない貴方を愛しませんよ!?

天災
恋愛
 私の夫、つまり、国王は側妃しか愛さない。

処理中です...