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第1話 俺と結婚するか?(5)
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「む、無理なんかしてないっ」
「第一、俺との関係切れてねえじゃん」
「だって、それは……高山さんとセックスすんの、気持ちいいから」
「その時点で無理あるだろ。相手にも悪いとか思わないのかよ」
「もしかしたら、本気で好きになる可能性だってあるだろ」
「実はバイでした、っての? じゃあ、抱こうと思えば女も抱けるんだな?」
ぐうの音も出ないとはまさにこのことだ。侑人は口をつぐみ、視線を逸らすことしかできなかった。
ややあってから、やっとのことで言葉を紡ぎ出す。
「……高山さん。互いのプライベートには口出ししない、って決めなかった?」
「この件に関しては、前々からお前が話してきたことだろうが。てっきり愚痴だとか相談の類だと思ってたんだが?」
「そりゃあ、こんなこと話せるの……あんたしかいないし」
侑人がぼそぼそと呟けば、高山は「そうかよ」とだけ返してきた。
基本的に侑人は猫被りだ。昔からそうだったが、いつだって爽やかで人当たりのいい好青年を演じており、適度な距離感でほどほどに好かれる存在として過ごしてきた。
しかし、そんな仮面もこの男の前では剥がれ落ちてしまう。
取り繕う必要のない相手だからなのだろうけれど、家族の以外で素の自分をさらけ出せるのはただ一人――高山だけだった。だからつい甘えて、ふてぶてしい態度を取ってしまうのだと思う。
「でも、そういうことなんだろうな」侑人は力なく言った。「高山さんの言うとおり、俺には無理があったのかも。縁を切られるたび、なんか自分が否定されているみたいに思えてさ。……普通に恋愛して、当たり前みたいに結婚できる人ってやっぱすごいよ」
「………………」
何を思ったのか、高山が頭を撫でてくる。
高山のよくある癖だ。いつもなら払いのけるところなのだが、今はそんな気にもなれなかった。
「瀬名はどうしてそんなに結婚したいんだ? 世間体でも気にしてんのか?」
不意に問いかけられる。侑人は少しの間のあとに答えた。
「それもあるけど――誰かとの深い絆がほしいと思うのは、人として当然のことだろ。寂しい老後なんて迎えたくないし、愛し合えるパートナーとともに人生を送れたらどんなにいいか」
「……愛し合えるパートナー、ね」
「『何のために生きてるんだろう』『この先ずっと一人だったら』……みたいなこと、高山さんは考えねえの?」
「さて、どうだかな? まあ少なくとも、俺はお前より楽観的らしい」
「なんだよ、その答え」
「つまり瀬名は、一人で生きていくのが怖いってことなんだな」
淡々としたやり取りの末、高山が勝手に話をまとめてしまう。
情けない話ではあるが、言ってしまえばそのとおりである。侑人が頷くと、高山はふわりと優しげな笑みを浮かべた。そして、思いもよらぬ言葉を放つ。
「なら――もう俺と結婚するか?」
「え……」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
冗談とも本気ともつかない口調で言われ、侑人は思わず言葉を失う。しかし、高山は笑みこそ浮かべているものの、至って真面目な表情だ。
「な、何言ってんだよ。タチの悪い冗談?」
「おい、俺に人の心はないのか。わざわざ冗談で言うことかよ」
「いやおかしいだろ! 体の相性がいいってだけで、その気なんてないくせにっ」
「あるよ」
「なっ」
「俺、瀬名のこと好きだぜ」
「ふあっ!?」
突然の告白に、侑人の顔は一瞬にして赤くなった。ついでに素っ頓狂な声まで出てしまい、居たたまれない気持ちでいっぱいになる。
「第一、俺との関係切れてねえじゃん」
「だって、それは……高山さんとセックスすんの、気持ちいいから」
「その時点で無理あるだろ。相手にも悪いとか思わないのかよ」
「もしかしたら、本気で好きになる可能性だってあるだろ」
「実はバイでした、っての? じゃあ、抱こうと思えば女も抱けるんだな?」
ぐうの音も出ないとはまさにこのことだ。侑人は口をつぐみ、視線を逸らすことしかできなかった。
ややあってから、やっとのことで言葉を紡ぎ出す。
「……高山さん。互いのプライベートには口出ししない、って決めなかった?」
「この件に関しては、前々からお前が話してきたことだろうが。てっきり愚痴だとか相談の類だと思ってたんだが?」
「そりゃあ、こんなこと話せるの……あんたしかいないし」
侑人がぼそぼそと呟けば、高山は「そうかよ」とだけ返してきた。
基本的に侑人は猫被りだ。昔からそうだったが、いつだって爽やかで人当たりのいい好青年を演じており、適度な距離感でほどほどに好かれる存在として過ごしてきた。
しかし、そんな仮面もこの男の前では剥がれ落ちてしまう。
取り繕う必要のない相手だからなのだろうけれど、家族の以外で素の自分をさらけ出せるのはただ一人――高山だけだった。だからつい甘えて、ふてぶてしい態度を取ってしまうのだと思う。
「でも、そういうことなんだろうな」侑人は力なく言った。「高山さんの言うとおり、俺には無理があったのかも。縁を切られるたび、なんか自分が否定されているみたいに思えてさ。……普通に恋愛して、当たり前みたいに結婚できる人ってやっぱすごいよ」
「………………」
何を思ったのか、高山が頭を撫でてくる。
高山のよくある癖だ。いつもなら払いのけるところなのだが、今はそんな気にもなれなかった。
「瀬名はどうしてそんなに結婚したいんだ? 世間体でも気にしてんのか?」
不意に問いかけられる。侑人は少しの間のあとに答えた。
「それもあるけど――誰かとの深い絆がほしいと思うのは、人として当然のことだろ。寂しい老後なんて迎えたくないし、愛し合えるパートナーとともに人生を送れたらどんなにいいか」
「……愛し合えるパートナー、ね」
「『何のために生きてるんだろう』『この先ずっと一人だったら』……みたいなこと、高山さんは考えねえの?」
「さて、どうだかな? まあ少なくとも、俺はお前より楽観的らしい」
「なんだよ、その答え」
「つまり瀬名は、一人で生きていくのが怖いってことなんだな」
淡々としたやり取りの末、高山が勝手に話をまとめてしまう。
情けない話ではあるが、言ってしまえばそのとおりである。侑人が頷くと、高山はふわりと優しげな笑みを浮かべた。そして、思いもよらぬ言葉を放つ。
「なら――もう俺と結婚するか?」
「え……」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
冗談とも本気ともつかない口調で言われ、侑人は思わず言葉を失う。しかし、高山は笑みこそ浮かべているものの、至って真面目な表情だ。
「な、何言ってんだよ。タチの悪い冗談?」
「おい、俺に人の心はないのか。わざわざ冗談で言うことかよ」
「いやおかしいだろ! 体の相性がいいってだけで、その気なんてないくせにっ」
「あるよ」
「なっ」
「俺、瀬名のこと好きだぜ」
「ふあっ!?」
突然の告白に、侑人の顔は一瞬にして赤くなった。ついでに素っ頓狂な声まで出てしまい、居たたまれない気持ちでいっぱいになる。
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