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第1話 俺と結婚するか?(4)★
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「それは――ん、っ!」
言い返そうとした矢先、高山が顎を掴んできて唇を塞がれてしまう。
嫌でも伝わってくる独特の臭いと、甘いような苦いようなケミカルな味。せめてメンソール系の銘柄にしてくれたらいいのにと思うけれど、おそらくは叶わぬ願いだろう。
(やっぱマズ……)
――今となっては、すっかり慣れ親しんでしまった不味いキス。思うところはあるものの、侑人は目を閉じて抵抗することなく受け入れる。
何だかんだと言っても、気持ちいいものは気持ちいい。セックスに限らず、キスだってそうだ。他との経験がないからどうだか知らないけれど、それにしたってすっかり虜になっているのだと自覚せざるを得ない。
「ん……」
高山に上唇をやんわりと吸われ、唇を重ねたまま左右に擦られる。こちらも同じようにやり返してやれば、後頭部にそっと手を回されて深く口づけられた。
歯列を割って侵入してくる熱い舌先。舌同士を絡ませると、少しだけピリピリとした刺激を感じた。煙草の匂いも味も嫌いだが、この感覚だけは嫌いではない。
「――……」
薄目で見やれば、高山の表情もどこか気持ちよさそうに思えた。
体の相性がいい。きっと互いにそう思っているのだと思う。実際、高山との関係はもう十年ほどになるのだが、一度だって連絡が途絶えたことがない。
(ほんっと、変にハマってる……そろそろ潮時だってのに)
結婚、という二文字が頭をよぎるのは何度目だろう。
このままずるずると関係を続けるわけにはいかない。そうとわかってはいるものの、ままならぬ感情を抱える侑人がいた。
こうして高山とセックスをするのは、性欲処理とストレス発散のため。今日にしたって、相手から連絡がなければ自分から誘うつもりだった。
そう、所詮は都合のいいセフレという関係でしかない。それなのに――などと考えていたら、唐突に薄く開いた瞳とかち合った。
「………………」
高山は「またか」といった顔をしたあと、わざとらしく音を立てて舌に吸い付いてくる。
ムッとした侑人は、負けじと高山の舌を甘噛みしてやった。すると、今度は舌先でくすぐるようにして上顎をなぞられる。
「ん、ふ……っ」
ぞくりとした感覚が背筋を駆け抜け、鼻にかかった声が漏れ出てしまう。
その様子を見て満足したのか、高山の唇がゆっくりと離れていく。二人の間を名残惜しそうに銀糸が伝い、やがてぷつりと途切れた。
「で、何かあったのかよ」
灰皿で煙草の火を揉み消しつつ、高山が尋ねてくる。
「何か、って」
「今さら言い訳とかすんじゃねえぞ。セックスの最中だって考え事してただろ」
はっきりと言われては、誤魔化すこともできない。
侑人は小さく息をつくと、観念したように口を開いた。
「……婚活。今回の相手も駄目だった」
言って、自嘲気味に笑う。
結婚を前提とした相手を探そうと、実はここしばらく結婚相談所に通っていたのだ。が、結果はどれも芳しくない。
「まだやってたのか」高山はやれやれとばかりに肩をすくめる。「俺も人のこと言えた立場じゃないが、お前って本気で結婚したいと思ってんのかよ」
「したいに決まってるだろ。俺だっていい歳なんだし」
「ゲイなのにか?」
間髪を入れずに返され、侑人は言葉に詰まった。何も返せないでいると、高山の深いため息が返ってくる。
「相変わらず猫被ってるみてーだけどな、恋愛ともなると話が変わってくんだろ。無理してるって相手にもわかっちまうもんじゃねえの」
言い返そうとした矢先、高山が顎を掴んできて唇を塞がれてしまう。
嫌でも伝わってくる独特の臭いと、甘いような苦いようなケミカルな味。せめてメンソール系の銘柄にしてくれたらいいのにと思うけれど、おそらくは叶わぬ願いだろう。
(やっぱマズ……)
――今となっては、すっかり慣れ親しんでしまった不味いキス。思うところはあるものの、侑人は目を閉じて抵抗することなく受け入れる。
何だかんだと言っても、気持ちいいものは気持ちいい。セックスに限らず、キスだってそうだ。他との経験がないからどうだか知らないけれど、それにしたってすっかり虜になっているのだと自覚せざるを得ない。
「ん……」
高山に上唇をやんわりと吸われ、唇を重ねたまま左右に擦られる。こちらも同じようにやり返してやれば、後頭部にそっと手を回されて深く口づけられた。
歯列を割って侵入してくる熱い舌先。舌同士を絡ませると、少しだけピリピリとした刺激を感じた。煙草の匂いも味も嫌いだが、この感覚だけは嫌いではない。
「――……」
薄目で見やれば、高山の表情もどこか気持ちよさそうに思えた。
体の相性がいい。きっと互いにそう思っているのだと思う。実際、高山との関係はもう十年ほどになるのだが、一度だって連絡が途絶えたことがない。
(ほんっと、変にハマってる……そろそろ潮時だってのに)
結婚、という二文字が頭をよぎるのは何度目だろう。
このままずるずると関係を続けるわけにはいかない。そうとわかってはいるものの、ままならぬ感情を抱える侑人がいた。
こうして高山とセックスをするのは、性欲処理とストレス発散のため。今日にしたって、相手から連絡がなければ自分から誘うつもりだった。
そう、所詮は都合のいいセフレという関係でしかない。それなのに――などと考えていたら、唐突に薄く開いた瞳とかち合った。
「………………」
高山は「またか」といった顔をしたあと、わざとらしく音を立てて舌に吸い付いてくる。
ムッとした侑人は、負けじと高山の舌を甘噛みしてやった。すると、今度は舌先でくすぐるようにして上顎をなぞられる。
「ん、ふ……っ」
ぞくりとした感覚が背筋を駆け抜け、鼻にかかった声が漏れ出てしまう。
その様子を見て満足したのか、高山の唇がゆっくりと離れていく。二人の間を名残惜しそうに銀糸が伝い、やがてぷつりと途切れた。
「で、何かあったのかよ」
灰皿で煙草の火を揉み消しつつ、高山が尋ねてくる。
「何か、って」
「今さら言い訳とかすんじゃねえぞ。セックスの最中だって考え事してただろ」
はっきりと言われては、誤魔化すこともできない。
侑人は小さく息をつくと、観念したように口を開いた。
「……婚活。今回の相手も駄目だった」
言って、自嘲気味に笑う。
結婚を前提とした相手を探そうと、実はここしばらく結婚相談所に通っていたのだ。が、結果はどれも芳しくない。
「まだやってたのか」高山はやれやれとばかりに肩をすくめる。「俺も人のこと言えた立場じゃないが、お前って本気で結婚したいと思ってんのかよ」
「したいに決まってるだろ。俺だっていい歳なんだし」
「ゲイなのにか?」
間髪を入れずに返され、侑人は言葉に詰まった。何も返せないでいると、高山の深いため息が返ってくる。
「相変わらず猫被ってるみてーだけどな、恋愛ともなると話が変わってくんだろ。無理してるって相手にもわかっちまうもんじゃねえの」
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