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第1話 俺と結婚するか?(1)★
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「結婚は人生の墓場」だの、「楽しいのは最初のうちだけ」だの――。
いつだったか社内で交わされていた言葉を、瀬名侑人は思い出していた。
二十七歳・独身という身として焦りは少なからずある。晩婚化が進んでいるとは聞くが、周囲は着々と身を固めているし、それが当たり前なのだと思わざるを得ない。
そんなふうに考えを巡らせていたら、不意に背後から声をかけられた。
「おい、また他のこと考えてるだろ」
侑人は声の主を見やって、ジトリと目を細める。悪いか、と。
すると、相手は不満げに眉をひそめた。
名は高山健二といい、一つ歳上の男である。清潔感のある短い黒髪に、凛々しい目鼻立ち。侑人より五センチは背の高いがっしりとした体型で、営業マンらしく身だしなみにも気を配っている。――まあ、有り体にいえば《イケメン》と形容するのが一番だろう。
「こんなときだってのに随分と余裕だな? 抱かれてるときくらい、俺のこと考えてくれてもいいんじゃねえの?」
高山は軽口を叩きながら、こちらに覆い被さってくる。
時刻は深夜十一時過ぎ。二人の姿はラブホテルの一室にあり、お互い一糸纏わぬ姿で肌を密着させていた。
とはいっても、決して恋人などではない。ふとしたときに連絡しては、後腐れなく体を重ねるような間柄だ。
「っあ、ちょ――ナカ、かき回すなっ」
柔らかくほぐれているそこに、高山の太い指先が潜り込んできた。
二本の指をバラバラに動かされて、ローションがクチュクチュと卑猥な水音を奏でる。こうしてわざと音を立ててくるあたり、タチが悪いというか厄介だ。
「かき回してほしいんだろ? ほら、すっげえエロい音。俺の指、美味そうに咥えこんでるぜ?」
「くっ、最悪……いちいちオヤジくさいんだよ!」
加えてこれだ。表面上は抗議してみせるも、いやらしい囁きに興奮してしまう自分が嫌になる。
「好きなくせに」
高山が口角を上げて言う。
今さら何を言っても無駄なことはわかりきっていた。なんせ、この体は嫌というほど知り尽くされていて、もう知らぬことなど存在しないようなレベルなのだから。
「ん、っは、好きなわけあるか……っ!」
それでも口ごたえしてしまうのは性分ゆえだろう。
高山は見透かしているように笑い、うなじに舌を這わせてきた。侑人が小さく身を震わせると気をよくしたのか、今度は耳朶を甘噛みしてくる。
「あっ、耳やだって」
「敏感だもんな。こうして可愛がってやると、すぐ後ろが締まりやがる」
「は、あんっ、言うな……あ」
耳朶をねっとり舐め上げられ、ぴちゃりと唾液の音が響いた。同時に中の指も動かしてくるものだから、侑人はたまらず腰を浮かせる。
感じるのは、快感よりもじれったさだった。背後からだと逆手になってしまい、ピンポイントで好きなところに触れてもらえない。
(もっと、欲しいのに)
これでは焦らされているようなものだ。もどかしさから自ら腰を揺らせば、高山はククッと喉を鳴らした。
「ったく、やらしいな。腰なんて揺らして物足りないってか?」
「いちいちうるさ――ああっ!」
反論しようとするも、指を引き抜かれた拍子に甲高い嬌声へと変わってしまった。
高山は何ら気にせずアメニティの中からコンドームを手に取り、パッケージを荒っぽく歯で破る。肩越しに侑人が振り返れば、その口元がいやらしく歪んだ。
「何が欲しい?」
そう問いかけながらコンドームを装着する高山は、どこからどう見てもひどく楽しげである。
いつだったか社内で交わされていた言葉を、瀬名侑人は思い出していた。
二十七歳・独身という身として焦りは少なからずある。晩婚化が進んでいるとは聞くが、周囲は着々と身を固めているし、それが当たり前なのだと思わざるを得ない。
そんなふうに考えを巡らせていたら、不意に背後から声をかけられた。
「おい、また他のこと考えてるだろ」
侑人は声の主を見やって、ジトリと目を細める。悪いか、と。
すると、相手は不満げに眉をひそめた。
名は高山健二といい、一つ歳上の男である。清潔感のある短い黒髪に、凛々しい目鼻立ち。侑人より五センチは背の高いがっしりとした体型で、営業マンらしく身だしなみにも気を配っている。――まあ、有り体にいえば《イケメン》と形容するのが一番だろう。
「こんなときだってのに随分と余裕だな? 抱かれてるときくらい、俺のこと考えてくれてもいいんじゃねえの?」
高山は軽口を叩きながら、こちらに覆い被さってくる。
時刻は深夜十一時過ぎ。二人の姿はラブホテルの一室にあり、お互い一糸纏わぬ姿で肌を密着させていた。
とはいっても、決して恋人などではない。ふとしたときに連絡しては、後腐れなく体を重ねるような間柄だ。
「っあ、ちょ――ナカ、かき回すなっ」
柔らかくほぐれているそこに、高山の太い指先が潜り込んできた。
二本の指をバラバラに動かされて、ローションがクチュクチュと卑猥な水音を奏でる。こうしてわざと音を立ててくるあたり、タチが悪いというか厄介だ。
「かき回してほしいんだろ? ほら、すっげえエロい音。俺の指、美味そうに咥えこんでるぜ?」
「くっ、最悪……いちいちオヤジくさいんだよ!」
加えてこれだ。表面上は抗議してみせるも、いやらしい囁きに興奮してしまう自分が嫌になる。
「好きなくせに」
高山が口角を上げて言う。
今さら何を言っても無駄なことはわかりきっていた。なんせ、この体は嫌というほど知り尽くされていて、もう知らぬことなど存在しないようなレベルなのだから。
「ん、っは、好きなわけあるか……っ!」
それでも口ごたえしてしまうのは性分ゆえだろう。
高山は見透かしているように笑い、うなじに舌を這わせてきた。侑人が小さく身を震わせると気をよくしたのか、今度は耳朶を甘噛みしてくる。
「あっ、耳やだって」
「敏感だもんな。こうして可愛がってやると、すぐ後ろが締まりやがる」
「は、あんっ、言うな……あ」
耳朶をねっとり舐め上げられ、ぴちゃりと唾液の音が響いた。同時に中の指も動かしてくるものだから、侑人はたまらず腰を浮かせる。
感じるのは、快感よりもじれったさだった。背後からだと逆手になってしまい、ピンポイントで好きなところに触れてもらえない。
(もっと、欲しいのに)
これでは焦らされているようなものだ。もどかしさから自ら腰を揺らせば、高山はククッと喉を鳴らした。
「ったく、やらしいな。腰なんて揺らして物足りないってか?」
「いちいちうるさ――ああっ!」
反論しようとするも、指を引き抜かれた拍子に甲高い嬌声へと変わってしまった。
高山は何ら気にせずアメニティの中からコンドームを手に取り、パッケージを荒っぽく歯で破る。肩越しに侑人が振り返れば、その口元がいやらしく歪んだ。
「何が欲しい?」
そう問いかけながらコンドームを装着する高山は、どこからどう見てもひどく楽しげである。
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