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第1話 好きでごめんね(4)
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「は、ハル?」
目の前にいる男は、本当に自分が知っている幼なじみなのだろうかと疑いたくもなる。が、こちらの思惑をよそに陽翔は再び顔を近づけてきた。
「だから誰とも付き合う気はないし、そんなこと智也に言われるとすごく腹立つ――」
いつの間にか追いやられてしまい、背中に塀が当たる。真横には陽翔の腕があって逃げ場もなかった。
(こんなハル、知らない)
真っ直ぐな瞳に射抜かれ、智也は思わず顔を逸らした。
心臓がバクバクと脈打っているのが自分でもよくわかる。居たたまれなさに瞼をぎゅうっと閉じれば、どういうことか陽翔が身を離す気配がした。
「……悪いけど、先行くね」
智也が何かを言うよりも早く歩き出す。足早に去っていく後ろ姿を、ただ呆然と見送るしかなかった。
「な、何なんだよ」
初めて見た表情。今まで知らなかった陽翔の一面。幼なじみとして二人の間に隠し事などないと思っていたのにどうして――、
「俺のこと、『好き』って……」
指先で口元をそっとなぞると、柔らかな感触がまだ残っているようだった。
陽翔のことは誰よりも特別に思っているし、大切にしたいと思っている。だが、逆にいえば幼なじみの親友としか思ってこなかった相手なのだ。しかも、男同士。いくらなんでも考えられなさすぎる。
(でも……ハルの目、本気だった)
――俺、智也が好きだよ。
その言葉が頭から一向に離れなくて、智也は困惑するばかりだった。
ぐるぐると思考を巡らせながらも登校すると、すでに陽翔は席についていた。いつものように女子に囲まれながら談笑している。
「あ、おはよう。智也」
「お、はよう」
相手に合わせて挨拶を交わしたものの、つい先ほどのことがちらついて、どうにもぎこちなくなってしまった。
一方、陽翔はというと、普段と変わらない様子で会話を続けている。まるで何事もなかったのように。
(は? はああ……ッ!?)
もしかして白昼夢だったのだろうか。いや、そんなはずはない。
しかし他の生徒がいる手前、何も訊くことができず、智也が悶々と授業を受けているうちにも放課後になっていた。
陽翔は弓道部に所属している。部活動が始まる前に捕まえて話を聞こう――そう思ったものの、「また明日ね」と足早に教室を出て行かれたため、タイミングを逃してしまった。
少し迷ったけれど、このまま帰る気にもなれなかったので校門で待つことにする。
そうして待つこと二時間半。日が沈んできた頃になって、部活動を終えた陽翔が姿を現した。
「えっ! 智也、なんでまだ残ってんの!?」
陽翔はこちらを見るなり、ぎょっとする。
「ハルのこと待ってたんだよ」
「待ってた、って……ああもう手ェ冷えてるじゃん! 連絡入れてくれれば早く上がったのにっ」
四月とはいえ朝晩は肌寒い。陽翔がこちらの手を取って、気づかわしげな表情を向けてくる。
「だって、逃げられたら嫌だし」
「………………」
陽翔は何か言いかけたものの、すぐに口を閉ざしてしまった。ややあってから、思い直したように言葉を返す。
「そう、だね。俺たち……話さなきゃならないことあるよね」
智也もそれに頷いた。二人は会話らしい会話もせずに歩き、通学路にある児童公園へと場所を移す。
目の前にいる男は、本当に自分が知っている幼なじみなのだろうかと疑いたくもなる。が、こちらの思惑をよそに陽翔は再び顔を近づけてきた。
「だから誰とも付き合う気はないし、そんなこと智也に言われるとすごく腹立つ――」
いつの間にか追いやられてしまい、背中に塀が当たる。真横には陽翔の腕があって逃げ場もなかった。
(こんなハル、知らない)
真っ直ぐな瞳に射抜かれ、智也は思わず顔を逸らした。
心臓がバクバクと脈打っているのが自分でもよくわかる。居たたまれなさに瞼をぎゅうっと閉じれば、どういうことか陽翔が身を離す気配がした。
「……悪いけど、先行くね」
智也が何かを言うよりも早く歩き出す。足早に去っていく後ろ姿を、ただ呆然と見送るしかなかった。
「な、何なんだよ」
初めて見た表情。今まで知らなかった陽翔の一面。幼なじみとして二人の間に隠し事などないと思っていたのにどうして――、
「俺のこと、『好き』って……」
指先で口元をそっとなぞると、柔らかな感触がまだ残っているようだった。
陽翔のことは誰よりも特別に思っているし、大切にしたいと思っている。だが、逆にいえば幼なじみの親友としか思ってこなかった相手なのだ。しかも、男同士。いくらなんでも考えられなさすぎる。
(でも……ハルの目、本気だった)
――俺、智也が好きだよ。
その言葉が頭から一向に離れなくて、智也は困惑するばかりだった。
ぐるぐると思考を巡らせながらも登校すると、すでに陽翔は席についていた。いつものように女子に囲まれながら談笑している。
「あ、おはよう。智也」
「お、はよう」
相手に合わせて挨拶を交わしたものの、つい先ほどのことがちらついて、どうにもぎこちなくなってしまった。
一方、陽翔はというと、普段と変わらない様子で会話を続けている。まるで何事もなかったのように。
(は? はああ……ッ!?)
もしかして白昼夢だったのだろうか。いや、そんなはずはない。
しかし他の生徒がいる手前、何も訊くことができず、智也が悶々と授業を受けているうちにも放課後になっていた。
陽翔は弓道部に所属している。部活動が始まる前に捕まえて話を聞こう――そう思ったものの、「また明日ね」と足早に教室を出て行かれたため、タイミングを逃してしまった。
少し迷ったけれど、このまま帰る気にもなれなかったので校門で待つことにする。
そうして待つこと二時間半。日が沈んできた頃になって、部活動を終えた陽翔が姿を現した。
「えっ! 智也、なんでまだ残ってんの!?」
陽翔はこちらを見るなり、ぎょっとする。
「ハルのこと待ってたんだよ」
「待ってた、って……ああもう手ェ冷えてるじゃん! 連絡入れてくれれば早く上がったのにっ」
四月とはいえ朝晩は肌寒い。陽翔がこちらの手を取って、気づかわしげな表情を向けてくる。
「だって、逃げられたら嫌だし」
「………………」
陽翔は何か言いかけたものの、すぐに口を閉ざしてしまった。ややあってから、思い直したように言葉を返す。
「そう、だね。俺たち……話さなきゃならないことあるよね」
智也もそれに頷いた。二人は会話らしい会話もせずに歩き、通学路にある児童公園へと場所を移す。
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