上 下
5 / 54

第1話 好きでごめんね(4)

しおりを挟む
「は、ハル?」
 目の前にいる男は、本当に自分が知っている幼なじみなのだろうかと疑いたくもなる。が、こちらの思惑をよそに陽翔は再び顔を近づけてきた。
「だから誰とも付き合う気はないし、そんなこと智也に言われるとすごく腹立つ――」
 いつの間にか追いやられてしまい、背中に塀が当たる。真横には陽翔の腕があって逃げ場もなかった。
(こんなハル、知らない)
 真っ直ぐな瞳に射抜かれ、智也は思わず顔を逸らした。
 心臓がバクバクと脈打っているのが自分でもよくわかる。居たたまれなさに瞼をぎゅうっと閉じれば、どういうことか陽翔が身を離す気配がした。
「……悪いけど、先行くね」
 智也が何かを言うよりも早く歩き出す。足早に去っていく後ろ姿を、ただ呆然と見送るしかなかった。
「な、何なんだよ」
 初めて見た表情。今まで知らなかった陽翔の一面。幼なじみとして二人の間に隠し事などないと思っていたのにどうして――、
「俺のこと、『好き』って……」
 指先で口元をそっとなぞると、柔らかな感触がまだ残っているようだった。
 陽翔のことは誰よりも特別に思っているし、大切にしたいと思っている。だが、逆にいえば幼なじみの親友としか思ってこなかった相手なのだ。しかも、男同士。いくらなんでも考えられなさすぎる。
(でも……ハルの目、本気だった)
 ――俺、智也が好きだよ。
 その言葉が頭から一向に離れなくて、智也は困惑するばかりだった。



 ぐるぐると思考を巡らせながらも登校すると、すでに陽翔は席についていた。いつものように女子に囲まれながら談笑している。
「あ、おはよう。智也」
「お、はよう」
 相手に合わせて挨拶を交わしたものの、つい先ほどのことがちらついて、どうにもぎこちなくなってしまった。
 一方、陽翔はというと、普段と変わらない様子で会話を続けている。まるで何事もなかったのように。
(は? はああ……ッ!?)
 もしかして白昼夢だったのだろうか。いや、そんなはずはない。
 しかし他の生徒がいる手前、何も訊くことができず、智也が悶々と授業を受けているうちにも放課後になっていた。
 陽翔は弓道部に所属している。部活動が始まる前に捕まえて話を聞こう――そう思ったものの、「また明日ね」と足早に教室を出て行かれたため、タイミングを逃してしまった。
 少し迷ったけれど、このまま帰る気にもなれなかったので校門で待つことにする。
 そうして待つこと二時間半。日が沈んできた頃になって、部活動を終えた陽翔が姿を現した。
「えっ! 智也、なんでまだ残ってんの!?」
 陽翔はこちらを見るなり、ぎょっとする。
「ハルのこと待ってたんだよ」
「待ってた、って……ああもう手ェ冷えてるじゃん! 連絡入れてくれれば早く上がったのにっ」
 四月とはいえ朝晩は肌寒い。陽翔がこちらの手を取って、気づかわしげな表情を向けてくる。
「だって、逃げられたら嫌だし」
「………………」
 陽翔は何か言いかけたものの、すぐに口を閉ざしてしまった。ややあってから、思い直したように言葉を返す。
「そう、だね。俺たち……話さなきゃならないことあるよね」
 智也もそれに頷いた。二人は会話らしい会話もせずに歩き、通学路にある児童公園へと場所を移す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

会長様を手に入れたい

槇瀬光琉
BL
生徒会長の聖はオメガでありながらも、特に大きな発情も起こさないまま過ごしていた。そんなある日、薬を服用しても制御することができないほどの発作が起きてしまい、色んな魔の手から逃れていきついた場所は謎が多いと噂されている風紀委員長の大我のもとだった…。 *「カクヨム」「小説家になろう」にて連載中

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

処理中です...