上 下
4 / 77

第1話 好きなヤツいるから(4)

しおりを挟む

    ◇

 翌朝。バスの停留所で明と挨拶を交わす――あまりにも日常的な登校風景だというのに、落ち着かぬ千佳がいた。
「なにガン飛ばしてんだよ」
「ちっ、違ぇーし!」
 決して睨みつけていたわけではないけれど、意図せず視線を向けてしまっていたらしい。
 昨日のことが脳裏をちらついて気まずい。今日に限って停留所には二人しかいないし、バスも遅れているようで、時間の経過がやけに長く感じられた。
「あの、よ。お前って好きな人いんの?」
 居ても立っても居られなくて、ストレートに訊いてみる。
 唐突な問いかけに、さすがの明も目を丸くした。
「……は?」
「じ、実は俺さ、聞いちゃったんだよね。中原さんに告られたとき、そう返してたの」
「お前な」
 はあ、とため息をつかれる。正直に言いすぎた感は否めないが、千佳の性格上、黙っていることなんてできなかった。
「いるよ、好きなヤツ」
 ややあって、明は何のことはないように口にする。
「……誰だよ? 俺の知ってる人?」
「ンなの言う必要ねえだろ」
「なっ、必要あるわ! 友達なら話すのがフツーだろ!?」
「………………」
 不意に明の顔がこちらに向いて、ギクリとした。二人の視線がぶつかる。
 真剣な眼差しをしながら、明は口を開いた。
「もし、お前が好きだって言ったら――どうする?」
「えっ」
 思わぬ告白に、小さく声を漏らす。
 そして理解が追い付いた瞬間、得も言われぬ感情が込み上げてきて、咄嗟に顔を背けた。とてもじゃないが、まっすぐに見つめてくる明のことを直視できなかった。
(明が、俺のことを? う、嘘だろ……)
 やけに頬が火照って、胸がうるさいくらいに早鐘を打ち鳴らす。まるで、好きな相手に恋焦がれているかのように。
(男同士、しかもガキの頃からずっと一緒にいるようなヤツだぞ!? ないないない!)
 とは思うものの、胸の高鳴りはちっとも治まる気配がなく、ますます混乱してしまう。このままでは、頭がどうにかなってしまいそうなくらいだ。
「あ、あのさ」
 妙に空いてしまった間が気になって、声をかける。
 しかし、どう返せばいいというのだろうか。思考がままならぬまま悩んでいると、フッという笑い声が聞こえた。
「バーカ、冗談だよ。なに真に受けてんだよ」
「………………」
 何も言葉が出てこなかった。信じられないことに、「冗談」と聞いてショックに感じている自分がいたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!

三崎こはく
BL
 サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、 果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。  ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。  大変なことをしてしまったと焦る春臣。  しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?  イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪ ※別サイトにも投稿しています

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

「短冊に秘めた願い事」

悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。 落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。  ……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。   残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。 なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。 あれ? デート中じゃないの?  高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡ 本編は4ページで完結。 その後、おまけの番外編があります♡

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

猫をかぶるにも程がある

如月自由
BL
陽キャ大学生の橘千冬には悩みがある。声フェチを拗らせすぎて、女性向けシチュエーションボイスでしか抜けなくなってしまったという悩みが。 千冬はある日、いい声を持つ陰キャ大学生・綱島一樹と知り合い、一夜の過ちをきっかけに付き合い始めることになる。自分が男を好きになれるのか。そう訝っていた千冬だったが、大好きオーラ全開の一樹にほだされ、気付かぬうちにゆっくり心惹かれていく。 しかし、弱気で優しい男に見えた一樹には、実はとんでもない二面性があって――!? ノンケの陽キャ大学生がバリタチの陰キャ大学生に美味しく頂かれて溺愛される話。または、暗い過去を持つメンヘラクズ男が圧倒的光属性の好青年に救われるまでの話。 ムーンライトノベルズでも公開しております。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...