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第1話 好きなヤツいるから(3)
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明が踵を返す。話はこれで終わりだ、と背中が語っていた。
単純に関心がないのだろう。これまでも何人もの女子が明に告白していたようだが、そのすべてを彼は断っていた。
(だからこそ、こうして一緒にいてバカやってられるんだけど。でも、性欲とかねーの? 男としてあり得なくない?)
ふと下劣なことを考えてしまう。
普段が淡泊なだけに想像がつかないけれど、そこまであの男は枯れているのだろうか。健全な男子として、さすがにそれはないと思いたいが。
(どの子もタイプじゃねーのかな? 中原さんまでフるとか正気かよ……)
中原の愛らしい容姿を考えれば、どうにも信じられない。モテる男の考えることが理解できなくて、千佳は頭を抱えるのだった。
その日の授業が終わって放課後。いつもならクラスメイトとともに下校するのだが、今日ばかりは気が進まなかった。
(俺に隠れて付き合うとかいう流れにならねーだろうな? そんなん許してたまるかっ)
頭にあるのは明と中原の一件だ。中原に会えば、あの明も手のひらを返すのではないか――気になって、千佳はこっそりと廊下の角で見張ることにしたのだった。
しばらくすると中原が教室にやって来て、千佳もドアの前へ移動する。ソワソワとしながら聞き耳を立てた。
「私、瀬川くんのことが好きなの。私と付き合ってください!」
わああっ、と叫びたい気持ちになる。こんな告白を受けて断れる男がいるのだろうか。
「悪い」
――いた。
(マジかよ! 別に付き合ってほしいワケじゃねーし、むしろ付き合うなって感じだけど……マジかよ!?)
困惑しつつも、ホッと胸を撫で下ろす。やはり何というか、明の隣に特別な女子がいる光景は想像つかないものがある。
「あ……ううん、こっちこそ突然ごめんね。もしかして彼女いた?」
「いや、いないけど」
(はいはい、関心がないからってね!)
そう高を括っていたが、続く言葉は予想だにしないものだった。
「好きなヤツ、いるから」
瞬間、心臓がドクンッと脈打った。
驚きのあまり窓から教室を覗けば、切なげな表情を浮かべている明がいた。初めて見る彼の表情に、千佳は動揺を隠しきれない。
(……恋、してるんだ)
率直にそう思った。自分が中原に感じていた感情とは、きっと度合いが違うだろう。
しかし、好きな人ができたなんて聞いていない。千佳からは事あるごとに話してきたが、明の口からそういった話は一つも出てこなかった。
(なんか、モヤモヤする)
中原に対してではない。明に対してだ。
自分の知らない明がいると考えただけで、心がざわついてしまう。もはや二人の会話など耳に入らなくて、静かにその場を離れたのだった。
単純に関心がないのだろう。これまでも何人もの女子が明に告白していたようだが、そのすべてを彼は断っていた。
(だからこそ、こうして一緒にいてバカやってられるんだけど。でも、性欲とかねーの? 男としてあり得なくない?)
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「悪い」
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「あ……ううん、こっちこそ突然ごめんね。もしかして彼女いた?」
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(はいはい、関心がないからってね!)
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瞬間、心臓がドクンッと脈打った。
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