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season4
scene22-02
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数日後。お盆も終わりに近づき、毎年恒例の花火大会が近所で行われる日。
誠と大樹は、帰省を締めくくるように今年も会場を訪れていた。縁日の露店を回ったあと、少し離れた小さな広場――馴染み深い穴場スポットへと移動する。
「早く来すぎたか」
「いーじゃん、いい場所とれて」
大樹の言葉に短く返すと、それきり黙ってしまう。周囲に人はまだおらず、虫の声だけがささやかに聞こえた。
「あのさ。結局、俺たちの関係言わねえの?」
思い切って口にする。
もう帰省も終わりだというのに、二人が付き合っていることは未だに告白していない。一体どうするのかと、ずっと気になっていたのだ。
「だって、嫌なんだろ?」
「え?」
「いつもと様子違ったから心配だった。認められるかどうか不安なんだと思ってたけど、そうじゃないように思えたから」
(気づいてたんだ……)
やはり大樹は聡いと思った。
誠の胸にあるのは、どうして二人の関係性を言わなくてはいけないのか、ということだった。最初はよくわからなかったが、両親の顔を見ているうち、だんだんとその考えが強くなるのを感じていた。
「大樹の言うことはわかるし、俺的にも孫の顔を見せらんないのは悪いなとは思う。だけど、認められたいとか、許されたいとかってのはなくて……つーか、そんな理由で伝えるのはワガママみたいな感じがして」
あれからいろいろと考えて、自分なりに思うことはあるものの、きちんと言葉にならなくて黙ってしまう。
「ゆっくりでいいよ。自分の考え、まとめてから話せよ」
「ごめん」
悪い癖だと感じつつも、言われたとおりに考えをまとめる。やや時間を置いて静かに口を開いた。
「後ろめたさがあるなら、二人の関係を認めてもらえば楽になるかもだけど……言われる側の気持ちも忘れちゃいけない、と……思う」
「……そうか。確かに、親からしたらショックどころじゃないよな」
「えっと、俺だって、いつかは伝えなきゃいけないって思うよ? けど、自分たちのためじゃなくてさ、親を安心させるために言いたいってゆーか」
大樹が首を傾げる。負い目を感じている身としては、ピンと来なかったらしい。どう言えばうまく伝わるだろうかと考え、言葉を足すことにした。
「ほら、男同士じゃ結婚できねーじゃん? うちの親のことだから、ずーっと独身でいるのとか不安に感じるに違いないし」
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周囲が身を固めていくなか、自分はそういったものに縁のない人生を送ることになるのだと思う。自分の両親は、それを不憫に思わぬ親ではないはずだ。
「つまり、誠は」
大樹に頷いて、真っ直ぐに瞳を見つめる。そして……、
「『俺にも大切なパートナーがいるんだぜ。確かに人とは形が違うだろうけど、ちゃんと幸せだから安心してよ』ってさ。いつかきっと言うんだ。――だって、俺の幸せは俺が決めるんだもんね」
口にした途端、胸に立ち込めていた靄が晴れて、相手を愛おしく思う気持ちでいっぱいになるのを感じた。
(な、な~んてクサかったかな!? さすがにこのロマンチストも……)
わたわたと考えていたら、不意に大樹の顔が迫ってきた。ほんの一瞬だけ唇が触れる。
「わかったよ。――誠のことは俺が幸せにする。お前が自信持って幸せだと言えるよう、責任もって一生面倒見てやるから」
この男は根っからのロマンチストであった。自分が言葉にした以上のことを真顔で返されては、もう顔を赤くするしかない。
「確実に、三度は体温上がった!」
「三度も上がったらヤバいだろ、バカ犬」
「い、言っとくけど、俺を幸せにってだけじゃ駄目だかんな。一緒に分かちあってくんなきゃ、意味ねーからなっ」
「何を言ってるんだか。俺の幸せはお前が幸せなことだ」
「っ!」
メロドラマのような台詞の連続に、何も言えなくなってしまう。それでいて、相手があまりにも嬉しそうに笑うものだから、お手上げだった。
しばらくすると徐々に人が集まってきて、花火が打ち上がり始める。大輪の花々が美しく咲き乱れていくさまに、二人で見入った。
ちらと隣を見れば大樹が微笑みを浮かべていて、あたたかな気持ちがまた膨らんでくる。思い返すのは、先ほど交わした誓いとも取れる言葉だった。
「幸せだなあ……」
独り言のつもりだった呟きは、どうやら大樹の耳に届いたらしい。穏やかな瞳で見つめてくるのがわかった。
ちょんと指先同士が触れ合って、こっそりと周囲に見えないように手を繋ぐ。言葉は交わさずとも、想いが伝わってくるようだった。
(ああ、本当に。当たり前のように、大樹が隣にいてくれることが……)
今が幸せか。そう訊かれたら、誠は間違いなく無垢な笑顔で肯定する。
この頭は都合よくできていて、何ということはない日常でも――特別な人がいてくれるだけで幸せに感じるのだから。
小さな幸せを一つ一つ積み重ねながら、この先もずっと二人で。
fin.
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