或る少女の失態

しゃんゆぅ

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出来るだけ人に見られないようにコソコソと、まるで密命を受けた忍者のように忍びながら私はひいおばあちゃんの家を目指す。

ひいおばあちゃんの家までの距離は、私の足で二十分ほど。
これが遠いのか近いのかわからないけれど、知ってる人に会いませんようにと祈りながら、私はずっしりと重いリュックを背負い早足で歩く。

その時だった。

「あっれーー?しーちゃんじゃない?朝早くからどったの?」

背後から聞こえたその声に、ドキリと私の心臓が高鳴る。
壊れた薇人形のようにゆっくりと後ろを振り返ると、そこには近所に住む女子高生のカオリおねーちゃんがいた。

「あ…えっと、おはよう、カオリおねーちゃん」
「おはよー。しーちゃんも朝練?…じゃ、ないか、うーん何だー?」

挨拶もそこそこに、カオリおねーちゃんは私の周りをぐるぐる歩きだす。
身体を石みたいにカチコチに凍らせた私を怪訝そうに見つめていたおねーちゃんは、何か思いついたかのように目を見開くと、にんまりと口角を上げた。

「もしかして、アレ?」
「!?」

飛び上がるように私がおねーちゃんを見つめると、彼女は歯を見せながらにっと笑った。

「そっかー!しーちゃんもかー!!私も今くらいの時期だったかなー?しーちゃんもこっちに来たかー、何か嬉しー!」

ぐしゃぐしゃと元気よく私の頭を撫でながら、カオリおねーちゃんは笑う。

その姿に、安堵から私の身体はふにゃりと溶けた。

そうだ、この人はいつも私に色んなことを教えてくれるんだ。
対策だって、おねーちゃんが教えてくれた。
怯える必要なんてなかったんだ。
いっつも怒ってばかりの私の家族と違うんだ。

私と同じ人なんだ。

「…でも、上手くできなかったの」
「いーって!誰だって最初はそんなもんよ!朝練あるからこれからは無理だけど、お昼に一回帰ってくるから、そんときにまた色々話したげるよ!」
「本当!?」

嬉しさで輝く私の顔を両手でムニっと挟みながら、おねーちゃんは笑う。
社会科見学で見た、お寺の像みたいな笑顔だ。

「もっちろんよ!じゃ、ちょっと行ってくるね!…あとしーちゃん、歩く時は堂々と!そっちの方が逆に目立たないから!!」
「うん!!わかった!!カオリおねーちゃんもいってらっしゃい!!!」

私の向かう道とは逆の道を行きながら手を振るカオリおねーちゃんに、私は大きく両手を振る。

曲がり角のギリギリまで手を振ってくれたおねーちゃんを見送って、私は再びひいおばあちゃんの家を目指して歩き始めた。

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