蒼き轍

その子四十路

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最終話

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「悔しくないはずがない。きみはまだ十七歳だった。突然、未来を奪われてしまったのだから。だけどね、真青。きみの言う通り、亡くなったひとはどうすることもできないの」

 噂が嘘だったらどんなによかったか。
 迷いに迷って、ようやくこの場所を訪れたのが二か月前。
 真実ではありませんようにと祈っていたのに、真青の幽霊は廃駅にひっそりと佇んでいた。
 幽霊だと自覚せず、わたしを待っていた。
 亡くなったままの痛ましい姿ではあったが、真青に会えてうれしかった。
 会いたかった。わたしはずっと真青に会いたかったから。

 真実を告げるのがつらくて、今夜まで先延ばししていた。
 それでも真青は、魂の還る場所へ旅立つべきだ。
 このまま真青を、拠り所なく漂う魂にはしたくない。
 若すぎる死━━
 しかし、真青は決して、かわいそうなだけの存在ではない。
 真青は生きた。必死に生きていた。

 真青が生きた十七年の歴史を、ないがしろにしないで!

「おれ、死んだのか……そうか。そうだったんだな」

 真青は唇を震わせる。笑おうとして失敗した、途方に暮れた表情だった。
 わたしに手を伸ばすが、触れられない。
 真青はよりいっそう寂しげに微笑んだ。

「こんなふうになっちまったけど、紅美に会えてよかった。これでもう未練を残すことなく逝ける……おれを、」

“忘れないでくれ”、“忘れてくれ”どちらのようにも聞こえた。
 吐息のように囁いて、真青は闇に溶けた。
 置いてけぼりの卒業証書を抱きしめる。
 こぼれ落ちる涙と雪がぐちゃぐちゃに混ざって、頬が冷たかった。

「成仏しろよぉ、馬鹿真青……」

 真青が幽霊でも、そばにいてほしかった。ずっとそばにいたかった。
 けれど、生死によって分かたれてしまったわたしたちが、一緒にいて許されるのだろうか。
 この世に縛りつけて、真青の魂は安らげるのだろうか。

 いつかわたしは、真青以外の誰かと恋をするのだろうか。想像もできない。

 この夜を忘れたくない。真青との思い出が色せてゆくのが怖い。
 ずっと、きみに恋をしていた。ずっとずっと、きみに恋をしていた。

 ──やがて、夜が明ける。
 目がくらむような眩しい朝陽が、荒れたレールをきらきらと照らしていた。了
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