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第1話
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身体の芯まで凍える春の宵、廃駅のレールを辿る。
人々の記憶から忘れられた駅は暗く、物悲しい。
レールは枯れ草に覆われ、前に進むのも、引き返すのも躊躇するような獣道。
うら寂しい景色に雪がちらつく。朝になれば跡形もなく溶けてしまうだろう。
「ここ、幽霊が出るんだって」
「嘘つけ。幽霊なんていねぇよ。紅美は幼稚だな」
否定されてムッとする。嘘じゃないのに。
肝試しにおあつらえ向きな場所だが、超常現象を信じない幼なじみは鼻で笑う。
いけない、いけない。わたしたちはすぐ、些細なことで喧嘩になる。
一緒にいる時間が長すぎて、素直になれない。つい、張り合ってしまうのだ。
━━互いに、同じ気持ちだとわかっているのに。
今日、三月一日は、高校の卒業式。
卒業式に参加できなかった幼なじみの真青に、手作りの卒業証書を手渡す。
真青は高校を中退し、家族を養うために働いている。
「ありがとう。うれしい」
馬鹿にするかと思ったが、真青は卒業証書を見つめてはにかんだ。
幼稚園のころから変わらない笑顔に、胸がくしゃっとしめつけられる。
いくつになっても、真青の本質は変わらない。心の奥に澄んだ泉を隠している。
疲れているのか、真青の顔色は悪い。脚を引きずっている。
支えようと手を差し出すが、真青は笑いながら顔を横に振った。
「荷造り、手伝えなくて悪かったな」
「大丈夫。必要なものは向こうで買いそろえるから、たいした荷物はないの。あっという間に終わっちゃった」
明日、わたしは大学進学のために上京する。
だから今夜は、真青と過ごす最後の夜。さしずめ、さよなら前夜だ。
幼稚園・小学校・中学校……真青が高校を中退するまで、いつも一緒だった。
一緒にいるのが当たり前すぎて、真青がどんな存在なのか、考えたこともなかった。
同級生・友人よりも距離が近いけれど、真青は家族ではない。家族にときめいたり、しない。
わたしにとって真青は、誰よりもそばにいてほしいひと。
遠くに行ってしまうから、会わないままでこの町を出ようかとも考えた。
だけど、後悔を抱えて生きてゆくのはつらすぎる。
人生は長いようで儚い。ときに、幻のようなもの。
今夜、わたしは真青に告げる。ありったけの想いを。
人々の記憶から忘れられた駅は暗く、物悲しい。
レールは枯れ草に覆われ、前に進むのも、引き返すのも躊躇するような獣道。
うら寂しい景色に雪がちらつく。朝になれば跡形もなく溶けてしまうだろう。
「ここ、幽霊が出るんだって」
「嘘つけ。幽霊なんていねぇよ。紅美は幼稚だな」
否定されてムッとする。嘘じゃないのに。
肝試しにおあつらえ向きな場所だが、超常現象を信じない幼なじみは鼻で笑う。
いけない、いけない。わたしたちはすぐ、些細なことで喧嘩になる。
一緒にいる時間が長すぎて、素直になれない。つい、張り合ってしまうのだ。
━━互いに、同じ気持ちだとわかっているのに。
今日、三月一日は、高校の卒業式。
卒業式に参加できなかった幼なじみの真青に、手作りの卒業証書を手渡す。
真青は高校を中退し、家族を養うために働いている。
「ありがとう。うれしい」
馬鹿にするかと思ったが、真青は卒業証書を見つめてはにかんだ。
幼稚園のころから変わらない笑顔に、胸がくしゃっとしめつけられる。
いくつになっても、真青の本質は変わらない。心の奥に澄んだ泉を隠している。
疲れているのか、真青の顔色は悪い。脚を引きずっている。
支えようと手を差し出すが、真青は笑いながら顔を横に振った。
「荷造り、手伝えなくて悪かったな」
「大丈夫。必要なものは向こうで買いそろえるから、たいした荷物はないの。あっという間に終わっちゃった」
明日、わたしは大学進学のために上京する。
だから今夜は、真青と過ごす最後の夜。さしずめ、さよなら前夜だ。
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一緒にいるのが当たり前すぎて、真青がどんな存在なのか、考えたこともなかった。
同級生・友人よりも距離が近いけれど、真青は家族ではない。家族にときめいたり、しない。
わたしにとって真青は、誰よりもそばにいてほしいひと。
遠くに行ってしまうから、会わないままでこの町を出ようかとも考えた。
だけど、後悔を抱えて生きてゆくのはつらすぎる。
人生は長いようで儚い。ときに、幻のようなもの。
今夜、わたしは真青に告げる。ありったけの想いを。
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