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10.ロマンスには思えません

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 ルルメリアの家名問題は、確かにどちらでも問題ないという結論になった。ルルメリアとしては、王立学園に行くことができればいいのだと思う。

 もともと学園には、本人が望むのであれば行かせてあげたいと思っていた。私も兄も通って得られたものは多い。学費という大きな壁は、実は解決していて、兄夫婦より残された遺産は学費相当分だった。私が働き続けているのは、それに手をつけずに生活をするため。

 ……だがしかし。このように不純な理想を抱いている義娘を、学園に通わられるかは難しいところだ。
 問題が起こるとわかっていて、送り出すわけにもいかない。ただ、それはあくまでも現状の話。実際にルルメリアが学園に通うのは十年先の話なので、どうにかできる余地は十分ある。

「それでルル。学園に入ったら、どんな風に過ごすの?」
「えっとね、まずはであいいべんとがあるんだ」

 出会い……イベント。イベントと聞くと、催し物が浮かんでしまうが恐らく違う気がする。出会いとは、そのままの意味で受けとる方がいいのではないか。

「それはマクシミリアン殿下にお会いするっていうことかな」
「そうだよ! まくしみりあんでんかだけじゃなくてね、ほかのひとも!」
「……そっか」

 ま、まだ大丈夫。顔を合わせて出会うくらい、何も問題ない。そう思いたかったが、男をはべらせると言ったルルメリアの言葉を思い出した。それなら、出会わないでくれと願うべきかもしれない。
 冷静に思考を働かせながら、一旦話を聞くことにした。

「であいいべんとは、だいごみなの!」
「醍醐味、か」

 そこから学園生活が始まるのだから、確かに重要なことだろうとは思う。ただ、醍醐味と思ってもらっては困る。こっちはその未来をどうにか回避できないか考えているんだ。

「五人と一気に出会うの? それとも別、なのかな」
「べつだよ。それぞれね、いべんとがあるんだ!」

 つまり五人分回避する方法を考えなくてはいけないってことですね、了解。
 もう頭を悩ませる時間すら惜しい私は、真剣にルルメリアの説明を分析し始めた。

「それは凄いね。五人分のイベントかぁ、知りたいな」
「いいよ!」
「ふふっ。ありがとう、ルル。じゃあまずは、マクシミリアン殿下とはどう出会うの?」
「まくしみりあんさまはね、にゅうがくしきのひにであうの!」
「そうなんだ」

 入学早々危険があるのか。それは気を引き締めないといけない 。

「わたしがね、はんかちをおとしちゃって。それをひろってくれたのが、まくしみりあんさまなの!」
「……凄いロマンティックだね」
「でしょー!」

 感想を口に出して優しい微笑みを浮かべながらも、私の中で対策ができあがっていた。
 
 ルル、ごめんね。お母さんの中では、入学式当日ハンカチ及びに落とすようなものを持たせないことを決めたよ。

 もちろん、そんな簡単に出会いイベントとやらを避けられるとは思っていないが、可能性を削ぐことはしておきたい。意外と気を付ければ回避できるのかもしれないと思って、どんどん話を進めた。

「じゃあ次は」
「くれいぐさま!」
「クレイグ様ね。彼とはどう出会うの?」
「えっとね。くれいぐさまがあたしのこと、きになってくれるの!」
「気になる……」

 確かクレイグ様と言うのは大公子様だ。もしや、大公子様は没落貴族の末裔と言う珍奇なものに興味があるのだろうか。

「くれいぐさまはね、いつもかんぺきでゆーしゅーなの」
「そうなのね」

 大公子ともあれば、優秀で完璧なのは納得できる。ただ尚更わからないのは、そんな子がルルメリアに興味を抱く理由だった。

「でもそれがふたんでね、つらいんだって」
「それは……期待が負担、ってとこかな」

 同情するかのように、悲しそうに語るルルメリア。ルルメリアの言う大公子様にも悩みがあるようだ。

「しっぱいしたらどうしようって、ふあんばっかりなの」」

 やけに現実的な背景と心情に、クレイグ様が本当に存在しているように思えてきた。もちろんルルメリアのシナリオを信じていないわけではない。むしろ、ルルメリアのいう未来は当たってしまっている。

 それを理解した上での感想だった。期待を背負って失敗に恐れるという生徒わ、私は学園で何度も見てきたのだ。

「でもね、あたしのげんきなすがたみて、きになってくれるの」
「……元気な姿って何かな」

 元気な姿とは一体何だろう。今のルルメリアは確かに活発で明るい子だ。しかし、十年後はさすがに様子が変わると思う。

「えっとね、あたしがしっぱいしても、けんめいにがんばってるところ!」
「……そうなんだね」

 失敗を恐れない人に興味を抱く心理はわからなくはない。ただ、これに関しては変えようがない。ルルメリアにはそのままでいて欲しいし、その理由で惹かれてしまうのなら、私が止めることはできない。むしろ、純愛になる可能性があるのならそれでいいのかもしれない。

 ただ一つ、気になることがあるけど。

「ちなみになんだけど、ルル。クレイグ様は婚約者っていないよね?」
「いるけど……なんで?」

 きょとんと即答するルルメリアに、私も作り笑顔を浮かべる。
 駄目でした。純愛じゃないなら、どうにかする道を探さないといけません。
 今度こそ頭を抱えたくなったものの、ルルメリアはあることに気が付いた。
 
「あっ、わるいこだ」
「……うん」
「ひとのものは、とっちゃだめ」
「そうだね」

 ルルメリアが成長している……! 思わず感動して胸がじーんと熱くなっていく。

「あ、でも」
「うん」
「くれいぐさまが、あたしにこくはくするときは、こんやくかいしょうしてるからだいじょうぶだよね?」
「それは……」

 何だその難しい状況は……! 
 手続きは踏んでいるからいい、とはあまり言いたくない。裏側を聞いてしまった身としては、それさえも略奪もどきに聞こえてしまう。王子殿下も大公子さまとの恋愛も、私にはあまりロマンティックに思えない。

 これはやはり、出会いを阻止するほかないのかもしれないと頭を悩ませるのであった。
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