10 / 41
10.ロマンスには思えません
しおりを挟むルルメリアの家名問題は、確かにどちらでも問題ないという結論になった。ルルメリアとしては、王立学園に行くことができればいいのだと思う。
もともと学園には、本人が望むのであれば行かせてあげたいと思っていた。私も兄も通って得られたものは多い。学費という大きな壁は、実は解決していて、兄夫婦より残された遺産は学費相当分だった。私が働き続けているのは、それに手をつけずに生活をするため。
……だがしかし。このように不純な理想を抱いている義娘を、学園に通わられるかは難しいところだ。
問題が起こるとわかっていて、送り出すわけにもいかない。ただ、それはあくまでも現状の話。実際にルルメリアが学園に通うのは十年先の話なので、どうにかできる余地は十分ある。
「それでルル。学園に入ったら、どんな風に過ごすの?」
「えっとね、まずはであいいべんとがあるんだ」
出会い……イベント。イベントと聞くと、催し物が浮かんでしまうが恐らく違う気がする。出会いとは、そのままの意味で受けとる方がいいのではないか。
「それはマクシミリアン殿下にお会いするっていうことかな」
「そうだよ! まくしみりあんでんかだけじゃなくてね、ほかのひとも!」
「……そっか」
ま、まだ大丈夫。顔を合わせて出会うくらい、何も問題ない。そう思いたかったが、男をはべらせると言ったルルメリアの言葉を思い出した。それなら、出会わないでくれと願うべきかもしれない。
冷静に思考を働かせながら、一旦話を聞くことにした。
「であいいべんとは、だいごみなの!」
「醍醐味、か」
そこから学園生活が始まるのだから、確かに重要なことだろうとは思う。ただ、醍醐味と思ってもらっては困る。こっちはその未来をどうにか回避できないか考えているんだ。
「五人と一気に出会うの? それとも別、なのかな」
「べつだよ。それぞれね、いべんとがあるんだ!」
つまり五人分回避する方法を考えなくてはいけないってことですね、了解。
もう頭を悩ませる時間すら惜しい私は、真剣にルルメリアの説明を分析し始めた。
「それは凄いね。五人分のイベントかぁ、知りたいな」
「いいよ!」
「ふふっ。ありがとう、ルル。じゃあまずは、マクシミリアン殿下とはどう出会うの?」
「まくしみりあんさまはね、にゅうがくしきのひにであうの!」
「そうなんだ」
入学早々危険があるのか。それは気を引き締めないといけない 。
「わたしがね、はんかちをおとしちゃって。それをひろってくれたのが、まくしみりあんさまなの!」
「……凄いロマンティックだね」
「でしょー!」
感想を口に出して優しい微笑みを浮かべながらも、私の中で対策ができあがっていた。
ルル、ごめんね。お母さんの中では、入学式当日ハンカチ及びに落とすようなものを持たせないことを決めたよ。
もちろん、そんな簡単に出会いイベントとやらを避けられるとは思っていないが、可能性を削ぐことはしておきたい。意外と気を付ければ回避できるのかもしれないと思って、どんどん話を進めた。
「じゃあ次は」
「くれいぐさま!」
「クレイグ様ね。彼とはどう出会うの?」
「えっとね。くれいぐさまがあたしのこと、きになってくれるの!」
「気になる……」
確かクレイグ様と言うのは大公子様だ。もしや、大公子様は没落貴族の末裔と言う珍奇なものに興味があるのだろうか。
「くれいぐさまはね、いつもかんぺきでゆーしゅーなの」
「そうなのね」
大公子ともあれば、優秀で完璧なのは納得できる。ただ尚更わからないのは、そんな子がルルメリアに興味を抱く理由だった。
「でもそれがふたんでね、つらいんだって」
「それは……期待が負担、ってとこかな」
同情するかのように、悲しそうに語るルルメリア。ルルメリアの言う大公子様にも悩みがあるようだ。
「しっぱいしたらどうしようって、ふあんばっかりなの」」
やけに現実的な背景と心情に、クレイグ様が本当に存在しているように思えてきた。もちろんルルメリアのシナリオを信じていないわけではない。むしろ、ルルメリアのいう未来は当たってしまっている。
それを理解した上での感想だった。期待を背負って失敗に恐れるという生徒わ、私は学園で何度も見てきたのだ。
「でもね、あたしのげんきなすがたみて、きになってくれるの」
「……元気な姿って何かな」
元気な姿とは一体何だろう。今のルルメリアは確かに活発で明るい子だ。しかし、十年後はさすがに様子が変わると思う。
「えっとね、あたしがしっぱいしても、けんめいにがんばってるところ!」
「……そうなんだね」
失敗を恐れない人に興味を抱く心理はわからなくはない。ただ、これに関しては変えようがない。ルルメリアにはそのままでいて欲しいし、その理由で惹かれてしまうのなら、私が止めることはできない。むしろ、純愛になる可能性があるのならそれでいいのかもしれない。
ただ一つ、気になることがあるけど。
「ちなみになんだけど、ルル。クレイグ様は婚約者っていないよね?」
「いるけど……なんで?」
きょとんと即答するルルメリアに、私も作り笑顔を浮かべる。
駄目でした。純愛じゃないなら、どうにかする道を探さないといけません。
今度こそ頭を抱えたくなったものの、ルルメリアはあることに気が付いた。
「あっ、わるいこだ」
「……うん」
「ひとのものは、とっちゃだめ」
「そうだね」
ルルメリアが成長している……! 思わず感動して胸がじーんと熱くなっていく。
「あ、でも」
「うん」
「くれいぐさまが、あたしにこくはくするときは、こんやくかいしょうしてるからだいじょうぶだよね?」
「それは……」
何だその難しい状況は……!
手続きは踏んでいるからいい、とはあまり言いたくない。裏側を聞いてしまった身としては、それさえも略奪もどきに聞こえてしまう。王子殿下も大公子さまとの恋愛も、私にはあまりロマンティックに思えない。
これはやはり、出会いを阻止するほかないのかもしれないと頭を悩ませるのであった。
34
お気に入りに追加
656
あなたにおすすめの小説
目は口ほどに物を言うといいますが 〜筒抜け騎士様は今日も元気に業務(ストーカー)に励みます〜
新羽梅衣
恋愛
直接目が合った人の心を読めるアメリアは、危ないところを人気の騎士団員・ルーカスに助けられる。
密かに想いを寄せ始めるアメリアだったが、彼は無表情の裏にとんでもない素顔を隠していてーー…。
憧れ? それとも恐怖…?
こんな感情は初めてです…!
乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ
弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』
国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。
これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!
しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!
何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!?
更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末!
しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった!
そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?
狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?!
悪役令嬢だったらどうしよう〜!!
……あっ、ただのモブですか。
いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。
じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら
乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?
ずっと妹と比べられてきた壁顔令嬢ですが、幸せになってもいいですか?
ひるね@ピッコマノベルズ連載中
恋愛
ルミシカは聖女の血を引くと言われるシェンブルク家の長女に生まれ、幼いころから将来は王太子に嫁ぐと言われながら育てられた。
しかし彼女よりはるかに優秀な妹ムールカは美しく、社交的な性格も相まって「彼女こそ王太子妃にふさわしい」という噂が後を絶たない。
約束された将来を重荷に感じ、家族からも冷遇され、追い詰められたルミシカは次第に自分を隠すように化粧が厚くなり、おしろいの塗りすぎでのっぺりした顔を周囲から「壁顔令嬢」と呼ばれて揶揄されるようになった。
未来の夫である王太子の態度も冷たく、このまま結婚したところでよい夫婦になるとは思えない。
運命に流されるままに生きて、お飾りの王妃として一生を送ろう、と決意していたルミシカをある日、城に滞在していた雑技団の道化師が呼び止めた。
「きったないメイクねえ! 化粧品がかわいそうだとは思わないの?」
ルールーと名乗った彼は、半ば強引にルミシカに化粧の指導をするようになり、そして提案する。
「二か月後の婚約披露宴で美しく生まれ変わったあなたを見せつけて、周囲を見返してやりましょう!」
彼の指導の下、ルミシカは周囲に「美しい」と思われるためのコツを学び、変化していく。
しかし周囲では、彼女を婚約者の座から外すために画策する者もいることに、ルミシカはまだ気づいていない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる