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112.最後の報告
しおりを挟むもう一人、報告をしなくてはいけない存在がいる。もう一人……人というか神様だ。
いつも通り教会の神像の前で報告をしようと祈りをささげた瞬間、レビノレアの声が聞こえるのではなく意識が飛ばされるのだった。
「ルミエーラ様!」
(レビノレア……! 呼ぶなら一言先に言いなさいよ! アルフォンスが心配するでしょ!!)
内心に怒りが一瞬だけ浮かぶと、そのまま意識と共に消え去った。
「ルミエーラ」
「……レビノレア」
「うっ。すまない……や、やはりこういう重要な報告は面と向かって聞きたかったからな」
「その気持ちはわかりますけど……」
反省している様子を見ると、ため息を小さくついて怒りを収めた。
「レビノレア……力が戻ったのに、この空間は白いままなのですか? 何か飾ったりとか」
「あぁ……そういう欲がないんだ。だからこのままにしてる。以前もそうだったから」
「そうなんですね」
「だが床に座るわけにもいくまい。椅子くらいは持ってくる」
「あ、お気になさらずーー」
そう言い切る前に、レビノレアはさっと消えてしまった。再び現れてかと思えばどこからか椅子を持ってきていた。
「ありがとうございます」
向かい合って座ると、私はレビノレアに報告をし始めた。
「レビノレアから頂いた力のおかげで、聖女として認められることができました」
「あぁ。見ていた」
「ご覧になってたんですか」
「私の生誕祭だからな」
「確かに」
神像はなくとも、神への敬意が示された祭壇はあったため、あの会場を覗くことはできたのだとか。
「……ありがとう、ルミエーラ。今までで一番嬉しい贈り物だった」
「届いていたのなら何よりです」
「しばらく神殿はあのままでいよう。綺麗だからな」
「私はそれでも良いのですが……厳かな雰囲気が失われますよ?」
「いいんだ。私がそうしたいのだから」
どうやらレビノレアは花の贈り物が想像以上に気に入っているようだった。
「レビノレア……私は役目を最後まで果たしました。なのでこの力もーー」
「その必要はない」
「え?」
「ルミエーラ。君が転生した時に私が言った言葉を覚えているか?」
「……忘れもしませんよ」
レビノレアは確かに“転生特典”と称して欠陥チートを私に授けたのだ。だからこそ、私の神嫌いが発生したのだが……今となっては懐かしい話だ。
「言ったとおりだ。その力は祝福である以前に、転生特典なんだ。それを取り上げることは神である私でもできない。約束を反故にすることになるからな」
「ですが、よいのですか? こんな強大な力……」
「ルミエーラなら問題ない」
「私が闇落ちする可能性が」
「ないだろう。……失うことを受け入れられる強さを持っているからな」
「確かにそうかもしれませんが……」
穏やかな眼差しで問題ないと言い切るレビノレアは、本当に私を信頼しているのだと納得した。それが凄く嬉しくて、顔が少しにやけてしまった。
「ルミエーラ。それよりも重要な報告があるんじゃないか」
「レビノレアからすれば今の報告の方が大切なんじゃ……」
苦笑しながらも、改めて背筋を伸ばしてレビノレアを見た。
「私は最愛の騎士と結婚しまーー」
「おめでとう!!」
「あ、ありがとうございます」
言い切る前に、レビノレアが拍手をしながら立ち上がった。
「いや。本当に嬉しいものだな。特にルミエーラに関しては生まれた頃からすっと見てきたから……送り出すとなると変な気持ちだ」
「送り出すんですか。私としては何かあったらまたここに来る予定だったのですが」
「もちろん来てくれ」
即答するレビノレアに思わず笑ってしまう。
「それで、式の日程は決まったのか?」
「まだ調整中ですが、今月中には挙げるつもりです」
「それはいいな。決まったら教えてくれ」
どうやらレビノレアは今回の会場のように、覗く様子だった。
「わかりました。決まり次第ご報告しますね」
「あぁ。楽しみにしている」
表情は至っていつもと変わらないのだが、どこかうきうきとしている声色のレビノレアに思わず笑ってしまうのだった。
「では私はこれで」
「あぁ。晴れ舞台、楽しみにしているよ」
「ありがとうございます」
こうして私はレビノレアへの報告を終わらせるのだった。
「大丈夫ですか、ルミエーラ様」
「アルフォンス……えぇ」
抱きかかえてくれているのが、もはやお決まりになっているような気がした。
「良かった。お呼び出しされたんですよね?」
「えぇ。……凄く喜んでた」
「それは良かった……ルミエーラ様。最高の式にしましょう」
「えぇ。絶対に」
アルフォンスと見つめ合いながら、二人で笑みを深めるのだった。
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