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111.報告と理解者

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 アルフォンスの言う通りディートリヒ侯爵夫妻には根回し済みで、報告に行けば想像以上に歓迎されたその上、式に関しては今すぐにでも挙げて問題ないとのこと。私以上に乗り気な夫妻には驚かされ、私の不安は杞憂に終わった。

 王都に戻ったので、そのまま教会に戻ってソティカとバートンに神殿で起こったことを説明し始めた。ソティカは私が聖女として認められたことに泣いて喜んでくれた。バートンも労わる言葉をかけ続けてくれたのだった。

 聖女と騎士、そして大神官と世話係が一つのテーブルを囲んで座っているのは非常に異様な光景だった。

「とにかく無事に済んで良かった」
「お疲れ様です。聖女様、ディートリヒ卿」
「「ありがとうございます」」

 私が喋れるようになった経緯に関しては、神殿で語ったものをそのまま伝えた。強大な力を扱えるようになるまでは筆談を要されたのだと。ではその力をいつ習得したのか、という話になるがここまで話しただけでやけにバートンが納得していたのだ。

「あぁ! だから大神官様と頻繫に二人だけの時間を取っていたのだな!!」
「なるほど!」

 バートンだけでなくソティカまでその方向で納得したので、否定はしないでおいた。とにかく丸く収まった報告だったが、まだもう一つ重要な報告が残っているのである。

「あの……もう一つご報告が」
「どうした。神殿で何かあったのか」

 真剣な眼差しで尋ねてくるバートンにふわりと微笑んで返した。

「実は、結婚することになりました」
「…………誰の話だ?」
「私とアルフォンスーーディートリヒ卿が」
「まぁ!!」
「…………………………………………………………………………?」

 ソティカは知っていたと言わんばかりの受け入れ方に対して、バートンは何を言っているのか理解をしていない様子だった。

「おめでとうございます! 聖女様、ディートリヒ卿!!」
「ありがとう、ソティカ。是非式に来て欲しいわ」
「もちろんです!」
「ま、待て。どういうことだ」
「神官長様。どうかルミエーラ様を私に託してくださいませんか」
(お。なんだか娘さんを僕にくださいみたい……ふふっ)

 状況が整理できてないバートンに、アルフォンスは真剣に畳みかけた。

「……正直理解が追い付いていないが、ルミエーラが自分の意思で選んだ結婚なら私は何でも受け入れるつもりだ」
「神官長様……」
「今までたくさん苦労してきただろう。どうかここからはただ幸せになってほしい」
「……ありがとうございます」
「ディートリヒ卿。ルミエーラのことをどうか頼む」
「……必ず二人で幸せになります」
「あぁ。見守っているよ」

 私を見送る眼差しは、もはや親同然のものだった。バートンという存在は、私にとってとてもも大きくありがたい存在だった。




 二つの報告が落ち着き、気を利かせてアルフォンスとソティカが席を外してくれて部屋には私とバートンのみになった。

「……私の知らないところで本当に色々なことが起きてたんだな」
「伝えきれず申し訳ありません」
「そんなことはない。言えないこともあっただろう」
「…………」

 その状況まで察して理解してくれる姿は、もはや最高の理解者でありそれ以上の存在だった。

「…………あの、神官長様」
「ルミエーラ、その呼び方は止めないか。君は聖女なんだ。それに対して私は一介の神官に過ぎない」
「……ではバートン様と」
「それも違和感なんだがな」
「……呼び捨てにしろと?」
「身分的にはそれが正しい。そして私も、聖女様と呼ぶべきだ」
「…………」

 心の中ではいつもバートンと呼び捨てしていたが、実際本人を目の前にして呼ぶには非常に気が引ける問題だった。

「……ではこうしましょう。お互いに呼び捨てで!」
「それは私の立場がーー」
「今更ではありませんか!」
「うっ」
「……どうか聖女様だなんて呼ばないでください。そんな他人行儀は寂しいです」
「わ、わかった。ルミエーラと呼ぶ」

 身分だ立場だと一線を引かれるのは、凄く胸の痛むことだった。

「バートン」
「?」
「私は貴方に長い間助けてきてもらいました。どんな時も……それこそお飾りだった時でも決して雑に扱わず、聖女として守ってくれていました」
「……」
「私にとって、長年過ごしたこの教会が実家のようなものなのです。……それも踏まえてのお願いがあります」
「お願い?」
「はい。……どうか式で私が入場する時、隣にいてくださいませんか」
「!!」

 私にとって、それ以上のーー親代わりのような存在。心の底からそう思っているからこそ、真剣な面持ちで頼んだ。

「……私より適任者がいるだろう。その、大神官様とか」
「大神官様は親というより戦友な気がします。お若いですし」
「そ、そうか」
「私は他の誰でもないバートンにお願いしたいんです」
「…………」

 聖女として認められた今となっては、その役目は必要以上に重くなっている。だからこそバートンが躊躇するのも理解できるのだ。

「わかった。私がルミエーラの隣に立とう」
「!!」
「な、何をそんな驚いた顔をしているんだ」
「い、いえ。引き受けていただけるとは思わなくて」
「確かに悩んだがな……だが、我が子を送り出すなら、引き受ねばな」
「……ありがとうございます」
「……泣くのは当日に取っておこう。お互いに」
「はいっ」

 返って来た答えは胸を震わせるものだったが、バートンの言う通り涙は当日に持ち越すことに決めたのだった。



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