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109.認められた聖女
しおりを挟むデトロフはアルフォンスから神殿直属の騎士に引き渡された。頭が捕らえられたことで、反対派の負けが確定した。その後、反対派は神への冒涜をしたとして、もれなく神殿騎士によって捕らえられることになった。人がどんどん少なくなっていく会場を、アルフォンスと共に眺めていた。
「……終わった」
「お疲れ様です、ルミエーラ様」
「ありがとう、アルフォンス」
ひと段落したところで、重鎮であるガドルがこちらに来ていた。
「聖女様」
「!」
「この老いぼれ、できることは少ないですが、今後は貴女様のお力になれればと思っております」
「……良いのですか」
「これほどまでに強い力を持つ貴女様を、神殿として守っていくべきですから」
「……ありがとうございます」
ガドルと共に頭を深々と下げる容認派の人間達。
(聖女として……認められた……!!)
それが私の中で大きな意味を表しており、胸がいっぱいになっていた。容認派の人間と交流を終えると、彼らは静かに会場を後にした。
「聖女様のお力は目を見張るものがありますね」
比較的若い声が、こちらに向かってやって来た。アルフォンスはさっと前へ出る。
「……マティアス殿下」
「ご無沙汰しております、ルミエーラ様」
(……この人はどこまで覚えているんだろう。まさか、結婚の流れになった時に私が吹き飛ばしたことを覚えているのかな)
反射的に身がまえると、穏やかそうな笑顔で私ではなくルキウスに微笑んだ。
「大神官様。聖女様との私の婚約の話は、まだ消えておりませんよね」
「!」
今回という回帰のなくなった世界では、私とマティアス殿下はお見合いをしただけの仲だった。逆に言えば、お見合いをしたのなら彼には聖女との婚約を主張する正当な理由があるということだ。
「マティアス殿下……神殿としては、ルミエーラ……聖女との婚約に関しては頷くことはできません」
「それは王家の申し出を断る、ということでしょうか?」
「…………」
(ルキウス……)
そう。この婚約もといお見合いは、王家から直々に言い渡されたものだった。無下にできないことは、この場の誰もがわかっている。だからこそ、マティアス殿下は余裕の表情を見せていた。
(……反対派に座っていたのによく言える)
だが反対派との繋がりを今すぐ証明することはできない。そう思っていると、また新たな声が飛んできた。
「王家としての申し出は撤回するとしよう」
「「「!?」」」
全員が視線を集中させた先には、この国ーーオルローテ王国の国王が立っていた。
「ち、父上!!」
まさかの登場に全員が驚く中、陛下はすたすたとこちらに歩いてきた。
「王家は聖女への婚約を申し込んだことを撤回させてもらう」
「父上!! 何故なのですか!!」
「マティアス。お前が私の許可なしに、勝手に神殿に出入りし反対派という今では叩けばほこりしか出てこない者達と密接に関わっていたことは既に私の耳に届いている」
「!!」
「……責任を取って婚約を撤回するということでしょうか」
(……だから大事にするな、ということか)
段々陛下の意図が見えてくると、私としては悪くない提案に思えてきた。
「そのとおりだ。……愚息が面倒をかけてしまい、本当に申し訳ない」
「父上! 私が反対派と交流があったなど証拠はどこにもございません!」
「マティアス。謝罪をしないのなら、この場から立ち去れ」
「父上!!」
「……連れていけ」
「父上! は、離せ!」
国王陛下の最後の機会にも答えることなく、謝罪をせずにマティアス殿下は退場していった。
「……気分を害してすまない」
「いえ……」
「何故私がここにいるかという不思議な顔だな、ルキウス大神官」
「はい」
それに関してはルキウスだけでなく、私達も驚いていた。
「まぁ、脅されては来ないわけにもいくまい」
「お、脅された!?」
「あぁ。そこの前任者にな」
そう陛下が視線を向けたのはサミュエルだった。
「サ、サミュエル様……!?」
「人聞きの悪い。ただ提案しただけですよ。王家の失態を抗議しない代わりに、あの第二王子をどうにかするようにと」
「来なかったら盛大に暴露する、というのは脅しではないのか?」
(ま、まさかそんなことをしていたなんて……)
サミュエルの暗躍に誰一人気が付いていなかったので、あまりの出来事に言葉を失っていた。
「サミュエル、ルキウス大神官。その提案を王家は受け入れた。その証拠に、マティアス……第二王子は他国の姫と結婚させることにした。国内にいては、また面倒なことをたくらむからな……」
陛下の話によれば、私に関して問題を起こすのもそうだが、王太子が決まったのにも関わらず第二王子を傀儡にして国王にしようと企む貴族が少なからずいるのだとか。
「国外にやれば、何もできなくなるからな」
様々なことを考慮した結果、下された処遇のようだった。
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必要事項を伝え終えた陛下は、そのまま祭壇でレビノレアに祈りを捧げていた。
「……では、私はここで失礼するよ」
「ありがとうございました」
「ありがとうございます」
ルキウスと私でそれぞれ感謝を伝えると、陛下はにかっと笑って受け取ってくれた。
「あぁ、そうだ聖女様」
「?」
陛下は去り際、もう一度こちらを向いた。
「結婚式はいつ挙げるんだ?」
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