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105.祝祭のはじまり

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 準備は整った。
 それは反対派もきっと同じ心情だろう。

 私達は祝祭の儀式が行われる祭壇のある場所へと向かった。

(……ここはどちらかというと、王都の教会にある本堂に似ているわ)

 それよりは格段と煌びやかであることが違いの一つかもしれない。

 会場に入ると、既に反対派が着席しており、その中にはマティアス殿下もいた。

(嫌な視線を感じると思ったら……ずっと見ていたのね)

 左右に反対派と容認派の派閥が分かれる様に着席した。
 アルフォンスは当然容認派側に座った。サミュエルは依然として切り札なので、気配を消して容認派の最後列に座っていた。

(……こう見ると、確かに容認派は少ないわね)

 私とルキウスは渦中の人間ではあるが、大神官と聖女として前へと進んだ。そして私だけ端の方に着席した。

「全員、御集りのようですね」
「そのようですな」

 ルキウスの確認の声に、反対派は嫌な笑みを浮かべながら答えた。
 彼らは容認派の重鎮が自分たち側に着席したことで、にやけが止まらないようだった。

(……サミュエルが最初は泳がせるために反対派側に座らせると言っていたけど)

 彼らと対面していない私は一抹の不安を抱えていたが、共に説得に行ったルキウスから取り敢えず憂いの雰囲気が消えていたので、私も不安に思わなくて大丈夫だろう。

「……では、開始いたします」

 ルキウスの一言で、祝祭の始まりを告げる神殿内の儀式が始まった。

 初めて参加する身としては、目新しいものばかりなので退屈せずに済んだ。ルキウスの大神官からの言葉、神官を代表しては反対派の長らしき男が挨拶を始めた。年齢は見た目から推測するに四十代だろう。

(……あれが反対派の長、デトロフ・ロディオ)

 彼は神殿内にいる神官の中でもかなりの影響力を持っていた。というのも、ロディオ家というのが貴族であり、伯爵家なのだ。あの後サミュエルからさらに教えてもらったのは、反対派と容認派以前の問題があるということ。神殿内には貴族と平民での対立もあるとのことだった。
 
 中でもルキウス自体は貴族なのだが、彼は平民も貴族も平等に扱っているのでそれがデトロフ等貴族達には気に食わなかったそうで。その上聖女である私もどこと知れない平民の出なので、余計に嫌われていたのだとか。

(サミュエルとルキウスは口を揃えて、貴族側は血統主義で平民側は実力主義と分かれているのが問題だと言っていたっけ)

 ルキウスの意見は聞けていないが、サミュエルはどうしていたのか聞いたが、彼は貴族を上手扱いながらも、根は実力重視だったという。曰く「仕事のできない無能は邪魔」とのことだった。

(いや、完全に同意だわ……)

 その話を聞いて、私が前世の記憶である日本を久しぶりに思い出したことは誰も知らない話である。

 デトロフの話が終わると、奴はルキウスに進行を戻さずに突拍子もないことを言い始めた。

「皆様! 本日は記念すべき祝祭です。何といっても聖女様がいらしているのですから」
(……わかりやすい嫌味ね)

 思わず鼻で笑ってやりたりたくなったが、内心だけに留めた。そしていつも通り無表情を貫く。

「せっかく聖女様にいらしていただいたのです。ここはご挨拶していただこうではありませんか」
「確かにそうですね」
「挨拶するのが当然ですな」

 反対派からはデトロフに賛同する声が多く巻き起こった。

(私が喋れないと思っての嫌がらせよね、これ)

 あきれながら小さくため息をつくと、容認派の方から冷たい空気が漂ってきた。

(ア、アルフォンス……!)  

 そこには微笑みを浮かべたまま、怒りをあらわにするアルフォンスがいた。怒ってくれていることへの嬉しさ半分と、怒りが爆発しないかという不安半分で私の心は慌ただしかった。
 ルキウスは、勝手に進行を邪魔されたことに抗議を始める。

「デトロフ神官、進行にないことを勝手にするのは控えなさい」
「失礼いたしました。大神官様……ですが、聖女様のお祝いは必要では? もちろん、聖女様ですから。特別なお祝いをしていただかなくては」
「何を言って」
「していただけますよね? 聖女様」

 自分の思い通りに事が進んでいることが嬉しいのか、デトロフの顔はにやけが止まらない様子だった。

「……」
「ルミエーラ……」

 私はその声に応じるように立ち上がって、祭壇の前まで近付いた。
 そして、祭壇の前で跪いて祈りを立てた。

(……レビノレア。思えば貴方様の誕生日をお祝いするのは初めてでしたね)

 私なりに主役であるレビノレアと会話をし始めたが、アルフォンスやサミュエル以外の人からはただ無言で祈りを捧げているようにしか見えなかったことだろう。

「やはりあれはお飾りだな……」
「聖女としてふさわしくない」

 しびれを切らした反対派が、文句を言い始めた。そして、待っていたと言わんばかりにデトロフが口を開いた。

「大神官様……そろそろ本物の聖女を迎えるべきです」
「……何を言っている」
「神であるレビノレア様に祝いの言葉も投げられない、欠陥品のお飾り聖女など、この神殿には不必要です!!」

 その言葉には、ルキウスが反論するよりも前に反対派が賛同するほうが先だった。

「大神官様。貴方が何もしないようなので、勝手ながら私自ら動かせていただきました」
「なんの話だ」
「入りなさい!!」

 大神官であるルキウスが説明を求めているというのに、まるで話を聞かない辺り、ルキウスを舐めているとしか思えない。

 そしてデトロフの言葉を合図に会場の扉が開き、そこからは私と同じ格好ーー聖女の衣装を着た少女が立っていた。
 
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