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103.聖女の言葉

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 作戦会議、とまではいかないが話し合いが終了したので私達は用意された部屋へ案内してもらった。部屋の中には二人の共有スペースがあったので、向かい合ってそこに座る。

 アルフォンスは、真剣な面持ちで話し始めた。

「ルミエーラ様。明日、私にできることは何か無いでしょうか?」
「ただ傍にいて欲しいわ」
「!」

 騎士である前に、大切な人として。

「アルフォンスが傍にいてくれるだけで、頑張れると思うから」
「ルミエーラ様」

 そう紡いでいて、重要なことを思い出した。せっかく声が出せるようになったのに、まだ私はアルフォンスに何も伝えられてない。

「……アルフォンス。私の騎士でいてくれてありがとう」
「選んでくださったのはルミエーラ様です」
「ふふ、そうね」
「ルミエーラ様、何故私を選ばれたのですか?」

 アルフォンスが尋ねたのは、正真正銘の一回目の時のことだろう。私は目線を外してから、少しだけ間を空けて答えた。

「凄く……惹かれたの。でも当時の私は、それに気が付いてなかった。今ならわかるわ。一目惚れしていたんだろうなって」
「この顔が好みですか?」
「顔は……もちろん好みよ。こんなに綺麗な人見たことないもの」
「そ、そうですか?」
「えぇ」

 顔に目がいかなかったと言えば嘘になる。

「でもね、惹かれたのが顔でも好きになったのは顔じゃないわ。……アルフォンスという、私を見つけてくれた人を好きになったの」
「ルミエーラ様……」

 何度繰り返されても、アルフォンスは私に寄り添ってくれた。今でも記憶に強く残るのは「忘れない」と断言したあの言葉。

「アルフォンスはいつも私を支えてくれた。……感謝してもしきれないわ」
「そんな。騎士として当然のことをしたまでです」
「それでも……必要以上のことをし続けてくれた」
「……それはルミエーラ様だからにございます。騎士として、この人に仕えたい。全てを捧げたいと私が思えたから」
「……ふふっ」

 今もまだ、アルフォンスは私に対して嬉しい言葉を伝えてくれる。

「……アルフォンス」
「はい」

 今度は私が真剣な声色で話す番だった。

「私は明日、聖女であるかを試されるでしょう」
「……はい」
「そこで私が証明ができれば。……お飾りじゃ無くなる」
「ルミエーラ様は、ずっと変わらず聖女にございます」
「ありがとう。それでも、私を見る目が変わるのは間違いない。何よりも私自身に自信がつく」
「それは……凄く良いことですね」
「…………」

 不安を感じながらも、その答えに笑顔になる。

 私はアルフォンスを見つめて、目を閉じた。

(私が……声を取り戻したら一番言いたかったこと)

 そっと目を開けると、アルフォンスの瞳をしっかりと捉えた。

「アルフォンス。私が聖女と証明されて、お飾りという肩書きが外れたら…………永遠に傍にいてくれないかしら」
「!!」

 恥ずかしさが込み上げてきても、瞳をそらすことは絶対にしなかった。

「アルフォンス、私は貴方を愛しています。……誰よりも。だからどうかこれからも、一緒にいてくれませんか?」
「ルミエーラ様……」

 ここまで言えた。それは良かったものの、恥ずかし過ぎて顔が赤くなり始めてしまった。思わず目をつむりたくなったが、今こそ踏ん張り所だと頑張った。

「ーーっ」
「!」

 すると、アルフォンスは前髪をくしゃりとさわって声になら無い声を上げた。

「……アルフォンス?」
「……ルミエーラ様」
「えぇ」
「私からお伝えしたかった……というのはわがままでしょうか」
「!!」

 思いもよらない返答に、私はさらに顔が赤くなってしまった。反射的に頬を両手で囲う。その間に、アルフォンスは立ち上がって私の目の前に来ていた。

「アルフォンス……」

 そして、跪くとそっと私の右手を取って自分の額に当てた。

「ルミエーラ様。このアルフォンス・ディートリヒをこれまでも、これから先も……貴女の剣として。どうかお供することをここに誓わせてください」
「……えぇ、もちろんよ」

 その答えに反応するように、アルフォンスがゆっくり顔を上げた。

「そして……どうかこれから先、騎士としてだけでなく……ルミエーラ様、貴女を心よりお慕いしております。生涯の伴侶として、人生を共にしていただけませんか」
「もちろんよ……!」
「!!」

 その瞬間、私は今までで一番心の底から嬉しいという感情を溢れさせた。嬉しすぎて、勢いでアルフォンスに抱きついてしまった。アルフォンスは、私をいとも簡単に持ち上げると愛おしそうに抱き締め返してくれた。

「ルミエーラ様っ……!」
「ふふっ、ふふふっ」

 想いを伝えられることは、想いが通じ合うことは、こんなにも胸が満たされることなのだということを、初めて知った。

 持ち上げられているので、相変わらず私がアルフォンスを見下ろしてしまっていたが交差する視線は心踊るものだった。

(……絶対に聖女として認められなくては)

 ディートリヒ侯爵家ともなる高貴な身の上に、ふさわしいと言われるためにも。

 私の決意は一層固まるのだった。
 
 
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