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99.回帰の終息
しおりを挟む聖女として、私にできること。
クロエさんの“終わりにして”という願いは、結局本人によって達成された。私自身が大きく貢献できたこと、これはわずかといっても嘘ではない。
現状を受け止めて、前へ進むことを決めた二人に私がしたかったことがある。
(それでもやっぱり元をたどればレビノレアの力になってしまうけど…………私からの思いということで)
二人が落ち着いたのを確認すると、そっと目を閉じた。
(……一度くらい、聖女らしいことをしても良いよね)
顔を上げて、二人へと近付く。
「聖女様」
「……」
二人の瞳を捉えると、ふわりと微笑んだ。そして、ペコリと一礼する。それにつられてか、二人もお辞儀を返した。
そして、両手を組んで目を閉じた。
これが、私の祝福の発動条件。
「……サミュエル・ライノックとクロエ・トルミネ二人が歩む残りの時間が、どうか穏やかで幸せに満ちるものでありますように」
「!!」
「聖女様……」
一度目を開け、再び二人を見つめる。驚くサミュエルと、泣きそうになるクロエ。
(……この言霊がどれだけ効果を発揮するかわからないけど、私の気持ちとしてどうか届いてほしい)
もう一度ぎゅっと手を組んで祝福を使った。
「そして、二人がいつかまた巡り会えますように」
その言葉が合図のように、私達は全員光に包まれた。
「「「!!」」」
こうして、繰り返された回帰は幕を閉じたのである。
◆◆◆
光に包まれてから目を覚ますと、そこは教会にあるいつもの自室だった。気だるさを感じるからか体は重く、動くのにも一苦労だった。
(……うっ)
頭を押さえながらも何とか起き上がった。
(これはいつ……?)
きょろきょろと辺りを見渡していると、聞きたかった恋しかった声が響き渡った。
「聖女様、お召し物をお持ちしました」
「!!」
(ソティカ……!!)
そこにいたのは、全く世話のしないやる気のない少女ジュリアではなく、何度も時間を共にした世話係ソティカの姿があった。
(ソティカだ、ソティカがいる……!)
嬉しさで胸がいっぱいになっている間にも、ソティカは慣れた手付きで着替えを行っていた。
(泣いては駄目よ。ソティカにとっては、いつもと変わらない日常なんだから)
あまりの感動から涙がこぼれそうになるも、ソティカの日常を壊すわけにもいかないとどうにか踏ん張った。
すると、ソティカから申し訳なさそうな声が響いた。
「……聖女様。……お気付きになられなかったので、お伝えします。……お召し物をご確認ください」
その一言には覚えがあった。
(ソティカがこんな顔をしたのは、後にも先にも一度だけ。……そっか、明日は祝祭なのね)
世界が修復し終えた結果、複雑に作用された各回帰の影響から、一番記憶の新しい展開となっていた。
(ということは……ルキウスが大神官である世界。そして、私はまだお飾りの聖女であるのね)
今まで一度も迎えられなかった祝祭、でも今回は違う。
(……待って。明日が祝祭ならそれは)
クロエさんが亡くなってしまう日。
(レビノレア……さすがにそんな酷いことはしてないわよね)
疑問を抱くと共に、私は神像に向かうことに決めた。
「本日は大神官様がお迎えにこられます。聖女様は明日の祝祭に出席予定ですので」
ソティカが苦しそうに言う理由は、私が神殿行きを拒んでいたからだろう。けれども、今は違う。
(そんな顔をしないで、ソティカ。大丈夫だから)
下を向くソティカの手を両手で取りながら、私は笑みを浮かべた。
「ありがとう、ソティカ。貴女は何も間違っていないわ」
「えっ」
「だから行ってくるわ」
「聖女様……お喋りになられて」
「えぇ。伝えたいこと、話したいことがたくさんあるの。でも今は時間が迫っている以上、急がなくては。……必ず戻ってくるから」
「……お待ちしております!」
涙は流さずとも泣き出しそうになった私につられて、ソティカと二人目に涙を浮かべながら向き合っていた。
今まで話せなかった聖女が声を出していることは、驚くべきことだが、それでも何かを察してくれるあたり、やはりソティカは優しい。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ……!」
その声を聞くと、急ぎ部屋から飛び出した。目指すは神像。そこで他の三人について聞こうと思いながら、走り出す。
「ルミエーラ様!!」
「アルフォンス!」
そうすれば、目の前から最愛の人が走ってきた。
「ご無事でしたか」
「えぇ。無事に意識を取り戻せたわ」
「良かった」
「アルフォンスはいつ戻ってきたの?」
「つい先ほどです」
「……やはりレビノレアを問いたださなくては」
「そうですね……トルミネ嬢達まで今日に戻されたのなら、目覚めが悪いですから」
二人頷くと、急いで神像へ向かった。
「ところで、何故走られてるのですか?」
「もうすぐルキウスが来てしまうから!」
「大神官様が……そうでした、本来なら神殿に行く日でしたね」
「えぇ」
本堂にたどり着くと、私は急ぐ足を緩めた。
「向かわれるのですか?」
「……えぇ、行くわ。何せ、レビノレアの生誕祭ですもの。それに」
「……」
「私は聖女だから」
「……どこまでもお供いたします」
願う以上、私が聖女になるならば。
感謝を伝えに、祝祭に参加しようと思うのだった。
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