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87.大神官の妻(アルフォンス視点)

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 遅くなってしまい大変申し訳ございません。昨日分の更新となります。よろしくお願いします。

▽▼▽▼

 なぜか事情を知っているトルミネ嬢は、教会に着いてからは抜け道を聞くとすぐさま走り出した。

「ディートリヒ様はここでお待ちください!」
「あ、トルミネ嬢!!」

 制止する間もなく、彼女は恐らくルミエーラ様の救出に向かった。

 予想は的中して、トルミネ嬢はルミエーラ様を連れ出してくれた。再会を喜びたかったが、トルミネ嬢の言葉通り、ここで時間を使うわけにもいかず、急いで移動を開始した。

「行き先の目処は立ってますか?」
「もちろんです」

 話したいことは山ほどあったが、今はとにかく離れることが先決だった。ルミエーラ様を自分の馬に乗せた。しばらくの間馬を走らせて王都から離れると、馬の速度を落とすことができた。トルミネ嬢と並走すると、ようやく会話をすることができる体勢になった。

 ルミエーラ様を見れば、彼女もトルミネ嬢について色々と聞きたそうな表情をしていた。代弁になるかはわからないが、真剣な眼差しで尋ねた。

「……貴女は何を知っているんですか」
「何を……」

 ふむ。といった表情で考え込む様子を見せたトルミネ嬢だが、意外とすぐに返答してくれた。

「全て、ですね」
「全て……?」

 ルミエーラ様は理解ができないといった表情で、首をかしげていた。

「私、クロエ・トルミネがサミュエル・ライノックの妻になるのは、これが初めてではありません」
「それは」
「聖女様、ディートリヒ様。私も貴女方と同じように、変わらない世界を繰り返しているのです」
「!」

 何となく予想はしていたが、改めて明確な答えを示されると驚かずにはいられなかった。それはルミエーラ様も同じようで、目を見開いて驚いていた。

「……あの人は気付いていないけど」

 ボソリと呟いたトルミネ嬢の言葉は、サミュエルに向けたものだとすぐにわかった。だが彼女はそれを無かったかのように、話し続けた。

「私もお二人と同じ考えです。この繰り返される世界を終わらせたい。ですが、私一人ではなにもできません。だから困っていて、どうするべきか迷っていました」
「……私を訪ねた理由は」
「元々は聖女様目的です」

 私? と怪訝な眼差しでトルミネ嬢を見つめるルミエーラ様。

「はい。以前、助けてくださったでしょう?」

 その言葉にルミエーラ様は凍りついた。思い当たる節があるようだが、彼女にとって予想外の出来事のようだった。ルミエーラ様は手を動かす動作を私に見せる。

(書くものが必要なんですね)

 ルミエーラ様のために常備していたメモ帳とペンを彼女に渡した。すると、すぐさま説明を書き込んでくれた。

『以前、アルフォンスを訪ねようと外出した時に助けたの。けど、祝福の力で記憶を消したはず』
「……トルミネ嬢、貴女は何を覚えてるんですか」
「その聞き方だと、私の記憶が不自然に消えてるのは聖女様の力というわけですね」
「……」

 しくじった。そう思うよりも、ルミエーラ様が頷く方が先だった。

(……力を開示するということは、トルミネ嬢を警戒対象から外すということになる)

 言葉と行動の一つ一つから、ルミエーラ様が今何を考えているのか素早く読み取り続ける。

「聖女様。どのように記憶を消したかはわかりませんが、私が何かあって聖女様に助けられたということは覚えているんです。何か、は思い出せませんが、聖女様に手を引かれて走った記憶が残っています」

 トルミネ嬢の丁寧な説明に、ルミエーラ様は納得すると共にやらかしたというような表情を浮かべていた。

「元々その髪色を持つのは聖女様のみということを知っていたので。……あの日助けられたように、もしかしたら聖女様なら私を助けてくれるのではないかと希望を抱いて参りました」

 詰めが甘かった。という思いが、声は出せなくとも表情だけですぐにわかった。反省気味のルミエーラの横から、自分で気になることを尋ねた。

「では、私のことはどうやって」
「基本的にはサミュエルです。彼、計画だなんだって一人言が多かったので」
「一人言」
「はい。ディートリヒ様のお名前は、少し前に聞きました。何でも、教会の配属はもちろん神殿からも遠ざけたなら大丈夫だろう。そう言っていました」
「!!」

 現実味のあるトルミネ嬢の言葉から、彼女への信用度が増していくのだった。


◆◆◆

〈バートン視点〉

 ガシャン!!

 教会内の一室で、思い切り花瓶が割れた。
 原因は、苛立ちが押さえられなかった大神官様が床へと勢いよく落としたからだった。

「逃がしただと」
「大変申し訳ありません! ですが、どこを探しても見つからず……その上殿下まで倒れられていた様子から、何者かの手引きで逃げられたのは確実かと」
「だったら今すぐ周辺を探し出さないか!」
「は、はいっ」

 突如として進行し始めたルミエーラの結婚話。かと思えば、何故か教会の廊下で気を失うマティアス第二王子。

 一切理解できない状況のなか、私は大神官様の傍で待機することしかできなかった。

「クロエに続き聖女までっ……何故こうも思いどおりにならない!」

 ダンッ!! と勢いよく机に拳をぶつける大神官様の怒りが、消える様子は少しもなかった。

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