87 / 115
87.大神官の妻(アルフォンス視点)
しおりを挟む遅くなってしまい大変申し訳ございません。昨日分の更新となります。よろしくお願いします。
▽▼▽▼
なぜか事情を知っているトルミネ嬢は、教会に着いてからは抜け道を聞くとすぐさま走り出した。
「ディートリヒ様はここでお待ちください!」
「あ、トルミネ嬢!!」
制止する間もなく、彼女は恐らくルミエーラ様の救出に向かった。
予想は的中して、トルミネ嬢はルミエーラ様を連れ出してくれた。再会を喜びたかったが、トルミネ嬢の言葉通り、ここで時間を使うわけにもいかず、急いで移動を開始した。
「行き先の目処は立ってますか?」
「もちろんです」
話したいことは山ほどあったが、今はとにかく離れることが先決だった。ルミエーラ様を自分の馬に乗せた。しばらくの間馬を走らせて王都から離れると、馬の速度を落とすことができた。トルミネ嬢と並走すると、ようやく会話をすることができる体勢になった。
ルミエーラ様を見れば、彼女もトルミネ嬢について色々と聞きたそうな表情をしていた。代弁になるかはわからないが、真剣な眼差しで尋ねた。
「……貴女は何を知っているんですか」
「何を……」
ふむ。といった表情で考え込む様子を見せたトルミネ嬢だが、意外とすぐに返答してくれた。
「全て、ですね」
「全て……?」
ルミエーラ様は理解ができないといった表情で、首をかしげていた。
「私、クロエ・トルミネがサミュエル・ライノックの妻になるのは、これが初めてではありません」
「それは」
「聖女様、ディートリヒ様。私も貴女方と同じように、変わらない世界を繰り返しているのです」
「!」
何となく予想はしていたが、改めて明確な答えを示されると驚かずにはいられなかった。それはルミエーラ様も同じようで、目を見開いて驚いていた。
「……あの人は気付いていないけど」
ボソリと呟いたトルミネ嬢の言葉は、サミュエルに向けたものだとすぐにわかった。だが彼女はそれを無かったかのように、話し続けた。
「私もお二人と同じ考えです。この繰り返される世界を終わらせたい。ですが、私一人ではなにもできません。だから困っていて、どうするべきか迷っていました」
「……私を訪ねた理由は」
「元々は聖女様目的です」
私? と怪訝な眼差しでトルミネ嬢を見つめるルミエーラ様。
「はい。以前、助けてくださったでしょう?」
その言葉にルミエーラ様は凍りついた。思い当たる節があるようだが、彼女にとって予想外の出来事のようだった。ルミエーラ様は手を動かす動作を私に見せる。
(書くものが必要なんですね)
ルミエーラ様のために常備していたメモ帳とペンを彼女に渡した。すると、すぐさま説明を書き込んでくれた。
『以前、アルフォンスを訪ねようと外出した時に助けたの。けど、祝福の力で記憶を消したはず』
「……トルミネ嬢、貴女は何を覚えてるんですか」
「その聞き方だと、私の記憶が不自然に消えてるのは聖女様の力というわけですね」
「……」
しくじった。そう思うよりも、ルミエーラ様が頷く方が先だった。
(……力を開示するということは、トルミネ嬢を警戒対象から外すということになる)
言葉と行動の一つ一つから、ルミエーラ様が今何を考えているのか素早く読み取り続ける。
「聖女様。どのように記憶を消したかはわかりませんが、私が何かあって聖女様に助けられたということは覚えているんです。何か、は思い出せませんが、聖女様に手を引かれて走った記憶が残っています」
トルミネ嬢の丁寧な説明に、ルミエーラ様は納得すると共にやらかしたというような表情を浮かべていた。
「元々その髪色を持つのは聖女様のみということを知っていたので。……あの日助けられたように、もしかしたら聖女様なら私を助けてくれるのではないかと希望を抱いて参りました」
詰めが甘かった。という思いが、声は出せなくとも表情だけですぐにわかった。反省気味のルミエーラの横から、自分で気になることを尋ねた。
「では、私のことはどうやって」
「基本的にはサミュエルです。彼、計画だなんだって一人言が多かったので」
「一人言」
「はい。ディートリヒ様のお名前は、少し前に聞きました。何でも、教会の配属はもちろん神殿からも遠ざけたなら大丈夫だろう。そう言っていました」
「!!」
現実味のあるトルミネ嬢の言葉から、彼女への信用度が増していくのだった。
◆◆◆
〈バートン視点〉
ガシャン!!
教会内の一室で、思い切り花瓶が割れた。
原因は、苛立ちが押さえられなかった大神官様が床へと勢いよく落としたからだった。
「逃がしただと」
「大変申し訳ありません! ですが、どこを探しても見つからず……その上殿下まで倒れられていた様子から、何者かの手引きで逃げられたのは確実かと」
「だったら今すぐ周辺を探し出さないか!」
「は、はいっ」
突如として進行し始めたルミエーラの結婚話。かと思えば、何故か教会の廊下で気を失うマティアス第二王子。
一切理解できない状況のなか、私は大神官様の傍で待機することしかできなかった。
「クロエに続き聖女までっ……何故こうも思いどおりにならない!」
ダンッ!! と勢いよく机に拳をぶつける大神官様の怒りが、消える様子は少しもなかった。
10
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~
岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。
「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」
開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる