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56.果たすべき役目と本心

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 今知れる真実を全て知ることができ、謝罪の件が一段落すると、レビノレアは改まった態度で話を始めた。

「ルミエーラ……ルミエーラをここに呼んだのは、力の継承だけが目的じゃない。頼みたいことがあったんだ」
「それがサミュエル様を止めること、ですね?」
「あぁ。どうかお願いしたい。都合の良い話だということは重々承知の上で、このループを終らせてほしいんだ」

 元々はその要項全て含めて伝えるつもりだったという。あの時はあまりにも時間がなかった為、私の消滅を防ぐことが第一優先で他のことをする余裕はなかった。

 レビノレアの言葉を受けて、私は考えながら答え始めた。

「正直……初めてこの空間に来た時に、この世界を救え、と言われても首を横に振ったと思います。世界を背負う責任は、あまりにも重く強大なものですから。何でもない、平凡な人間だった私にはできないと思って、断ったでしょう」
「…………」

 レビノレアは、真剣に耳を傾けていた。ただ、断られるという不安げな眼差しも感じられた。

「レビノレア、私はやりたいことがあるんです」
「……何か聞いても良いか」
「もちろん」

 コクりと頷いて、ふわりと微笑みを浮かべた。

「私、サミュエル様にお返ししたいんです」
「…………え?」
「よくもまぁ、こんなループに閉じ込めやがってというのが本音ですが、取り敢えず一発手刀をお見舞いするくらいは許されると思うんですよね。何せ殺されかけてますから」
「……ル、ルミエーラ。ということはーー」
「はい。お引き受けいたします。私はこれでも聖女なので」
「あ……ありがとうっ……!」

 ループを何度も経験した今なら、断る理由などない。もうこの世界には転生済みで、ここでどうにかするしかないのだ。

(これ以上ループするのはごめんよ)

 そろそろ止まっていた時を動かすべきだから。サミュエルへの恨み辛みもあることだし、とにかくループを終らせに行く以外の選択肢はない。

 それに何よりもーー。


「レビノレア、一つ確認が」
「あぁ」
「ループを終らせて、サミュエル様を止めれば、私は普通に喋れるようになりますか?」
「サミュエルを止めて、彼の力を失くせば、私の方に力が戻ってくる。そうすれば、ルミエーラの力の制御もできるようになるから……必ず喋れるようになる」

 力強い声色からは、それが嘘でないことが感じ取れた。

「……わかりました。では、頑張ります」

 何よりも。喋れるようになることを望んでいるから。

(……私はこんな風に、普通にアルフォンスと喋りたいから)

 頑張れる理由を見つけると、不思議と笑みが浮かんだ。

「……ルミエーラ、どうかよろしく頼む。私が伝えられる重要なことはあらかた話したつもりだ。だが気になることがあるなら何でも聞いてくれ」
「……では一つ。神は万能だと思うのですが、やはり消滅した魂を戻すことは不可能なんですか?」

 消滅を防ぐために制御できない力を受けとることになったわけだが、そもそもの話、あそこで一度消滅したらどうなっていたのか純粋に気になった。

「人の生死に関わることは、神でも変えることができないんだ。それは魂も同じで、もしあの時ルミエーラの魂が消えていたら、それを戻すことはできない」
「なるほど」
(そりゃそうか)

 好きな人を殺し、生かせるようなシステムだったら、神というよりも独裁的なただの支配者になってしまう。均衡を保つ役割も担うのが神なら、生死への関与は厳しい部分があるだろう。

(……待って。じゃあ前回サミュエルに致命傷を負わされたアルフォンスは? 死人扱いなの?)

 もし、アルフォンスが死んでしまった判定で、時間が動き出したときにいなくなってしまうのならーー私は考え直すかもしれない。

「……では、ループで生まれた死は……動き出したらそのまま死んでしまうのですか」
「いや。ループで故意的に生まれた死なら、なかったことにできる。それは元々その人の死期ではないから。それに、サミュエルによってできた死なら尚更、修復される」
(よかった……)

 ほっと安堵のため息をついていると、レビノレアは補足のように情報を整理した。

「この世界の人には生死の期間が天より定められている。これは神でも覆すことのできない運命で、それを人間が変えることは絶対にできない」
「……そうなんですね」
「万が一にでも、運命から外れてしまった死にだけ、神が関与して修復することが許される。……だから安心して時間を動かしてほしい」
「わかりました」

 私の質問の意図を察したレビノレアは、安堵させるように事細かく教えてくれた。

「……そろそろ戻らなくてはいけないな。ルミエーラの騎士が心配している」
(アルフォンス……)
「よい騎士を持ったな。……彼なら、ルミエーラを守抜いてくれる」
「……自慢の騎士です」

 ただ、守られるだけではいられない。もう二度と、あの日の惨劇を繰り返さないためにも。

「ルミエーラ。最後に加護を与えてもいいか」
「祝福とは違うのですか?」
「あぁ。加護は祝福ほど強くないが、私の気持ちのようなものだ」
「ではお願いします」

 そう言うと、自然と膝をついてレビノレアーー神の前に祈った。

「……ルミエーラ。聖女であり、我レビノレアの代理者となる者よ。そなたを守り導くための加護を授ける」
「……」

 目を閉じていても、何か温かなものに包まれていることがわかった。

「頼んだぞ、ルミエーラ。……どうか無事に終らせられることを願っている」
「はい」
「……では、行っておいで」

 その一言を最後に、私はまた意識が遠退くのだった。
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