上 下
55 / 115

55.責任の行方

しおりを挟む



 サミュエルに力を奪われ、自身の衰退を感じ取ったレビノレアは、どうにか自分の代わりを探し始めたと言う。神の代わりとなれば、そう多くはない。

「ルミエーラは器として最適だったんだ」
「だから勧誘したんですね」
「あぁ」

 初めてこの空間に来た日を思い出した。あの日レビノレアが、祝福をやるからこの世界に転生しないかと持ちかけたことを。

「……私が欠陥チートだと思っていたこの力は、祝福ではなくレビノレアの一部ということですか?」
「け、欠陥……いや、そう言われて当然だな。元々祝福も私の一部だが、ルミエーラに渡した力はより私に濃い力だった」

 状況や渡された力の意味を理解していく内に、ぼそりと言葉を落としてしまった。

「……詐欺師?」
「えっ」
「あ……すみません。祝福を授けると言いながら神の力の一部だったり、必ず役立つ力と言いながら不便極まりない力でしたので……レビノレアはもしや詐欺師かなぁなんて思ってました」
「……そ、そう言われるだけのことをしてしまった。面目ない」

 私の言葉は予想以上にレビノレアに刺さったのか、どんよりと落ち込みながら謝罪をされた。

「神の力の与えようとした理由まではわかりました。納得したかは置いておいて。……それで。何故こんなにも制御不可能な力を渡したんですか?」
「本当なら、ルミエーラが使いこなせるだけの力を渡すつもりだったんだ。……ルミエーラは、初めて私と会った日のこと、どれくらい覚えている?」
「……そうですね」

 記憶をさかのぼってみれば、祝福を付与されたのかどうか確かではないところで、意識が飛んでしまった気がする。そのことをレビノレアに伝えれば、思いもよらない言葉が返ってきた。

「突然意識が飛んだだろう?」
「はい」
「あの時、ルミエーラは消滅しかけたんだ」
「……え?」

 消滅。
 それはつまり転生もできずに、魂が消えてしまうことだと、静かにレビノレアは告げた。

「この空間は私の管理場ではあるが、サミュエルに支配権が渡ってしまう時がある。それが、彼が世界を回帰される時なんだ」
「……つまり、私を勧誘していたあの時、回帰が起こったと?」
「あぁ。回帰の影響を受ける、つまり時間が戻されるのはこの空間も同じことなんだ。戻された時に、元々ここになかったものは消滅してしまう。だから回帰は、魂を送り届けてから起こさなくてはいけない。……そもそも回帰自体してはならないことだが」

 今この空間にきて、初めて背筋が凍った。何も言えずにいると、レビノレアは申し訳なさそうに話を続けた。

「だからあの時は急いで送り出したんだ。その際、力を慌てて付与してしまった。本当なら上手く調節して与えるべき力を」
「…………」
「サミュエルが回帰し始めて間もなかった頃、私はまだ彼の動向が読めてなかった。もっと慎重にルミエーラをここに連れてくるべきだったんだ。……本当にすまない」

 そう言うと、レビノレアは頭を下げて謝罪をした。

 真実というものは、自分の想像だけでは決してたどり着けるものではない。それでも予想して、近いことを考えようとして。

 それで導き出された答えがどうであっても、自分が置かれた状況からレビノレアを恨まずにはいられなかった。

 だが、どうだろう。

 レビノレアは、彼は、思うほど酷いことをしてはいないのではないか。もちろん、結果的に酷い目にあったのは私だが、そこにレビノレアという神の悪意は一切なかった。不運が重なった、という言葉で表すには軽すぎるが、事実そうなのだ。

 そして、いくらでもこれを言い訳にできたのに、レビノレアは決して逃げずに自身の責任だと謝罪をし続けた。

(……私が許さない理由がないわ)

 頭を下げるレビノレアをじっと見つめると、今度は私はしゃみ込んで彼を見上げた。

「……頭をおあげください、レビノレア。そして先程の言葉を訂正します」
「……それは」
「謝罪を受け取るという言葉です」
「ルミエーラ!」

 どうして、という悲壮漂う声が響いた。

「私には、その謝罪を受け取る権利がありません。……レビノレアを恨む理由がまるでないことがわかりましたから。そして、私の方こそ逆恨みをした罪で罰されるべきです」
「そんなことはない! ルミエーラはどこまでいっても被害者だ!!」
「……なるほど。ではお互い様というところで、手を打ちましょう」
「それは」

 納得がいかない、そんな顔をするレビノレアに内心少しだけため息が出た。

(恨んでた時は、自分勝手でとんでもない神様だと思っていたけど……そんなことまるでない。どこまでも真摯で、力が弱まっても逃げることなく、神という自分の役目を全うし続ける……とても立派な神様ね)

 全てを知ったからか、私の中でレビノレアの評価が変わっていった。

「では先程の手刀を加えておあいこで。神を殴るという不遜すぎる行動を含めたら、ちょうどいい気がします」
「そ、それでいいのか?」
(……まだ納得してないのね)

 いいのか、なんて聞く割にはまるで承諾できないという考えが表現表情にしっかり現れていた。

「……先程レビノレアは自分が慎重にここに連れてくるべきだったといいましたよね」
「あぁ」
「私が前世で亡くなったタイミングを考えれば、それは難しいのでは。こればかりはレビノレアのせいではありませんし、このタイミングが全ての不運の引き金になっているので、レビノレアは悪くないということです」
「ルミエーラ……」

 だから必要以上に気に止まないでくださいと伝えれば、レビノレアはやっと、安堵の笑みを浮かべてくれるのだった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

処理中です...