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54.比例する力

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 レビノレアは、祝福を与える時は神託と称して大神官をこの空間に呼び出していたのだという。私の時のように、ここで祝福を付与して送り出すのが慣例だった。

「元々祝福とは、並々ならぬ強い信仰心を持って仕えてくれたことへの感謝とお礼の意味を込めていたんだ。サミュエルも例外ではなく、その気持ちを本人に伝えるつもりだった」

 私の記憶にいるサミュエルからは、到底信仰心を持っているようには見えなかった。しかし、それでもレビノレアが選んだというのは、歴代の祝福をもらった大神官に並ぶほど優秀だったということなのだ。

(……それだけ、サミュエルは変わってしまった)

 きっと私では想像できないような、善良な大神官だったのだろう。だからこそ、こんなにレビノレアは苦しそうな顔をしている気がした。

「やって来たサミュエルは、焦点がしっかりしない空虚な眼差しだったんだ。彼がまとう雰囲気は暗く重いもので、普段のサミュエルとは思えなかった」
「…………」

 まるで生気のない、今にも消えてしまいそうな様子だったとレビノレアは述べた。そんな彼に不安を抱きながらも、慣例通り感謝を伝えて祝福を与える流れだった。

「……祝福を与える時、感謝を込めてどんな力が欲しいか一度尋ねるんだ。基本的には、私が今の現世に必要な力を決めているが、どうしても私と人々では視点が違う」

 確かに、レビノレアが必要だと思った力は案外なくても問題なかったりすることはありそうだ。もちほん、その逆も然りで、考え方の根本がそもそも違うのだと思う。

「優秀な大神官なら、その時最も必要な力を判断できる。その信頼から、私はいつも尋ねているんだ。……だが、サミュエルから返ってきたのは、予想もしなかった答えだった」

 どんどん表情がより暗いものに変わっていく。当時のことを思い出したレビノレアは、悔しそうに苦しそうに、手のひらに力をいれていた。

「……サミュエル様は、何と答えたんですか?」
「…………全てと」
「全て……」

 その言葉が具体的にはどのような意味を指すのか。考えるよりも先に、レビノレアは教えてくれた。

「自分が神になるのだと、虚ろな目で言ったかと思えば、サミュエルは目に止まらぬ速さで私の手を掴んだんだ」
「……もしかして、その時にサミュエル様は無理矢理レビノレアの力を奪ったのですか」
「……あぁ、そうだ」

 神なのに、そう簡単に力を奪われるものなのかと疑問が浮かべば、レビノレアは悲しそうに続きを語った。

「あの時のサミュエルは、善良の欠片もない闇に包み込まれた表情だった。何が目的かはわからなかったが、確固たる強い想いがあった。……それにほんの一瞬、呑まれてしまったんだ」
「一瞬……」
「あぁ。一瞬とはいえ、私の力の一部を奪ったことに変わりはない。サミュエルはそこから長い年数をかけて、力を育んできた」

 たかが一部。
 そう言えたならどれだけ良かったものか。神にとっての一部は、私達人間にとって計り知れないほど強力な力となるはずだ。

(……元々、欲深い大神官には決して祝福を与えなかった。それなのに、レビノレアは直前で闇落ちしてしまったということになる)

 欲深い者に力など与えれば、世界の均衡が保たれなくなる。現に、今このループする世界がそれを証明している。

 その計り知れないほどの力を、サミュエルは手にした。けれども神の力を使いこなすには時間がかかる。そう考えると、一つピンとくるものがあった。

「……だから回帰を?」
「私はそう考えている。彼の目的はわからないが、目的のために何回も回帰して力を順応させ成長させているのでは、と」
「……それが一番しっくりきますね」

 だがこれが事実だとしたら、かなり不味い状況になっている。サミュエルは、確実に力に順応してきているからだ。

(最初の方の回帰にはなかった出来事……それが神像を壊すこと)

 普通ではできないことをやったサミュエル。あれはレビノレアから奪った力の一部で間違いない。神聖力と考えることもできるが、神像を壊すような力ではないと言いきれる。

「……一つお尋ねしたいのですが」
「あぁ」
「もしかして、サミュエル様の力が強まるにつれて、レビノレアの力が弱まる、ということではありませんよね」

 神像を壊すほど強くなったサミュエルに対して、レビノレアの力は驚くほど弱々しく思えた。実際に目で見た訳ではないが、神々しさが薄まってきているのが何よりの理由だった。

「……凄いな、ルミエーラは。その通りだ。サミュエルに奪われたのは一部とはいえ、私の力。神の力とは増殖するようなものではない」

 元より、神の力とは後継者を立てた時に、受け継ぐのが決まりだった。渡した前任の神の力が弱くなり、渡された後任の力が強まる。これか理になっているとレビノレアは言う。

「……今回は、サミュエルを後継者にした訳ではないが、意図せずにそのような構図になってしまった」
「……だから、レビノレアの力は弱まる一方だと」
「あぁ」

 ぐっと手に力をいれて肩を震わせた。何と声をかけたらいいか悩んでいれば、衝撃の一言をレビノレアは放った。

「だからルミエーラを……この世界に呼んだんだ」
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