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52.神の謝罪
しおりを挟むふわふわとした不思議な感覚に包まれながら目を開けると、どこか見覚えのある真っ白な世界が広がっていた。
(……?)
ゆっくりと立ち上がれば、見渡す限り何もないと思いきや、振り替えれば、そこにはとんでもないものが存在していた。
土下座をしている神、レビノレアの姿があった。
「大変申し訳なかった。私のしたことは決して許されることではない」
その土下座は完璧なもので、頭を床にぴったりとつけて体は綺麗に丸まっていた。ただ、彼を包み込む雰囲気は申し訳ないという負の感情一色で、それがさらにどんよりとした様子を演出していた。
「だから私を恨んでくれ」
(神様が恨んでくれてって言うのはなんだか不吉ね)
思ったよりもレビノレアの謝罪に対して、薄い反応になってしまった。
「祝福を渡すと言いながら、転生特典と役に立つ力だと謳っておきながら、真逆なものを付与してしまったこと。本当に頭を上げられないほどだ。そしてなによりも、神だというのに、嘘をついてしまったこと。謝罪してもしきれないほどの大罪をおかした」
(……でも、神でも嘘はついていいのでは)
許すまいと、嫌悪の感情だけを浮かべていた存在。好きになることはないと断言して、恨めしく思っていた感情。
その気持ちは長年続いていたはずなのに。いざ目の前にレビノレアが現れると、想像していたよりも感情的にならず、冷静に言葉を分析していた。
(……)
「本当にすまない、ルミエーラ」
(……こんなに誠心誠意謝られたら、文句の一つも言う気になれない)
何度もすまない、申し訳ないと繰り返すレビノレアは、土下座から体勢を変えることなく謝り続けていた。その様子を見る限り、とてもではないが責める気にはなれなかった。
(……それに、今は責めるよりも聞くべきことがある)
切羽詰まっているのが現状で、一秒たりとも無駄にできない状況だった。それなのに、私情で時間を消費してはいけないと無意識に判断していた。
(……よし)
どうするべきか決めると、静かに動き出した。レビノレアも、私の足音を関知すると口を閉じた。
土下座するレビノレアの隣にゆっくりとしゃがみこんだ。
(でもやっぱり、これくらいなら許されるよね? ……えいっ!)
「!!」
私はレビノレアの頭に、加減を考えながら思い切り手刀をお見舞いした。そして、喋れないので彼の両肩を掴んでぐいっと体を無理やり起こした。
「ル、ルミエーラ?」
(安心してください、手刀しただけです)
何が起こったかわかってないレビノレアは、困惑した表情でこちらを見ていた。私はそれに対して、じーっと抗議する意味で見つめていた。
(本当は言いたいことはたくさんあるんです。けど、それよりも優先しなくてはいけないことがありますから)
「……」
(それに、貴方も謝るためだけに呼んだわけではないでしょう)
「……ル、ルミエーラ」
喋れないので目線と表情で訴えていると、レビノレアは申し訳なさそうな声色で口を開いた。
「すまない。言葉にしてもらえないか」
(……あぁ、そうか)
アルフォンスとの癖で、無言で伝わると考えながらやり取りを進めようとしていた。
(でも神様なら私の考えていることくらい、わかりそうだけどな)
疑問を抱けば、それを見通すかのようにレビノレアは声を出した。
「言いたいことは何となくわかる。ただ、今の私にはその力はないんだ」
しょんぼりと落ち込む姿は、ほんの少しだけ胸が痛んだ。
(……取り敢えず書くものはないのかしら)
レビノレアと目線が合うと、右手でペンを持つ形を作ると、ゆらゆらと動かした。
「書くもの、か?」
(そうですよ。言葉にしないといけないのですから)
うんうんと頷くものの、眼差しは少しだけ睨みを残していた。
「……ルミエーラ。ここでは、この空間では声を出して大丈夫だ」
(……えぇ)
反射的に嫌な顔をすれば、ますますレビノレアは落ち込んでしまった。
「私が信じられないのは重々承知している。ただ、この空間はあくまでも付与する場であり、私を主とする空間。ルミエーラ個人の力が干渉できる空間ではないんだ」
(……確かに、聖女よりは神の方がはるかに強いはずだからーー)
「多分」
(えっ?)
レビノレアの言葉に、思わず固まってしまった。
(多分……? 今この神、多分って言ったの?)
自信なさげに呟きからは、謎の緊張感が漂っていた。沈黙が続くなか、私はじっとレビノレアを見つめた。いたたまれないのか、他の理由があるのか、彼はそっと視線をそらした。
小さくため息をこぼすと、私は真顔で口を開いた。
「……レビノレア。説明してください」
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