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51.神嫌いの聖女と祈り
しおりを挟む更新が遅くなり大変申し訳ありません。こちら土曜日分の更新となります。よろしくお願いいたします。
▽▼▽▼
譲れない、とは少し意味が違うとは思うが、とうしても消えない感情だった。レビノレアを敬うのは、私にはあまりにも無理な話だった。
結局私は、慣れたとはいいながらこんな世界に放り込んだレビノレアのことが、普通に好きじゃなかったと言うことだ。
(……でも、命運がかかってるなら話は違う)
自分達の未来を知っている、接触しなくてはいけない相応の理由があるというのに、私は自分の気持ちを貫くほど愚かではない。
そしてアルフォンスの考えは、試してみる価値が十分にあった。
『やってみよう、祈ること』
「では行きましょう、ルミエーラ様」
強い眼差しで伝えれば、彼はふわりと微笑みながら手を引いてくれた。
「……正直、私はルミエーラ様の想いに納得できます」
(?)
「何年もこの世界に閉じ込められ、望まぬ力を与えられてもなお、神を敬えるのは、盲信してらっしゃるとしか思えません」
(アルフォンス……)
神嫌いの聖女なんて引かれてしまうかと思えば、アルフォンスは理解を示してくれた。
「聖女様や我々聖騎士団は確かに神に仕える存在です。ですが、属した我々でも、神を客観視して仕えるか否かを決める権利は、あると思っております。……聖職者である前に、一人の人間ですから」
(……ただの、一人の人間。聖女じゃなくて)
その言葉はまるで、聖女だから神を嫌っているなんておかしな話、そう思っている私に「そんなことはない」と優しく励ましてくれている気がした。自然と笑顔がこぼれる。
(……アルフォンスにはもらってばっかりだなぁ)
感謝を伝えようとすれば、思わずその考えが過った。アルフォンスには助けてもらってばかりで、自分から返したものは少ない、そんな気がすると、視線は下を向いてしまう。
「ルミエーラ様が隣にいてくださるだけで、私は幸せです」
(!)
アルフォンスは、こそりと伝えるように耳元でささやいた。驚きながらも、本心だとわかる甘い笑顔を彼は浮かべた。
『ありがとう』
今回は指で伝えずに、声を出さない口の動きだけでアルフォンスに伝えた。その方がより感謝の想いが届くと信じて。
(……着いた)
気が付けば礼拝堂に到着していた。奥へ進めば、壊された神像の半身が無惨に横たわっている。
「前回は粉々に、今回は真っ二つに。……この違いにはなにか意味があるのでしょうか」
(確かに。あるのかもしれない)
じっと神像の半身を見つめる。
(でも深く考える必要はない。大事な意味があるなら、慈悲深い神様が教えてくれるだろうから)
アルフォンスの手をそっと離すと、私は一人静かに神像へと近付いた。
(祈るにはまず、綺麗に直さなければ)
壊れた神像に祈ったところで、声は聞こえない可能性もある。なによりも、やはり敬意を込めるなら、直すべきだと思った。
ふうっと深呼吸を一回する。
(世界はしつこいくらい、事細かに言わないと理解してくれない)
これはかつての私が、何度も繰り返すなかでみつけた欠陥チートの答えだった。
「オルローテ王国の王都にある教会の壊れてしまった神像を、今この瞬間、あるべき姿に直しなさい」
教会に私の声が響き渡ると、横たわっていた神像がふわりと浮かび始める。そして、元の位置へと戻り、柔らかな光を放ち始めた。その光は強くなり、目が眩むほどの強い光に包まれると、無事に神像はあるべき姿に戻るのだった。
(……直った)
「……」
ほっと胸を撫で下ろしながらアルフォンスの方を振り向けば、何故か泣き出しそうな表情を浮かべていた。
(ど、どうしたの?)
慌てて近寄れば、何故か引き寄せられて抱き締められる。
「ありがとうございます。救ってくださって」
(! ……やり直して、のことか)
その記憶を思い出すと同時に、アルフォンスな嫌な記憶に触れてしまっていることに気が付いた。反射的に彼の胸に触れて『痛い?』と聞いた。
「いえ、むしろ温かくなっています。確かにあの日貫かれた痛みは完全に消えてはいませんが、ルミエーラ様によって傷も消え、なかったことになりましたから。今となっては大切な記憶です」
(……もう二度と、殺させはしないから)
気丈に振る舞うアルフォンスは、もしかしたら痛みを隠しているのかもしれないと憶測を浮かべながら、サミュエルへの怒りを静かに膨らませるのだった。
「それに、ルミエーラ様の声を聞ける貴重な議会で……本当に感動しているんです。図書室の時は聞けなかったので。ですが、あの時無事に発動したのは安心しました」
(泣きそうになったのはそれが理由なのかな。……あれ? じゃああの紙を仕込んだのって)
「はい、私です」
答えを聞くと、紙の意図はすぐにわかった。
それまでの過去ーー神殿に侵入した回に起こった、本来なら解決できない非常事態を解決していたのは私の力だったから。
あれは、その力をあの場で発揮させるための、引き金となる言葉。アルフォンスが用意してくれた紙おかげで何とか最悪の事態を避けられた。改めてアルフォンスにお礼を告げる。
「騎士として当然のことをしたまでです。ですが、お役に立てて本当によかった」
喜びを見せてくれた彼に微笑むと、今度はアルフォンスと一緒に、神像の方へ近付いた。
「神託が……下されると良いのですが」
(そうね……まずはやってみる)
そっと神像の前に座れば、アルフォンスも騎士らしく跪いた。手をそっと組む。
(……レビノレアへの心からの敬意を)
そんなものはない、とは言わずに、考えられるだけの感謝の気持ちをこれでもかと言うほど浮かべながら、どうか届くようにと祈りを捧げた。
ーールミエーラ。やっと、祈ってくれた。
(え?)
突然頭の中に声が響いたかと思えば、一瞬で体の力が抜けた。
「ルミエーラ様!!」
アルフォンスに支えられた感触を最後に、意識を手放すのだった。
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