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46.迫られる二択

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 祝祭を取るか、サミュエル様の元へ行くのか。この選択をすぐに決めることはできなかった。

(……それにきっと、同じ手は使えない)

 ソティカという監視の目を掻い潜って教会から出ることは、至難の業になることは間違いない。

(ルキウスは証拠こそ揃えられなかったけど、確実に警戒はしているから)

 うぅっと頭を悩ませている間、ディートリヒ卿は静かに答えを待っていた。彼がいくら有能でも、今回頷いてしまえば大きな負担をかけてしまうのは明らかだった。

「今すぐに決めずとも、良いと思います。祝祭当日まで、まだ時間はありますから」

 その心情が顔に出ていたのか、ディートリヒ卿は私が悩む理由はわかっていると言わんばかりに、微笑みながら告げた。

 彼の気遣いに甘えることにして、私は一言返事を書いた。

『考えますね』
「はい。いつでもお待ちしてます」

 こうして、今日のサミュエル様の話題は終わったのだった。


◆◆◆


 ーーまさか、当日の直前まで答えがでないなんて。

(……どうしよう。もう祝祭まで四日しかない)

 ディートリヒ卿は言葉通り待ってくれた。ただ、催促もしなかったのだ。悩みに悩んで、サミュエル様か祝祭か、結局答えが出なかったのだ。

(最初は、祝祭に関する詳細を聞いてから決めようとしたのに)

 残念なことにルキウスは、まだ何も教えてくれなかった。理由はわからないが、祝祭まで一週間をきったというのに、教えてくれないのは困惑そのものだった。

 バートンも問い合わせてはいると言っていたが、答えは返ってこなかったようで、すまないと謝られた。バートンは悪くないのに。

 ぽすりと布団に横になる。

(まずい……今ここで寝たら、あと三日になっちゃう。今日こそ寝る前に決断しないと!)

 と意気込んで天井を見るものの、ディートリヒ卿に情報をもらった日と今日で、情報が特に変わっていなかった。

(……冷静に考えれば。祝祭を優先して、その次の月にサミュエル様に会いに行けばよい)

 ただ、これに関してはディートリヒ卿も言っていたことがある。それは、現状毎月来ているだけで、いつサミュエル様がその教会に来なくなるかはわからない。だからこそ、早く行動しないといつ会えるかはわからないのだ。

(これを言う時、心なしかディートリヒ卿が焦っているようにも見えた。もしかしたら、サミュエル様が雲隠れする予兆があるのかもしれない)

 駄目だ。やはり考えても簡単に答えがでない。

(というか! これもルキウス・ブラウンがさっさと詳細を教えてくれないのも悪いわよ。何もなければ、判断材料にならないじゃない)

 ため息をつきながら、目を閉じるとそこを右腕でおおった。

(……このまま、寝ちゃおうかな)

 思考することを放棄したくなるほど、自分は難しい状況にいた。意識が遠退きそうになった時、どこからか私の名前を呼ぶ声がした。

「ルミエーラっ……!!」

 ばっ! と体を反射的に勢いよく起こす。その瞬間胸に尋常じゃないほど強い痛みが走った。

(ーーーーっ!!)

 痛い。そう言える余裕もないほどの激痛に襲われた。

 それは一瞬の出来事であったものの、痛みがなくなっても、解放された気持ちにはならなかった。それどころか、違う種類の胸の痛みが始まった。

(なんだろう、この何かが重くのし掛かっている痛みみたいな違和感は)

 呼吸はできるものの、違和感は強まるばかりだった。

(それにさっきの声、どこかで聞いた気が……駄目だ、思い出せない)

 ぎゅっと胸に手を当てるも、何故か無意識にベッドから下りた。そしてそのまま、足が部屋の外へと向かう。

(……ディートリヒ卿)

 就寝時間にディートリヒ卿がいるかは知らないことなので、今いないことが異常なのか違うのかわからなかった。

 ただ何故か、足をふらふらと動かし続ける。ソティカやバートン、他の神官達は眠りについてあるだろう夜に、私は一人教会の中を歩いていた。

 まるで何かに導かれているように、ゆっくりと進み続けた。自分の足で歩いているのに、自分の意思ではない不思議な感覚。

 気が付けば、見慣れた扉に手を掛けていた。

(礼拝堂……?)

 どうしてここに来たくなったのかはわからない。そもそも部屋を出た理由も。痛みの理由も。

 わからないことだらけで嫌になりそうになるものの、足は止まってくれなかった。

 そして、礼拝堂の中を進む。

 中は夜で暗いため、あまり様子がわからない。けれども目を凝らして辺りを見回した。

 すると、月の光によって神像が照らし出された。

(……えっ?)

 その瞬間、胸の違和感が強まり、痛みへと確実に変わると、痛みの原因が神像であることを直感的に気付いた。

(一体……何があって)

 目の前にある神像は、無惨にも壊されていた。綺麗に真っ二つにされた、神像の上半身が、静かに横たわっていた。

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