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35.スムーズな探索

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 図書室の前にたどり着くと、自分の想像していた光景とは全く違っていることに驚く。

(……え? 警備の人が誰もいない)

 警備が厳重だと思っていたが故に、騎士が誰もいないことにキョトンとしてしまう。なんだか脱力しながら、自分の心情を書いて表した。

『あの、どうして人がいないんですか?』
「警備というのは、騎士を配置するだけではありませんから」
(……そういうものなのかな?)
「というのが、我が騎士団長の考えです」
(うん?)

 ますますわからなくなると、無言でそれをディートリヒ卿に訴えた。

「先程も申し上げたように、ここ数十年、図書室に関して問題が起きたことがないんです。それを理由に、うちの騎士団長は他にも重要な仕事があるからと、ここの警備をなくすよう提案したんです」
(それって……大丈夫なんですか?)
 
 さすがに騎士団長ともあろう方の考えだから、何か理由や代替案があっての発言だと思いながらも、警備をなくしても問題ないのか疑問はつきなかった。

「ここの鍵を厳重に取り扱うこと、そもそも神殿に部外者をいれないよう、神殿自体の警備を強化すること。この二点を上げたところ、無事に話がまとまりました」
(まとまったんだ……)

 ディートリヒ卿が言うには、神殿の図書室には確かに貴重な書物があるものの、持ち出したところで神殿の紋章が入った本が売れることはない。そして、神殿の知識がほしいという変わり者もいないようだ。

 それを裏付けるように、今まで図書室には本当に人が寄り付かなかった。故に警備の意味はあまりなく、割り振られた騎士からしたら楽な仕事になったのだという。

 これを疑問視した騎士団長により、数年前から警備はついていないのだと教えてくれた。

「鍵さえ閉めれば大丈夫だと。……まぁいわゆる緩みから生まれた警備体制なわけですが」

 明け方に警備事情が重なったお陰で、図書室の回りには人の気配すら感じなかった。

(でも……ということは鍵がなければ入れないんじゃ?)

 不安げにディートリヒ卿を見上げれば、問題ないという表情で微笑まれた。

「……昔、実は少し悪さをする子どもだったんです」
(え、想像つかない)
「なのでピッキングが少々できます」
(それは、悪さしてそう)

 貴族のご令息にも、ヤンチャをする時代があるのかと思えば、次の瞬間には扉を開けたディートリヒ卿がありないほどの素早さで扉を開いた。その手際のよさに感心してしまう。

(凄っ。……さては、相当悪さしてたな? じゃなきゃこんな簡単に開かないだろうし……。もちろん、才能の有無もあるとは思うけど)

 想像つかなかったが、もしかしたら幼少期は、今とは全く真逆の性格だったのかもしれないなと感じていた。

(でもそれにしても……)

 開いた図書室の扉を目の当たりにすると、必然的にある感情が大きく浮かび上がる。

(こんなに簡単に到着するものなの……!? なんか思ってた何倍も楽に来れたのだけど……)

 スムーズに行き過ぎて逆に怖い。

 不安な思いが広がって行くものの、現実を受け止めながら図書室へ足を踏み入れた。

(うわぁ……!!)

 そこには、教会の図書室とは比べ物にならないほど、大量の本が並んでいた。人が訪れないというのは本当のことで、中は静まり返っていた。

(凄い、二階建てになってる)

 きょろきょろと辺りを見渡しながら、圧巻の光景を見つめる。

「もしよろしければ、お探しの本をお教えいただいても?」
(……この量を一人で探すのは確かに無理かもしれない。ここは正直に言おう)

 本の内容を告げるくらい平気だろう、と判断してメモ帳を取り出した。
 
『祝福に関する書物が読みたいです』
「祝福、ですね」

 復唱に頷くと、私達は早速二手に分かれて本を探し始めた。

(祝福っていうけど、必ずしもいいものじゃないはず。私がそうだから。それなら前例があってもおかしくないと思うんだけどな)

 その一心で本を探していく。膨大すぎる量に囲まれているわけだけど、不思議と見つけられる気がした。なんとなく、勘が働く方へ足を進めると、お目当ての本が現れた。

(あ、あった!)

 祝福に関する本を見つけると、教会では見たことないものに手を伸ばした。

(……この内容は読んだ)

 パラパラと目を通していくものの、私が望んだ内容が記されたものはなかった。残念ながらどの本も結局は似たようなことしか書かれておらず、解決に繋がる情報を見つけることはできなかった。思わずため息をついてしまう。

(はぁ……)

 当たり前だが、そう簡単に答えを探し当てることができるとは思ってなかった。ただ、落胆していたのは別の理由があって。祝福の本はどれも口を揃えて“祝福とは神が与えた、最上級の贈り物”と、良いものとして描かれていた。

(……これまで祝福をもらった人の話が伝説のように描かれていたいたわけだけど)

 そこに失敗も例外もなく、皆、国のため世界のためになることに力を使っていた。

(使いこなせる程度の力なら良いでしょうね。それに、与えられた人達は何をすべきかわかる力ばかりだった)

 ある者は雨を降らせる力を、ある者はどんな病でも治る癒しの力を、ある者は愚王を倒せるような戦う力を。

 具体的な明記がないものもあったが、それでもその祝福は何をすべきか、神の意思が明確なものばかりだった。

(はぁ……レビノレアさんさ、私ももっとわかりやすい祝福がよかったな。というか、なんならいらなかったよ……)

 そんなことを、思ってもどうにもならないことは一番よくわかっている。

(次よ、次。別の書物を探そう)

 パンッと両頬を叩くと、気合いを入れ直した。


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