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28.協力者は微笑む
しおりを挟む私の反応を特段気にすることなく、爽やかな笑顔のまま見つめていた。
(え……もしかして、自分が今何をしたかわかってらっしゃらない?)
心を読んだのかと思うほど、ディートリヒ卿が口を開けるのは早かった。困惑しながらも、何も気にしていない彼に直球で尋ねた。
『私の心、読みましたか。ディートリヒ卿は心が読めるんですか』
「さすがに、そのような能力はありませんよ。ですが、ルミエーラ様の考えていることならほとんどわかる自信があります」
(いや、なんで!?)
心を読む訳でもないのに、どうやって私の考えがわかるというのか。ますますディートリヒ卿が何を考えているのかわからず、もはやお手上げと言わんばかりの表情を浮かべた。
「ルミエーラ様、もしかしたらご自身ではお気付きでないかもしれませんが……」
(え、なんだろう)
少しだけ声のトーンを下げて、真剣そうな眼差しで続けた。
「ルミエーラ様はとても表情が豊かです。言葉を選ばなければ……喋れない分、よく表情に出ています。……反応を見るからに、あまり気にされたことはなかったみたいですね」
(うん、それは知らなかった)
初めて言われたことだったので、素直に首を縦に振った。
「これを踏まえれば、ルミエーラ様の考えを表情から推測するのは造作もないことだと思います」
(そっか………………いや、そうか?)
危うくディートリヒ卿の主張を鵜呑みにするところだったが、それを踏まえても表情から推測するというのは至難の技。理由の一つではあるものの、それだけではやはり納得できない。
そう思うと、もう一度質問を紙に書き起こした。
『他に理由は?』
「他に、ですか……」
まさか追加で尋ねられると思っていなかったのか、ディートリヒ卿は少しの間だけ考え込んだ。
それもすぐに終わると、私を見つめて柔らかな笑顔で答えを出した。
「やはりーー」
(やはり?)
「愛の力、でしょうか」
(……うん?)
「ルミエーラ様を慕うがあまり、知りたいという欲が出ていて……もしかしたらそれが、原動力になっているかもしれません」
(…………)
あまりにも綺麗な笑顔でさらっと言ってのけるから、静かに聞き入ってしまった。
(これは……真面目に言ってるの、か?)
予想外すぎる答えは、これ以上触れれば自分が火傷してしまう気がした。真面目でも、真面目でなくても、一旦はそれをディートリヒ卿の答えとして受けとることに決めた。
(この話題はここで終わらせよう)
これ以上深掘りする話でもないと判断すると、次の話題に移った。
協力を頼む理由を書き記す。今度は、ディートリヒ卿の声によって手を止めることはなかった。
『神殿に行きたいです』
行く意味まで書いていると時間がかかりすぎてしまうので、まずは率直なものを伝えた。続けて書こうとすれば、その必要はなかった。
「以前、休暇の日に図書館に行き来されていましたが、神殿に行きたい理由はその延長ですか?」
(凄い、合ってる)
細かいことを省けば、ディートリヒ卿が述べてくれたもので合っていた。彼はただ表情だけを見ているのではなく、私の行動から推測したようだった。それが純粋に凄くて、思わず感心した表情で頷く。
(……多分、ディートリヒ卿は凄く頭の回転が早いんだろうな)
愛の力がよくわかってない私は、自分の中で納得行く理由にようやくたどり着くことができた。
「では、お目当ては神殿図書館ですかね?」
(正解! そうです)
意志疎通ができているのが嬉しくて、力強く頷いた。その反応を微笑ましそうに見つめられた。
「ただ、神殿図書館に行くとなると、当然ですが神殿の中に入る必要がありますね」
(……やっぱりそれは難しいのかな)
「簡単にはいかないと思います」
(そうだよね……)
警備がしっかりしているのは当たり前のことだが、喋れないという欠陥を持っているお飾りの聖女が行けば、まず止められる。ルキウスも言っていたように、神殿には私のことを嫌う者がそう少なくないから。
「ですので、何か作戦を考えたいと思います」
(作戦……)
「この作戦に関してなのですが、私に任せていただけませんか?」
(もちろん)
ここはむしろ、ディートリヒ卿に任せるしかない。
(私よりも、少し前まで神殿にいたディートリヒ卿の方が色々と把握してるもの)
そもそも、今の神殿がどうなっているかは、私にはわからないことだった。
「日程ですが、私の方の準備が整い次第ということでよろしいですかね?」
(お願いします)
こうして話は終わったのだが、終始私は首を縦に振るだけで、紙に書くことは少かった。それでもなぜか不思議と、不安になることはなく、むしろ心は満たされていた。
(……よかった、協力者ができて)
神殿に行けるかもしれないということは、私にとって大きな前進になるということだった。
それが果たされた今、安心すると共に、何がなんでも神殿の図書館に行くという決意をするのだった。
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