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20.聖女の魅力とは
しおりを挟む筆談なしでコミュニケーションができていたという事実を知り、どう受け止めれば良いのかわからなかった。ただ、スケッチブックを無言で眺めてしまった。
「……聖女様?」
(あっ)
ソティカの心配する声で我に返ると、いつも通り文字を書き起こした。
『夕食からにします!』
「かしこまりました。今ご準備いたしますね」
ソティカの後ろ姿を見送ると、再び考え込んだ。
(……気のせいにするには、要素が多すぎる)
前々から、ディートリヒ卿は気遣いのできる人なのだろうと勝手に思っていた。けど、今日の行動を見返すとその言葉だけで片付けていいものなのかわからなくなる。
夕食と湯浴みはぐるぐると思考が回っていた。ソティカが眠る前にと落ち着く香りのお茶を出してくれた。
「改めてお疲れ様でした」
(……ソティカに聞いてみようかな)
少し考えながら尋ねる旨を伝えた。
『聞きたいことがあるの』
「はい、なんでしょう」
快く返事をしてもらえたので、そのまま尋ねたいことを書き進めていく。
『私って何考えているかわかりやすい?』
「そうですね……表情豊かだとはおもいますよ」
(表情豊か……それでも、表情から全てを読み取るって言うのは至難の技よね)
返ってきた答えを聞いても、ということはディートリヒ卿はこうなのだと結論付けることが難しかった
「もしよろしければ、その疑問が浮かんだ経緯をお聞きしても?」
(もちろん!)
勢いよく首を縦に振ると、ソティカは温かな眼差しで微笑んでくれた。
そうして、ディートリヒ卿に関する今日起こった三つの偶然と、それよりも前から感じている気遣いの良さについて説明した。
「なるほど……」
(ソティカならなにかわかったかな)
説明し終えるとソティカの言葉を待った。
「まず考えられるのは、護衛騎士だからですかね? お仕えする主君が不便のない生活ができるように、普通の人以上に気を配っているからできているのかもしれません」
(……ソティカの言いたいことはわかるのだけど、その考えだとなにか引っ掛かるんだよね)
護衛騎士だからというのは、確かに理由としてふさわしいものだと思う。けどなぜか腑に落ちないのだ。
「私はそれよりはこちらかなと思っているのですが」
(なんだろう?)
心なしかソティカの声色が楽しそうなものに変わっていた。
「ディートリヒ卿は、聖女様のことをお慕いしているのかもしれません」
(!?)
とんでもないことを言い出したソティカに、固まってしまうほど驚いた。私の思考はソティカが最初に述べた方しか考えられなかったこともあって、完全に予想外の回答だった。
「相手のことがわかるというのは、よく見ているから、もしくはわかろうと努力したからだと思うんです。もちろん、気遣いしようとして努力したかことも考えられますが、その努力の裏側にはやはり、慕う思いがあるのではないかなと邪推してしまいます」
(………………)
ソティカの言いたいことはわかるものの、納得は何一つしなかった。その理由を疑問として書き出す。
『助けてもらうばかりで、好きになられるようなことはしてないよ?』
心の底から思っていたことを聞けば、今度はソティカが驚いた。
「まぁ! 何を仰るんです聖女様。まず聖女様はとてもお美しいです。お顔立ちが美しいのはもちろんですが、内面まで美しい方ですので、惹かれる要素は十分すぎるほどありますよ」
驚いたと思えば、ソティカによる私という人についての熱弁が始まってしまった。
「まずしっかりとお務めをこなされていらっしゃます。私のような世話係にも優しく接してくださいますし、これに関しては騎士の方にも同じように接されてるなら、好きになられてもおかしくはーー」
熱のこもった言葉の数々は嬉しかったが、そうか? と思ってしまうものも多々あった。当たり前だけど、あくまでもソティカの主観の話しだった。
(うん、わかった。ソティカから見ると、私は魅力があるってことは)
よく見ていてくれたことに感動しながら、たくさん考えてくれたことにお礼を告げた。就寝時間も近付いてきたので、おやすみの言葉を最後に、ソティカは部屋を後にした。
私はというと、ベッドに座り込みながら改めて考え始める。
(ソティカの、ディートリヒ卿が私を慕っているという仮定を一旦考えてみよう)
納得はしていないが、理解できる部分もある。そう思っていると、ちょうど視界に鏡が映る。引き寄せられるように近付いてみると、鏡の中の自分の顔をじっと見た。
(……確かに顔は整っているのよね。顔は)
自分の顔をみながら客観的な評価を考える。頬を両手で触りながら、自分の顔や髪を眺めた。自分に前世があるからか、どこか他人のようにルミエーラの外観を見始めた。
(仮定が本当だとしたら……そうね、ディートリヒ卿はこういう顔が好みってことよね)
パーツ一つ一つを見ても、やはりルミエーラは綺麗な顔立ちの部類に入る。
(……まぁ、整えて欲しかったのは顔じゃなくて祝福なんだけどね)
そう自嘲気味に笑うと、もう一度だけ自分の顔を見てベッドに戻るのだった。
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