15 / 115
15.聖女を守る剣
しおりを挟む振り向かなくても、声色と包み込まれた雰囲気で誰なのかわかった。途端に恐怖心が薄れて、心の底から安心する。
「お怪我はありませんか?」
(大丈夫です、ありがとうございます)
何とか目線と頷きでその思いを伝えた。
「よかったです……すぐに片付けるので、目を閉じていてください」
(目を……?)
「お目汚しになりますから。神聖なるルミエーラ様の視界に映すものではありません」
(わ、わかりました)
「それと耳もふさいでください。理由は同じです」
目が合うと、静かに怒っているのを感じ取る。その怒気に圧倒されると、もはやただこくこくと頷くことしかできなかった。ディートリヒ卿に言われたように、きゅっと目を閉じ、耳をふさいで下を向いた。
それを確認すると、そっとディートリヒ卿は腕を離し、気配を傍から消した。
「ーーっ!!」
「うわあっ!!」
「ぎゃぁあっ!!」
耳をふさいでも、神官見習い達が成敗されてる声は、微かに聞こえた。しかしそれも一瞬で、次に聞こえてきたのは、ディートリヒ卿の優しい声だった。
「ルミエーラ様、失礼しますね」
(!?)
何かと思えば、体がふわりと宙を浮いた。
「まだ目を閉じていてください」
(な、何が起きてるの……!?)
恐らく横抱きされているのは間違いないのだが、何故そうなったかはわからなかった。言われた通り目を閉じ続けていると、ディートリヒ卿は少し歩いて椅子へと座らせた。
「もう目を開けて大丈夫です」
(あ……見えないようにしてくれたんだ)
その配慮に気が付くと、急いでポケットのメモ帳を取り出した。
『ありがとうございます』
ペンは持ち合わせていなかったから、新しく書くことはできなかった。本当なら、今ここで書きたかったのに。
「いえ、護衛騎士なのにお傍を離れたという失態は消えません。申し訳ありません、ルミエーラ様」
(でも助けてくれたから)
謝らないでほしいという思いは言葉にできなかったが、首を横に振っていた。申し訳なさそうではあったが、小さな笑みを見ると、伝わっていると錯覚してしまいそうだった。
「ディートリヒ卿!!」
バートンの声が廊下に響く。彼は急いでこちらに向かってきていた。
「神官長様」
「きゅ、急に走り出すから何事かと。おぉ、ルミエーラも一緒と一緒だったか」
「神官長様、ルミエーラ様がそこにいる神官見習い達によって襲われかけました」
「な、何だと!?」
ディートリヒ卿は、事の顛末を私とバートンに聞かせた。
話を聞くと、バートンに会いに行ったディートリヒ卿だったが「呼んだ覚えはないのだが」と聞いた瞬間、急いで私を探しに戻ったのだという。
(それだけでわかるなんて、騎士の勘というものかな。凄い)
ディートリヒ卿の動きに感心していると、バートンはすぐさま教会の警備隊を呼んで見習い神官達を拘束させた。間もなくして、バートンによる尋問が開始された。
私とディートリヒ卿は、別棟の誰もいない静かな廊下に移動していた。
「二度とお傍を離れません」
『ありがとうございます』
(助けてくれたのだから、そこまで自分を責めないでほしいけど)
どこか落ち込む様子が気になりながら、その言葉に応えるように頷いた。
「……ルミエーラ様は優し過ぎます」
(え?)
「……もっと怒るべきです。最悪、解雇もできるほどの失態なのですから」
(随分厳しいな。でも騎士の世界ってそういうものなのかな……?)
うーんと悩みながら、自分は気にしていないという思いをどうにか伝えようとした。
(私は本当に大丈夫。助けてくれて本当にありがとう)
そう思いながら、手を動かした。
片手で自分の胸を二回ほど叩いた後、両手でグッとの形を作ってディートリヒ卿に見せた。もちろん、笑顔つきで。
「私は大丈夫……気にしないで、でしょうか?」
(伝わった……!)
伝えられたことに喜びながら、うんうんと首を二回縦に動かした。
「……ありがとうございます、ルミエーラ様」
申し訳なさそうな笑みから、納得してくれた様子の笑みに変わった。それにほっと胸を撫で下ろす。
(……それにしても、教会内に危険な人物がいたなんて)
教会の警備は完璧だ。そう思っていられたのは、外からの侵入が厳しいからだった。恐らく子爵令息は、それを知っているから神官見習いに化けて私に接触しようとしたのだろう。
(警戒しないと。……やっぱり、これからは過ごしにくくなるのかな)
いくら護衛騎士がいようと、自衛もしなくてはならない。そしてこれからは、今まで以上に周囲の目と存在に気にして生きていかないといけないのかもしれない。
そう思うと、生きにくい気がしてため息が出た。
「大丈夫ですよ、ルミエーラ様」
(……?)
「今回の件で、神官長様は見習い神官の再精査をすると仰られていました。あの子爵令息のような人物がいないか、しっかりと確認をすると」
(そうだったんだ……)
「それに、必ずお傍にいます。だから安心してください」
力強い言葉でそう言われると、鬱々とした気持ちは少しずつ晴れていった。
(それにしても、どうしてわかったんだろう)
ふと疑問に思いながらチラリと見上げると、目があったディートリヒ卿が察したように答えた。
「とても不安そうな表情をされていたので。少しでも安心していただけたらと思ったのですが」
(よく見てるんだな……ありがとうございます、十分です)
笑顔で頷くと、今度こそ私は自室に戻るのだった。もちろんディートリヒ卿に送られて。
11
お気に入りに追加
264
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~
岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。
「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」
開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる