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13.聖女の通常業務
しおりを挟む休暇といっても半休だったけど、ゆっくりと体を休めることができた。今日からはこれまでと変わらない、通常業務が再開される。
といっても、普段の仕事は激務ではない。
私のメインの仕事は、もちろん信者達に顔を見せることだが、それを頻繁に行うとありがたみが消えるというバートンの策略のおかげで、全体的な仕事量は少ないのだ。
教会の朝は、神像の前に集まって祈りを捧げるところから始まる。教会内にいるバートンをはじめとした神官や、神官見習い達が集まり、行うのが習慣となっている。その様子は傍から見れば儀式のようにも見えるだろう。
私も端っこで準備をする。いつもと違うのは、隣にディートリヒ卿がいること。
「我らが敬愛する神、レビノレア様に祈りをお捧げします……!」
バートンの声と共に、その場にいる全員が祈り始める。ちなみに私はというと、そんな心は持ち合わせていないので、いつも動作だけ真似て、内心は無関係のことを考えている。
(それにしてもよく寝れた……あ、そういえば、ディートリヒ卿に紹介していて気が付いたけど、今度久しぶりに図書室に行ってみよう)
神に祈りを捧げることで、何かが起きるわけではない。“この祝福を取り消してください”とお願いしても消えることはないのだ。私が祈りを捧げたのは、その一度だけだったと思う。
(終わったかな)
昔は時間を数えて、目を開けるタイミングを調節していたけど、今となっては何となくでわかる。
「では解散とする。各自業務につきなさい」
何度も聞いたその台詞を耳にいれると、私は礼拝堂の奥にある、仕事部屋に向かった。当たり前だが、静かにディートリヒ卿も後ろをついてきていた。
部屋に到着して中に入ると、山積みになった書類が目に入る。その中でも、机上にあった白紙の紙を見つけて、これから何をするのか書いていく。
『今日は書類関係の仕事をします』
「わかりました」
反応を見ると、急いで続きを書いて見せた。
『席が余っていますので、ディートリヒ卿も座っていてください』
「あ……」
以前のやり取りを忘れたわけではないので、素早く書き足した。
『もちろん任意です』
「……ご配慮いただきありがとうございます。では扉側に座っても良いですか?」
その申し出に頷くと、私達は向かう合うように座った。
(良かった。さすがに何時間も立たせておくのは気が引けたから)
安心したところで、早速取り掛かろうとすると、ディートリヒ卿から意外な言葉が発された。
「何かお手伝いすることはできますか?」
(……え?)
「座っているだけもあれなので」
(うーん……ディートリヒ卿でもできることか)
何と返そうか筆を持ったまま悩んでいると、ディートリヒ卿が補足するように説明してくれた。
「実は神殿では書類仕事もしていまして」
(え、そうなの?)
「ですので、基本的なことならできます。神官長にも、可能なことをやるよう言われまして」
(それなら手伝ってもらおう……!)
自分の仕事の負担が減ることに、無意識に目を輝かせる。笑みをこぼしながら小刻みに頷いた。
紙に書くよりよ先に、立ち上がる。山の一つを半分にして、それをディートリヒ卿に渡した。
『こちらの書類の不備を確認してもらえますか?』
さっと書いた文字を見せる。
「もちろんです。わからないことがありましたら、お尋ねしますね」
(そうしてください)
了承すると、私達は早速仕事を開始した。静かな空間に、文字を走らせる音だけが響く状態になった。
はじめ護衛騎士と聞いた時は、四六時中誰かといるなんて信じられずに、面倒くさいものだと思っていた。だけど、いざ護衛についてもらっても、不便に感じることはあまりなかった。
(やっぱり私には見る目があったみたい)
自分の直感が当たりを引いたのだと、上機嫌になりながら書類を読み進めていった。
(……お腹空いた)
お昼にはまだ一時間早いというタイミングで、お腹が空き始めてしまった。お腹の音が鳴らないか不安になってくる。不機嫌とまではいかないが、集中力が切れてきてしまった。
(うぅっ……早くエネルギー補給したい)
書類仕事のように頭を使う内容の時は、消費エネルギーが大きく、普段よりも早くお腹が空いてしまう。ただ、普通と比べると食事時間には早いタイミングだったので、どうするか迷ってしまった。
(一人の時は昼食取り始めるんだけど……今日は一人じゃないからな)
悩みながらも、何とか書類をさばいていく。しかし、明らかに速度は落ちていた。その様子を見たからなのか、ディートリヒ卿が声を出した。
「ルミエーラ様、そろそろ昼食の時間にしませんか?」
(……したいです!)
勢いよく二回ほど頷いた。
「では昼食にしましょう。食事はこちらの部屋でですか?」
(そうです!)
私は食堂ではなく、基本的に仕事部屋で食べる。その旨をディートリヒ卿に伝えると、書類を片付けて昼食の準備をし始めた。
(ディートリヒ卿もお腹空いてたんだな)
私は、集中するとお腹は空くもの。それは騎士も変わらないのだろう、と呑気なことを考えながら片付けるのだった。
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