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第六十三話 お菓子作り
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「よーし、がんばるぞ!」
隼人は決意を新たにテキストに向かっていた。目標が定まって、いっそう視界がクリアに開けた気がする。問題に向かう気持ちも、新鮮だった。
がんばって○大に受かって、龍堂くんと大学も一緒にいる!
ハヤトとタイチみたいに。隼人はハヤトロク(二冊目)をちらりと見て、それからすぐに、視線を目の前の問題に戻す。
なんだか不思議な気持ちだった。ユーヤのことや学校のこと、問題はなにも解決していない。なのに、それよりも目標の山頂の景色が気になるのだ。それらが通過点であるかのように、未来のことが楽しみだった。
「隼人」
月歌が部屋に入ってきた。隼人のテキストを見下ろす。
「すごい、もうこんなに進んだの?」
「うん!」
「頑張るなあ。無理しちゃだめだよ?」
「ありがとう。お姉ちゃんこそ、勉強お疲れさま」
月歌は、隼人の顔をじっと見て「男の子って不思議だなあ」とつぶやいた。感慨深げな言い方に、隼人は首を傾げる。月歌は「なんでもない」と笑う。
「でも、たまには息抜きもしないとね。ってわけで、今からナナたちとお菓子作るんだけど……手伝ってくれる?」
「わあ、楽しみ! もちろんだよ!」
隼人は勢いよく立ち上がった。
◇
「ふんふん」
隼人は薄力粉をはかりにかけ、ふるっていた。バターも切って、卵と同じく常温に戻したし、あとは型紙を作って……隼人は鼻歌交じりに作業をする。恒例のことなのでならしたものだ。それに、無心で作業していると、頭がやわらかくなる気がする。月歌の言うとおり、息抜きって大切だ。ボウルのチェックをすると、隼人はソファの向こうに声をかけた。
「お姉ちゃん、ナナさん、アオイさん。準備できました!」
三人は参考書から顔を上げ、歓声を上げた。
「ハヤちゃん、ありがとー!」
言うがはやいか、ソファから身を起こして、テーブルに集まる。アオイが、「おお」と感心したように声をあげた。
「あいかわらず完璧ですね」
「えらーい! よしよし」
手放しに誉められて隼人ははにかんだ。ナナがぐるぐると肩を回す。
「さーー作るぞ! もう勉強勉強で肩こっちゃって!」
「お疲れさまです」
「ハヤちゃーーん、やさしいのはお前だけだよっ」
「こら! 私の弟だぞ!」
抱きつこうとしたナナを、月歌が止める。アオイがその隙にバターの味見をしようとしていた。
「こら、アオイ!」
「これをパンに塗ったら極上なのでは……」
ナナが叫んで、アオイからバターを取り上げた。どたばたと騒ぐ二人に、月歌が苦笑する。
「いつもありがと、隼人」
「ううん。俺こういうの得意だから」
「偉いなあ」
月歌たちはお菓子づくりが好きなのだが、準備片づけ全般が苦手で、隼人はその役を担っていた。隼人はその報酬にお菓子をもらうという、互いにハッピーな協定ができていた。
「今日はパウンドだから、ハヤちゃん、楽しみにしててね!」
「はい!」
作業モードに入った月歌たちと入れかわりに、隼人はソファに向かったのだった。
隼人は決意を新たにテキストに向かっていた。目標が定まって、いっそう視界がクリアに開けた気がする。問題に向かう気持ちも、新鮮だった。
がんばって○大に受かって、龍堂くんと大学も一緒にいる!
ハヤトとタイチみたいに。隼人はハヤトロク(二冊目)をちらりと見て、それからすぐに、視線を目の前の問題に戻す。
なんだか不思議な気持ちだった。ユーヤのことや学校のこと、問題はなにも解決していない。なのに、それよりも目標の山頂の景色が気になるのだ。それらが通過点であるかのように、未来のことが楽しみだった。
「隼人」
月歌が部屋に入ってきた。隼人のテキストを見下ろす。
「すごい、もうこんなに進んだの?」
「うん!」
「頑張るなあ。無理しちゃだめだよ?」
「ありがとう。お姉ちゃんこそ、勉強お疲れさま」
月歌は、隼人の顔をじっと見て「男の子って不思議だなあ」とつぶやいた。感慨深げな言い方に、隼人は首を傾げる。月歌は「なんでもない」と笑う。
「でも、たまには息抜きもしないとね。ってわけで、今からナナたちとお菓子作るんだけど……手伝ってくれる?」
「わあ、楽しみ! もちろんだよ!」
隼人は勢いよく立ち上がった。
◇
「ふんふん」
隼人は薄力粉をはかりにかけ、ふるっていた。バターも切って、卵と同じく常温に戻したし、あとは型紙を作って……隼人は鼻歌交じりに作業をする。恒例のことなのでならしたものだ。それに、無心で作業していると、頭がやわらかくなる気がする。月歌の言うとおり、息抜きって大切だ。ボウルのチェックをすると、隼人はソファの向こうに声をかけた。
「お姉ちゃん、ナナさん、アオイさん。準備できました!」
三人は参考書から顔を上げ、歓声を上げた。
「ハヤちゃん、ありがとー!」
言うがはやいか、ソファから身を起こして、テーブルに集まる。アオイが、「おお」と感心したように声をあげた。
「あいかわらず完璧ですね」
「えらーい! よしよし」
手放しに誉められて隼人ははにかんだ。ナナがぐるぐると肩を回す。
「さーー作るぞ! もう勉強勉強で肩こっちゃって!」
「お疲れさまです」
「ハヤちゃーーん、やさしいのはお前だけだよっ」
「こら! 私の弟だぞ!」
抱きつこうとしたナナを、月歌が止める。アオイがその隙にバターの味見をしようとしていた。
「こら、アオイ!」
「これをパンに塗ったら極上なのでは……」
ナナが叫んで、アオイからバターを取り上げた。どたばたと騒ぐ二人に、月歌が苦笑する。
「いつもありがと、隼人」
「ううん。俺こういうの得意だから」
「偉いなあ」
月歌たちはお菓子づくりが好きなのだが、準備片づけ全般が苦手で、隼人はその役を担っていた。隼人はその報酬にお菓子をもらうという、互いにハッピーな協定ができていた。
「今日はパウンドだから、ハヤちゃん、楽しみにしててね!」
「はい!」
作業モードに入った月歌たちと入れかわりに、隼人はソファに向かったのだった。
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