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第三十八話 月が綺麗
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「なんだかなあ」
ハヤトロクを眺めながら、隼人は首を傾げた。戸惑いながらも、今日の出来事を書き出した。
“
タイチとの交信の書を、ユーヤは弾き飛ばした。
”
「いや、待て待て。一ノ瀬くんは龍堂くんとのLINEのこと知らないか」
消しゴムで書いた一節を消し、剣を蹴飛ばされた、として置く。
“
「なぜこのような真似をする? なんの意味があるのだ」
”
「そうなんだよなあ」
ハヤトの疑問に、隼人もまた頷いた。ユーヤは何であんなに怒ってくるんだろう。これは、こんなことになってから幾度となく隼人の中で繰り返された疑問だった。
「やっぱり最初が悪かったのかな。でも、それにしたって度が過ぎてると思うんだけど」
どんなふうに決着をつけたらいいんだろう。ハヤトロクでは、最初の予定ではユーヤとは価値観や思想のすれ違いで衝突していたが、剣をまじえたり共に戦ったりしたことで、最後は友達になる予定だった。
けれども、いま、それは叶うのだろうか。
「ハヤトは出来るだろうけど。問題は俺だな……」
正直なところ、気がかりはそこだった。握手を交わすにはユーヤが自分をよく思っていない、そこも大きな問題だろう。しかし、隼人自身、ユーヤに対してもやもやした気持ちが大きすぎるのだ。
このままでは、たとえユーヤが隼人を見直したって、握手なんて出来そうにない。隼人はノートに突っ伏す。
「隼人……なんでそんなに潔くなれるんだ。俺は、執念深い」
ぐるぐるした感情をかかえていると、LINEの通知が鳴った。隼人は、ぱっと飛び起きるとスマホに手を伸ばした。
『今いいか』
とだけ一言。隼人はすぐさま『うん』と返す。すると、すぐに電話がかかってきた。
「龍堂くん、こんばんは」
「おう」
「どうしたの?」
「何も。ただ、月が綺麗だったから」
「えっ」
隼人はすぐに、カーテンと窓を開けた。身を乗り出して外を見上げると、「わあ」と感嘆した。白い月がこうこうと、星に囲まれて輝いている。
「本当だ。すごく綺麗だね」
「だろ」
「へへ……龍堂くん、今、外?」
「ああ」
「やっぱり」
当てて少し得意になる。電話の向こうの龍堂は、静かだけどどこか開けた、独特の外の気配があったから。
「中条は、中か」
「うん。あっでも、今から歩きに行くよ」
「へえ?」
「毎日歩いてるんだ」
隼人はにこにこと自身の出来立ての習慣を話した。龍堂は「ふうん」と相槌をうち、少しだけ黙った。
「どうしたの?」
「いや……中条の家ってどこだ?」
「△町だよ」
「そうか」
そうしてまた少し黙る。隼人は不思議になって、「龍堂くん?」と尋ねた。龍堂は「いや」と答えた。
「お前に会いたくなったから」
「えっ」
「聞いたら思いのほか近いし、引っ込みがつかないだけ」
隼人は顔が真っ赤になった。ばたばたと顔の火照りを冷ます。
「お、お俺も会いたい!」
隼人はなかば叫ぶように言って、慌てて口をおさえた。電話の向こうで、龍堂が笑ったのが聞こえる。
「じゃあ、歩道橋で落ち合おう」
「す、すぐ行くから待ってて!」
「ゆっくりでいいよ。月を見て待ってるから」
隼人は比較的おしゃれに見えるウェアを着て、家を飛び出したのだった。
ハヤトロクを眺めながら、隼人は首を傾げた。戸惑いながらも、今日の出来事を書き出した。
“
タイチとの交信の書を、ユーヤは弾き飛ばした。
”
「いや、待て待て。一ノ瀬くんは龍堂くんとのLINEのこと知らないか」
消しゴムで書いた一節を消し、剣を蹴飛ばされた、として置く。
“
「なぜこのような真似をする? なんの意味があるのだ」
”
「そうなんだよなあ」
ハヤトの疑問に、隼人もまた頷いた。ユーヤは何であんなに怒ってくるんだろう。これは、こんなことになってから幾度となく隼人の中で繰り返された疑問だった。
「やっぱり最初が悪かったのかな。でも、それにしたって度が過ぎてると思うんだけど」
どんなふうに決着をつけたらいいんだろう。ハヤトロクでは、最初の予定ではユーヤとは価値観や思想のすれ違いで衝突していたが、剣をまじえたり共に戦ったりしたことで、最後は友達になる予定だった。
けれども、いま、それは叶うのだろうか。
「ハヤトは出来るだろうけど。問題は俺だな……」
正直なところ、気がかりはそこだった。握手を交わすにはユーヤが自分をよく思っていない、そこも大きな問題だろう。しかし、隼人自身、ユーヤに対してもやもやした気持ちが大きすぎるのだ。
このままでは、たとえユーヤが隼人を見直したって、握手なんて出来そうにない。隼人はノートに突っ伏す。
「隼人……なんでそんなに潔くなれるんだ。俺は、執念深い」
ぐるぐるした感情をかかえていると、LINEの通知が鳴った。隼人は、ぱっと飛び起きるとスマホに手を伸ばした。
『今いいか』
とだけ一言。隼人はすぐさま『うん』と返す。すると、すぐに電話がかかってきた。
「龍堂くん、こんばんは」
「おう」
「どうしたの?」
「何も。ただ、月が綺麗だったから」
「えっ」
隼人はすぐに、カーテンと窓を開けた。身を乗り出して外を見上げると、「わあ」と感嘆した。白い月がこうこうと、星に囲まれて輝いている。
「本当だ。すごく綺麗だね」
「だろ」
「へへ……龍堂くん、今、外?」
「ああ」
「やっぱり」
当てて少し得意になる。電話の向こうの龍堂は、静かだけどどこか開けた、独特の外の気配があったから。
「中条は、中か」
「うん。あっでも、今から歩きに行くよ」
「へえ?」
「毎日歩いてるんだ」
隼人はにこにこと自身の出来立ての習慣を話した。龍堂は「ふうん」と相槌をうち、少しだけ黙った。
「どうしたの?」
「いや……中条の家ってどこだ?」
「△町だよ」
「そうか」
そうしてまた少し黙る。隼人は不思議になって、「龍堂くん?」と尋ねた。龍堂は「いや」と答えた。
「お前に会いたくなったから」
「えっ」
「聞いたら思いのほか近いし、引っ込みがつかないだけ」
隼人は顔が真っ赤になった。ばたばたと顔の火照りを冷ます。
「お、お俺も会いたい!」
隼人はなかば叫ぶように言って、慌てて口をおさえた。電話の向こうで、龍堂が笑ったのが聞こえる。
「じゃあ、歩道橋で落ち合おう」
「す、すぐ行くから待ってて!」
「ゆっくりでいいよ。月を見て待ってるから」
隼人は比較的おしゃれに見えるウェアを着て、家を飛び出したのだった。
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