ハヤトロク

白崎ぼたん

文字の大きさ
上 下
36 / 64

第三十六話 自分の心

しおりを挟む

「俺は、おろかだ。自らの怒りにのまれ、自分を思ってくれる者の顔を忘れるところだった」

 ハヤトは自嘲した。彼のまぶたの裏に、優しい姉の笑顔が浮かぶ。そう、だからこそ彼はけして下を向くだけで終わりはしない。
 彼はまっすぐに親友の目を見つめた。この目が、気づかせてくれた。

「俺にはお前という友がいる。それだけで、俺は無限に強くなれる。タイチ、お前がいる限り、俺は無敵だ」

 ハヤトは自分の心をさし示した。



「……ぐすっ」

 涙をぬぐい、隼人はペンを置いた。

「いいシーンだなあ。うう、ハヤト、本当に気づいてよかったね」

 隼人はぎゅっとノートを抱きしめる。久しぶりのハヤトとの交信だ。

「うーん、やっぱり俺、ハヤトロクが大好きだな。すっごく勇気もらえる」

 最近、ずっと気持ちが切羽詰まっていて、ハヤトに頼れない日々が続いていた。というよりも、ハヤトも悩んでいて、答えが出なかったのだ。
 ユーヤに陥れられ、タイチに相応しくないとまで思い詰めたハヤト。しかし、姉のルカの激励と、タイチの信頼によって、自分がひとり殻に閉じこもっていたことに気づくのだ。
 “たとえ今はかなわなくとも、諦めなければかならずかなう。そう信じられる心がある限り、俺は無敵だ――。”

「まさか、俺が戦うことで、ハヤトも前に進めるなんて思わなかった」

 理想の自分の助けになれるなんて、隼人は感無量だ。

「ハヤトは俺と違って完璧で、そこがカッコいいと思ってたけど、そうじゃないのかも。悩んでるハヤトも好きだ。深みが増したっていうか……」

 などと玄人ぶったことを呟き、隼人は鼻歌を歌った。そのとき、スマホの通知が鳴る。

「おっと。ウォーキングの時間だ。今日はご飯もおかわりしたし、たくさん歩かないと」

 いそいそと隼人は立ち上がる。期末試験の結果に、両親ともに喜んでくれた。でも、二人の喜びの理由はそれだけじゃなく見えて、隼人は皆が自分を心配していること、その上で見守っていてくれることに気づいた。
 それでつい嬉しくて、たくさんご飯を食べてしまったのだ。

「自主勉もしなくちゃだし……忙しいなあ」

 そう言いながらも、隼人の心は晴れやかだった。今日は問題に向き合うのが楽しみだ。解けなくても、解けるまでぶつかればいい。むしろ解く楽しみがあるじゃないか――未知へ向かう喜びが、隼人の心の中を満たしていた。



 期末試験がおわったから、もうすぐ夏休みだ。アスファルトを弾むように歩きながら、隼人は空を見上げる。

「会いたいな、夏休みも……」

 学校に会いたい人がいるから、夏休みが来なくていいなんて思うのは初めてだ。星に龍堂の姿を描く。

「そうだ!」

 思いつき、隼人はスマホをぎゅっと握った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

元生徒会長さんの日常

あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。 転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。 そんな悪評高い元会長さまのお話。 長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり) なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ… 誹謗中傷はおやめくださいね(泣) 2021.3.3

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

学園王子と仮の番

月夜の晩に
BL
アルファとベータが仮の番になりたかった話。 ベータに永遠の愛を誓うものの、ある時運命のオメガが現れて・・?

【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ

月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。 しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。 それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく

かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話 ※イジメや暴力の描写があります ※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません ※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください pixivにて連載し完結した作品です 2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。 お気に入りや感想、本当にありがとうございます! 感謝してもし尽くせません………!

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

処理中です...