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BAD BITCH 11
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橋本くんと千夏と物件巡りに行ってから数日後にななみから連絡があったので、会社の近くのカフェで会った。
実物の瀬川ななみは、見ているだけで気が動転しそうなくらいに可愛いらしかった。
男の子みたいなフリースのジャケットにニットキャップをかぶり、メイクもほとんどしていないのに、乾燥にも脂浮きにも無縁な、赤ちゃんみたいに柔らかそうな肌をしていた。ほんの少し目じりの上がったいたずらっぽい子猫みたいな目に、高すぎも低すぎもしないすっきりした鼻に、一流のパティシエが作ったお菓子みたいにふっくらとした唇。それだけでも眩暈がしそうなくらいに可愛いのに、フリースのジャケットの下の黒いTシャツの胸は嫌味かと思えるくらいにくっきりと盛り上がり、色落ちしたデニムに包まれた脚は、可愛らしい顔立ちとは不釣合いなくらいにすっきりと長かった。
持ってきた履歴書を預かり、仕事があればこちらから連絡すると告げると、ほかに話すことはなかった。まさか、ブログを更新のたびに食い入るように見ているとか、別れた婚約者がファンでしたなんてことは言えないし、二百万円で一か月愛人にしたいってブログ経由でメッセージが来たはずだけどなんで返信しないんですかとか、などということは聞けなかった。
「あの、今すぐ仕事ないですか? 家賃滞納してるんで、払えないと追い出されちゃうんです。本当に、コスプレ撮影会とかでもいいんで」
そこまで困窮しているのか。坂口清次みたいなお大尽が周りにいくらでもいて、生活に困ることなんかないと思っていた。
「うちの会社はモデルプロダクションじゃないから、撮影会とかそういうのはないんですよね。あくまで出版社やウェブサイトから記事の作成を請け負ってるだけの会社なので」
ななみの顔にありありと落胆の表情が浮かぶ。
「わかりました。では、ご連絡お待ちしてます。でも、ちょっと忙しくなるかも知れないので、お仕事はお受けできるかどうか……」
さっきまでは、家賃が払えないからすぐに仕事が欲しいと言っていたのに、いきなり掌を返したように、忙しくなるから仕事は受けられないと言われ、朋子は戸惑ってななみの顔をまじまじと見つめた。
「あ、すみません。こちらからお仕事くださいってお願いしておいて、忙しくなるとかめちゃくちゃなこと言っちゃってごめんなさい。実はAVの出演を打診されてて、やっぱりそれをやるしかないかなあと思って。でもAV新法の関係で、契約してからすぐには撮影できないから、それまでは風俗やるしかないかなと思って。普通のバイト、できないんですよわたし。ショップ店員のバイトを見つけて、採用されたのに、マスコミに嗅ぎつけられて店に迷惑かけたので。今日はお時間いただいて、ありがとうございました」
ななみはそう言って席を立った。
AVとか風俗って、ちょっとそこまで一気に行かなくても。
「あの、ちょっと待って。すごく言いにくいんだけど、わたしの知り合いに、ななみさんのファンがいてね。お金持ちでも派手な経歴を持った人でもないんだけど、それなりに信用できる人で……」
愛人なんてとても言えなくて、言葉を濁した。生まれたての小動物みたいに可愛い女の子に、そんなことを言ったら、その場で倒れてしまうかもしれないと思った。
「それって愛人ってことですか?わたし、高いですよ」
ななみは、まっすぐに朋子の顔を見て言った。さっきまでわざと焦点をあいまいに保っていたような瞳から、硬い芯の通った強い視線が投げかけられる。
「え、あの……そうね。そういうこと。ななみさんを愛人にするのが夢って言ってたから」
言ってしまってから、つくづく祐介は馬鹿だなあと思って溜息をついた。。
でも、祐介にとっては結婚よりもマンション購入よりも、はるかに優先順位の高いことなのだ。
「そうなんですか。とりあえずその人の連絡先を教えてもらえませんか?」
まさか、ななみが祐介の申し入れを受けるとは思えなかったけど、祐介の連絡先を伝え、ななみとは別れた。
実物の瀬川ななみは、見ているだけで気が動転しそうなくらいに可愛いらしかった。
男の子みたいなフリースのジャケットにニットキャップをかぶり、メイクもほとんどしていないのに、乾燥にも脂浮きにも無縁な、赤ちゃんみたいに柔らかそうな肌をしていた。ほんの少し目じりの上がったいたずらっぽい子猫みたいな目に、高すぎも低すぎもしないすっきりした鼻に、一流のパティシエが作ったお菓子みたいにふっくらとした唇。それだけでも眩暈がしそうなくらいに可愛いのに、フリースのジャケットの下の黒いTシャツの胸は嫌味かと思えるくらいにくっきりと盛り上がり、色落ちしたデニムに包まれた脚は、可愛らしい顔立ちとは不釣合いなくらいにすっきりと長かった。
持ってきた履歴書を預かり、仕事があればこちらから連絡すると告げると、ほかに話すことはなかった。まさか、ブログを更新のたびに食い入るように見ているとか、別れた婚約者がファンでしたなんてことは言えないし、二百万円で一か月愛人にしたいってブログ経由でメッセージが来たはずだけどなんで返信しないんですかとか、などということは聞けなかった。
「あの、今すぐ仕事ないですか? 家賃滞納してるんで、払えないと追い出されちゃうんです。本当に、コスプレ撮影会とかでもいいんで」
そこまで困窮しているのか。坂口清次みたいなお大尽が周りにいくらでもいて、生活に困ることなんかないと思っていた。
「うちの会社はモデルプロダクションじゃないから、撮影会とかそういうのはないんですよね。あくまで出版社やウェブサイトから記事の作成を請け負ってるだけの会社なので」
ななみの顔にありありと落胆の表情が浮かぶ。
「わかりました。では、ご連絡お待ちしてます。でも、ちょっと忙しくなるかも知れないので、お仕事はお受けできるかどうか……」
さっきまでは、家賃が払えないからすぐに仕事が欲しいと言っていたのに、いきなり掌を返したように、忙しくなるから仕事は受けられないと言われ、朋子は戸惑ってななみの顔をまじまじと見つめた。
「あ、すみません。こちらからお仕事くださいってお願いしておいて、忙しくなるとかめちゃくちゃなこと言っちゃってごめんなさい。実はAVの出演を打診されてて、やっぱりそれをやるしかないかなあと思って。でもAV新法の関係で、契約してからすぐには撮影できないから、それまでは風俗やるしかないかなと思って。普通のバイト、できないんですよわたし。ショップ店員のバイトを見つけて、採用されたのに、マスコミに嗅ぎつけられて店に迷惑かけたので。今日はお時間いただいて、ありがとうございました」
ななみはそう言って席を立った。
AVとか風俗って、ちょっとそこまで一気に行かなくても。
「あの、ちょっと待って。すごく言いにくいんだけど、わたしの知り合いに、ななみさんのファンがいてね。お金持ちでも派手な経歴を持った人でもないんだけど、それなりに信用できる人で……」
愛人なんてとても言えなくて、言葉を濁した。生まれたての小動物みたいに可愛い女の子に、そんなことを言ったら、その場で倒れてしまうかもしれないと思った。
「それって愛人ってことですか?わたし、高いですよ」
ななみは、まっすぐに朋子の顔を見て言った。さっきまでわざと焦点をあいまいに保っていたような瞳から、硬い芯の通った強い視線が投げかけられる。
「え、あの……そうね。そういうこと。ななみさんを愛人にするのが夢って言ってたから」
言ってしまってから、つくづく祐介は馬鹿だなあと思って溜息をついた。。
でも、祐介にとっては結婚よりもマンション購入よりも、はるかに優先順位の高いことなのだ。
「そうなんですか。とりあえずその人の連絡先を教えてもらえませんか?」
まさか、ななみが祐介の申し入れを受けるとは思えなかったけど、祐介の連絡先を伝え、ななみとは別れた。
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